
今、面接官研修が盛況だ。ここ数年、企業の採用活動では、エントリーシートでの選考より、まずは面接をした上での選考が増えている。そのため企業は、面接者の確保とともに面接官の研修に精力的に取り組んでいる。既に研修会社では、昨年よりはるかに多くの会社が、早期に社内研修を実施している。企業も面接予定者を研修したり、外部の研修会に参加させている。
今、面接官研修が盛況だ。ここ数年、企業の採用活動では、エントリーシートでの選考より、まずは面接をした上での選考が増えている。そのため企業は、面接者の確保とともに面接官の研修に精力的に取り組んでいる。既に研修会社では、昨年よりはるかに多くの会社が、早期に社内研修を実施している。企業も面接予定者を研修したり、外部の研修会に参加させている。
この盛況ぶりには、3つの背景が挙げられる。まず、企業の人材への旺盛な意欲が高まっていることである。膨大な応募者をなるべく多く面接し、その応募者についてしっかり観察し、いち早く良い人材を発見しようとしている。次の理由は、採用活動におけるCS(顧客満足)の普及である。採用だけでなく、商品・サービスのイメージアップを積極的にはかろうとしている。従来からの旅行、家電、通信、衣料だけでなく、最近では金融、食品、パチンコといったようにあらゆる消費財、若者サービスの企業が、懇切な採用活動(とくに面接)を展開している。これが書類選考だけでなく、面接で選考し、落ちた学生にも配慮していくという姿勢に変わったのである。
さらに3つ目の背景として見落とせないのが、採用担当者の経験不足や人材の層の薄さである。実は最近の採用担当者は、この間の人事採用部門のリストラ、アウトソーシングによってベテランが職場を去り、若手か未経験者ばかりで、経験不足になってしまっていたからである。採用活動や面接について聞くべき先輩がおらず、まさしく素人集団となってしまっている。研修をしてノウハウを導入しないと採用が十分にできなくなっているからだ。そのせいか最近は、しきりに「採用マニュアル」はないかという声が聞かれる。
ところで、いま隆盛の面接官研修だが、気づいたことをひとつあげておこう。採用担当者の質問下手ということである。多くの担当者は、いまだに学生の希望や意欲を聞きたがる。「なぜ当社を希望したのか」「入社したら何をしたいか」といった質問である。やる気や意欲をみたいという目的なのだろうが、聞いたところで、使える人材かどうかわからない。もっと何ができるのか、何をやってきたのか、成果をどう活用するのかといったスパイラル型質問に向かってほしい。そのためには企業が知りたいこと、学生が答えたいことがクロスするゾーンにある質問がほしい。
もちろん、面接での質問は、求める人材像とリンクさせておく必要があるが、応募者の状況、行動、結果を行動実績として聞き出し、評価する手法である。ここでのポイントは、質問する力である。効果的な質問が応募者の満足度を高め、質問者は応募者の能力を測定しなくてはならない。ここが十分にできていないのである。
また、今年の傾向としてグループデイスカッション(GD)の急増があげられる。これは応募学生の満足度を高めることができることと、採用担当者の質問下手やマンネリを防ぐことにもなる。しかし、その評価となるとなかなか難しい。そのため、このGDをどう進行し、評価するかという研修も活発になってきている。このようにして採用戦線06は、既に始まった。
(2005.1.24)
来春大卒者の採用活動は、今がピークである。多くの学生は、既にエントリーシートを各社に提出、会社側からの会社説明会や面接試験に参加している。そのため東京、大阪などの都心のイベントホールやホテルは、どこでも学生のスーツ姿で大盛況だ。
会社側にとって、会社説明会は2月末まで連日続き、3月上旬で一区切りがつく。それからは面接となり、4月上旬で内定を出し、前半戦が終わる。このペースは、昨年に比べて約2週間遅い。それに内定の噂は、メーカーの一部や中堅企業、大量採用企業で聞かれるものの大勢に影響はない。ごく一部の会社にとどまっている。肝心の大手の金融、商社、人気メーカーの面接、内定がそれほど進んでいないからだ。これらの企業の早期内定抑制には、昨年、署名した倫理憲章が存在するからだ。これによって「最終学年(4年生)に達していない学生に選考するのは自粛」している。そこで、現在のところ大手、人気企業の内定は、4月以降になると予想されている。そこでも気になるのが、3月から4月にかけての期間。大手企業は、どうしているのだろうか。
今年の採用活動では、会社説明会が変化しているのが注目される。これまで会社説明会といえば、企業が多くの不特定学生に会社の現況、将来展望、採用方針などを説明する場であった。それが今年は、説明するだけにとどまらず、かなり中身の濃いものに変わってきている。それに会社説明会に呼び込む学生のセレクションもきめが細かくなっている。エントリー者全員がOKというのでなく、前提としてネットでの試験やワークショップでの自己診断をさせた後に「抽選」というシステムで学生を特定、その学生向けに会社説明会を開催するという企業が増えた。抽選とは、公開でもないし、どのような基準なのか疑問だが、これでかなりの人数が落とされる。多すぎる応募者と早期選考への対抗策といえよう。その「抽選」による会社説明会にしても、今年は先輩がたくさん出てきたり、部門の責任者や役員が出てきたりして、会社説明会を採用活動の重要な局面と考え、一気に学生を押さえ込もうという意欲を示している。
そのため、多くの会社では先輩社員との懇親会、情報交換会さらにはグループディスカッションを行うところもあらわれた。会社説明会が、学生ひとりひとりの志望度の確認や態度、能力をその場で観察するという面接、選考の場となっているのだ。早期選考ができないために企業側が編み出した工夫だが、会社説明会が変質したといってよい。
また、今年は会社説明会と短期のインターンシップの複合体が現れたことにも注目してほしい。これは、1日あるいは数日間の就業体験やワークショップ、グループディスカッションで会社の実情や仕事内容の理解、雰囲気を体験してもらうというのが目的だが、参加学生の「コミュニケーション能力」とか「論理力」「共感性」などを観察することも目的だ。こうした目的のためには、1日もあれば十分という。つまり、会社見学会、会社体感セミナー、半日インターンシップという名目の選考会である。これが、有力な採用方法としていくつかの企業で登場してきた。
このように3月末までは、企業は倫理憲章を十分に意識しながらも、従来とは違うアプローチで面接や選考を仕掛けている。積極採用をしたい企業は、この時期の活動実績で採用の成否が決まる。採用活動についての情報収集のアンテナを高く立て、機敏な行動をすることが大事だ。早期活動をしても採用できないとか維持できないとかの考え方もあるが、連休明けから夏休みまでの長期間、採用活動をしたくはないはずだ。今こそ新しい会社説明会の方式を学び、独自の工夫をしてこの1ヶ月間、ちょっと仕掛けてみることが緊急の課題だ。
(2005.3.28)
今月から本格化した来年の新卒採用をみると、雇用のあり方や採用の方法が変わってきていることに気がつく。従来からあるような全員が総合職で幹部候補、来春4月に一斉に入社してスタートを切るというわけではない。事業展開を担う人材の要件を決めて、必要に応じて大胆に採用していくという人材戦略に転換している。ここには、新卒、中途の区別はない。人材の質に着目した採用が行われている。今年も企業は、どれがベストな採用形態か、新卒採用のなかで模索している。
今年目につく採用形態は、勤務地限定型採用である。これまで新卒で勤務地限定という採用は流通業ぐらいしかなかったが、ここ数年、大手メーカーや金融機関が、地域限定型採用という名称で急速に増やしてきた。なかでも画期的なのが、三菱重工業の配属予約採用(技術系のみ)である。同社では、学生が専門性を生かせるように配属先の事業所まで決定する採用を、昨年から実施している。だから地方の事業所の採用担当者が、全国の大学研究室などを訪問し、求人を依頼したり、工場で面接選考を行ったりしている。学生は、本社に就職するのでなく、三菱重工の事業所、工場に就職することになる。このことによって就職先とやりたい仕事が一致する。学生も職種や配属、イメージとのギャップのない就職ができることになる。工場は、若手人材の採用から能力開発、キャリア支援に責任を持つわけだ。
金融関係では、野村ホールディングスなど証券や銀行業界が、原則転勤のない地域密着型の社員として資産運用アドバイザーであるファイナンシャル・アドバイザー(FA)を新卒として大量採用している。また保険業界も今年から東京海上日動火災や三井住友海上が、全国型と地域限定型の2本立てで新卒を本格的に募集している。その違いは、「転勤の有無」に関する事項のみであり、同じ役割等級であれば同じレベルの仕事を担っていくという。このほかオリックス、三井不動産販売、新光証券なども地域限定社員の新卒採用を導入している。企業の地域重視戦略と少子化時代の採用方式といえよう。
期間限定型採用も増えている。雇用契約期間を1年とか3年に限定する採用方式である。日本航空、全日空、JTB、近ツリ、JR東海、JCB、総合商社などが導入している、職種は、客室乗務員、顧客サービス、一般事務、情報処理などである。いずれも女性が中心であり、短期間の雇用であることを計算に入れた雇用形態である。もちろん、より高いレベルの仕事をめざす意欲や能力のある人には、総合職への転換も用意されている。かつて企業は、これらの職種の採用は派遣として受け入れていたが、最近は社員として採用するようになった。その背景には、人材の質、派遣費用、情報管理といった面であらためて新卒の正社員採用を再評価、その結果、大量採用をすることになった事情がある。この期間限定型の採用は、採用する人数も多く、最近の採用ブームの原動力となっている。この期間限定型は、特定の職種と結びついているから職種別採用と重複するが、勤務地の異動を伴わない、雇用契約は3年以内という有期型であることに特色がある。
職種別採用も確実に普及している。それも、営業企画、財務、法務、知財管理、顧客サービスといったように細分化するのでなく、コース別が多い。ある銀行では、職種を職系ということで募集している。基幹職(革新的課題を創出し金融ビジネスの新たな価値創造を担う)、特定職(業務の円滑な遂行を担う)、プロフェッショナル職(高度なスキルやノウハウを活かす)の3つである。学生に聞きなれない職種名を出して募集するより理解しやすいし、柔軟性があるからだ。説明会でも学生に伝えることは、職種の専門性でなく、仕事の魅力とゼロからのキャリア形成のプロセスを見せることにある。
契約型も話題になっている。三洋電機のオーナーマインド採用は、ハイタレント型契約採用である。これは、新卒者の卓越した企画力や資格、能力、経験を前提に、企業と個人が契約するもので、法務、財務、IT関係などの専門性と職種を結びつけた採用形態である。この契約型には、ワーカー型というのもある。大量採用、高離職率を前提とした業界や職種の企業の採用形態で、仕事のハードさや魅力を体験してもらったうえで社員登用があるという採用形態である。金融・住宅商品の販売職、IT企業のSE職に見られる。
このほか紹介予定派遣もある。今年のように採用ブームと選考が集中する年においては、秋には採用計画人数を充足しない企業が続出するだろう。そのときに導入がはかられるのが紹介予定派遣(もっと直截的には新卒紹介)という雇用形態がある。
このようにさまざまな雇用形態を人気企業が実施することで、来年は、さらに多くの企業に波及すると見られるが、この背景には、貪欲なまでの優秀人材へのこだわりがあるといえよう。
(2005.04.06)
採用活動もほぼ終わった。そこで、今年の学生について採用担当者はどう感じたか、いくつかの企業の採用担当者に話を聞いてみた。
「二極化が進んでいる。夢に向かって努力をし、説明会ではしっかり質問をして、企業をきちんと理解して就職選択をしている学生層と、自分を売り込もうとせず、待ちの姿勢、疑問があっても質問しない学生層の2つにはっきり分かれていた」(メーカー)
「おとなしく、まとまっている学生ばかりが増えた。年々目立つ学生が少なくなり、何かをやってくれそうな期待感を持たせる学生層がとくに少なくなった」(マスコミ)
「自信を持って学生生活を語れる一握りの学生と、アルバイトだけで3年間をなんとなく過ごし、友人も少なく、基礎力不足の学生という2種類の学生が目に付いた」(通信)
いかがだろうか。こうした学生への批判は毎度のことだが、最近は、学生相互の差が目立ち「二極化」しているということで一致している。それも中間層がなく、企業にとって優秀学生、一般学生のどちらかに偏在していることが特徴だ。
学生の二極化の背景にはどのようなものがあるのだろうか。
まず挙げられるのは、学生が大学入試における大学序列化をそのまま引きずっているということである。いわゆる有名大学の学生は、それまでの受験競争の優位性を発揮して就活でも自信を持ち、大手企業に積極的に挑戦する。グループディスカッションでも仕切り役となる。ところが中堅の大学や新興大学の学生は、偏差値を意識して、学校名を聞く企業には応募しない。実力以上のキャリアを望まず、挑戦しない。だから目立たず、実力があっても有名企業にエントリーしないのである。
もちろん、有名大学の学生にも問題はある。実力もないのに自己過信から大手企業に押しかけるという一般学生はいる。つまり二極化は、同じ大学内でも進んでいる。だから二極化といっても大学格差が広がっているわけではない。
学生の職業観の未成熟さ、目標が設定できないということも学生の二極化を際立たせている。これは、大学の就職支援の差によるところが多い。全学的に就職支援体制のある大学の支援をうけた学生は、仲間にも刺激を受けながら、自信をもって就職活動をする。その点、おざなりの就職支援で送り出された学生は、ほかの学生に圧倒され、コンプレックスに陥る。このように、学生をどのように支援しているかという大学の力の差も学生の二極化を拡大させるのである。
さらに、企業の採用形態の変化も影響している。
今年の採用活動でより明確になったが、職種別(コース別)採用が普及している。これによって、学生は、自分たちの実力を自分で測り、挑戦したり、敬遠したりしてコースを選ぶことになった。自信のない学生は、最初から総合職に応募することをためらう。ここでは、自動的に二極化が行われる。今年、金融機関の採用においては、学生の二極化に対応して総合職と一般職をわけて採用したことは、この流れを先取りした採用方式といえよう。
では、こうした二極化した学生のうちの優秀層を、どこが採用しているのか。
圧倒的にトヨタ自動車、ANA、ソニー、サントリー、フジテレビなどである。いうまでもなく現代の勝ち組企業である。企業としての経営規模、企業業績、財務力、国際競争力、労働条件、社会貢献、採用数など、企業価値と仕事価値の優れた企業といってもよい。そして優秀学生の就職動機も経営規模、安定性重視になっているので、彼らはこれらの企業に集中して就職する。強者同士の連合になる。これに対して異色の企業、成長企業、ベンチャーは、優秀層を採ることはできにくくなっている。学生にとって「エキサイティング」とか「若いうちから活躍できる」企業は、魅力がないからだ。産業界における勝ち組企業が、この採用戦線においても勝ち組になり、人材を独占しているのである。
しかも前述したように中間層がなくなっている。人材が、優秀かそうでないかという2つの大きな塊になりつつある。いわゆるデバイデッド(分離)型である。そうなると成長途上の企業は、人材難に陥り、学生に不人気の企業は、一般学生を採用せざるを得なくなる。
これを払拭するために成長企業や中堅企業は、新たな採用形態や選考方法を模索しなくてはならない。そこでは、優秀層でなく、一般学生の中からでも採用担当者自身の目で見て掘り起こし、中間層として評価、採用することが課題になる。これが人材争奪戦で勝ち残るキーである。
(2005.06.14)
今年の採用活動は、採用ブームの到来で混乱が予想されたが、大手企業の多くが倫理憲章を尊重し、順守したことで、秩序ある採用活動が行われた。その実態は、もちろん怪しい部分もあるが、全体として採用選考(内定出し)が4月以降となったことは事実であるだけに、率直に評価するべきであろう。
さて、今回の結果、来年の採用活動はどうなるのだろうか。今年の反省から、企業の採用活動は次の4つのパターンになりそうだ。
採用力に自信のある企業のパターン。採用活動のピークを4月に設定。ただし、会社説明会は、2月から3月に開催する。そして面接は、4月からという倫理憲章の取り決めどおりに実行しようという企業である。総合商社や大量採用する人気企業に見られるパターンだ。就職人気だけでなく採用体制(人員、設備、予算)のある企業でこそ実行できる。大手のメーカーもこれだが、エネルギーの多くを技術系採用(2月、3月に集中)に割いているので、事務系の採用はどうしてもこのスケジュールになる。
問題は、他社と面接や選考、内定が重複しても勝ち抜けるかである。それだけの自信のある企業でないと悲惨な結果になるのがこのパターン。こうした企業は、今年採用を失敗したという話を聞かないので来年も継続されよう。
ますます人材争奪戦が激化すると予想している大手の金融機関のパターン。採用対象となる大学(東大、一橋大、京大など)は、過去の実績から一定数は確保しなくてはならないとこだわる企業だ。それに、これらの大学の学生は、自分から動くというよりゼミやサークル、高校の先輩などに誘われてようやく動くタイプが多い。そこで企業としては、先輩社員を動員してのリクルーター採用となる。今年、この方針を新たに導入する大手の金融機関では、採用の基本ルールを特訓する「リクルーター研修」を実施するという。まるでバブル期だ。
そもそも倫理憲章では、早期における学生との接触は、企業や仕事を具体的に理解するためには結構なことだと推奨されている。そこで先輩後輩という関係において緊密なコミュニケーションが行われるのである。そしてリクルーター面接5回で4月上旬の人事面接となり、即内定となるのである。銀行、証券、保険、通信などの大手企業での伝統的な採用方式で、今年、来年と堂々、復活予定である。
大量採用企業に多いパターン。早期からの説明会、面接を実施し、2月から3月にかけて採用予定数以上の内定を出すが、4月中旬のピークで辞退者をにらんで再び採用活動を開始する。大手人気企業が、4月に集中することによる採用力の違いである。倫理憲章があるのでより鮮明に結果が出てしまう。
課題は、4月以降に再び学生が応募してくれるかが読めず、早期のエントリー者に応募を呼びかけたり、リターンマッチを呼びかけたりしている。
早期からの採用活動はするものの、ピークは大手企業が終わる5月末からだと読んで、採用活動をする企業だ。やや消極的だが、予算や人員体制がない企業ではやむ得ない。しかし、今年がそうだったが、6月になると学生の動きはまるで止まってしまった。一体どこに、という嘆きだった。中堅企業の合同説明会も5月開催のものが人を集めていた。
倫理憲章の定着で、大手は4月、中堅は5月、中小は6月という順序ができつつある。だが、それにしても4月からスタートしておかないと学生の関心を引かないし、説得もできないという。また、「弊社のような中小企業は母集団の形成すらままならないので、倫理憲章に賛同している大手が集中する4月は採用活動をなるべく控えるしかない。去年よりも賛同企業が増えているので4月は完全に避けるようにしている」(サービス)という企業でも、採用できない場合は、夏休み、秋にも採用活動で全国を走り回らなければならなくなる。これも倫理憲章の影響だ。
今年の倫理憲章は、一部の金融やメーカーが遵守しただけだったが、いかにこうした業界、企業が採用戦線で大きな影響力を有しているかが証明されることにもなった。だが今後は、就職活動時期が集中することで大手企業と有名大学が就職市場を独占することになりはしないか、大学中退者や修士卒、第二新卒の増加するなかで新卒者だけにこうしたルールは有効なのかなど、倫理憲章の枠組そのものが崩壊していることにも留意しておかなくてはならない。5年後、倫理憲章は、意味がなくなることは確実だろう。
ところで、来年の倫理憲章の検討は、すでに始まっている。日経団は、7月1日に主要業界の採用担当者を集めて「総括懇談会」を行い、新卒採用の実情についての意見交換をしたという。そこではソニーのフレックス採用の事例などが紹介されるなど、新しい採用選考への模索も始まっているが、来年の憲章はどうするかを決めなくてはならない。そのために、8月には大学関係者に話を聞いて、来年の倫理憲章の方針を決めるという。さて、どうなるか。
(2005.07.26)
やっと採用活動を終えたものの、9月ともなれば、採用担当者としては、内定者を確定し、10月1日の内定式の準備にとりかかると同時に次年度の採用活動をスタートする時期である。だが、内定した学生にとっては、この9月から来年3月の入社まで半年もある。まだまだ学生は、迷い、悩み、不安がつきない。そこで、この期間をいかに上手にフォローするかが、採用担当者の重要な仕事となる。
一般に内定者は、5月の内定直後と10月の内定式の前に迷いが生じる。5月の時点では、早すぎた内定への反省、他社からの誘惑、不本意内定という理由による内定辞退であるが、9月末の内定辞退は、進路の転換組(留学、資格留年、就職浪人、無業)、秋採用への転進組、それに就職そのものへの不安組という3つのタイプに分けられる。
いずれのタイプも、採用担当者が日常的に面談をしていれば分かるものだが、多くは、企業と内定者の連絡活動の中に出る。例えば、次のような兆候である。
この兆候が第6段階までくると、「連絡がつかない → 行方不明 → 内定辞退」となる。これでは、手遅れだ。
そこで対策だが、上記の進路の転換組は、キャリア志向が強いのだから、ビジネスの魅力、入社後のキャリアパス、若手社員への期待、自社の人材の優秀さ、豊富さを伝えておかなくてはならない。その方法としては、まず現場の成績優秀者や技術者との交流が一番だろう。その際、若手から役員にいたるまでが内定者に語りかけることは、きわめて有効だろう。
これに対して秋採用への転進組は、本来が積極人間なので、相当数が4月からポロポロ抜け落ちて来たであろうが、他社より当社のほうが実力を発揮でき、企業の成長性もあるのだということを知ってもらいたいところだ。会社の実力、業界での地位、経営者や社員の魅力といった社風が重要なポイントになる。そのためには、若手社員や経営者との懇親や工場見学、同行見学(仕事の後姿をみる)などを実施するのも有効だ。
一番やっかいなのは、就職そのものへの不安組である。内定したことに喜びを感じながらも働くことへの不安、自分の能力やスキル、性格に対する不安を持つ。思ったより仕事内容が難しそうだ、成果主義というが、自分は大丈夫だろうか、要求される能力をどのようにつけていけばよいのか、などと悩む。これを放置しておくと入社後に適応不全型になってしまう。どうしても働く気になれない、これからの会社生活に自信がない、どんな目標を持ってよいのかわからない、自分はダメだと、内面の世界に落ち込んでいく、という。
では、どうしたらよいか? 内定者懇親会、先輩社員によるフォロー、店舗・工場見学、アルバイト、ときには、人事スタッフによるケアを継続的に行っておかなくてはならないが、最も効果があるのは、友人のアドバイスだという。
このようにさまざまな不安と迷いを持った内定者に対し企業は、上記のような情報提供やアプローチ、多彩な教育プログラムを導入しているが、ここでは、学生にとってもっとも人気があり、企業としても歓迎している「内定者掲示板」の活用を薦めたい。
これは、基本を会社側が用意するものだが、企画、製作、運営は、内定者が行うものである。内定者相互の自己紹介、連絡網、意見交換、会社情報交換、懇親ルームがその内容である。まさしくネット時代のプログラムである。このなかで会社に対する不安、自分の能力に対する自信喪失、本音で知りたいことが議論され、提言される。自主的に運営されることで、内定者が内定者と緊密になり、入社へのモチベーションを高めていく。
上手くいくかどうかは内定者の問題意識だが、その舞台を用意する企業の演出も大事だ。これができるかどうか、採用担当者と内定者とのコミュニケーションが前提だが、それが出来ないようでは、内定者対策は危ういことになろう。
(2005.09.12)
10月上旬の内定式が終われば、いよいよ採用戦線07のスタートだ。すでに採用のホームページをオープンした企業もある。来年は、新卒を採用するのが今年以上に困難な環境になると見られている。それだけに、いまから採用活動については当面、次の3点を点検しておきたい。
最近の採用計画の決め方は、中期的(5年前後)な事業展開を考慮して決める傾向にある。そのため人事主導ではなく、営業、販売、技術という現場からの要求が、そのまま採用計画になっている。ここでは、自社の採用力を無視した要求がしばしば出てくる。
採用担当者としては、経営層を巻き込んで採用環境の変化や要求する人材の質、自社の採用力を反映させなくてはならない。目標数字がどれほど実現可能か、また自社の人材ニーズをそのまま数字にしても採用できる保障はないことを訴えながら、営業現場などに採用活動への理解を得ておく必要がある。また採用計画人数は、いまの時点ではきっちりした数字までは出せないだろうが、「昨年なみ」「大幅増」「減」といった方向性は示し、大学や学生からの問い合わせに対応できるようにしておきたい。
この採用人数についても、採用形態が多様化しているなら、これも公表して応募者に周知をしておく。とくに職種・コース別、勤務地域、契約型など学生の関心も高いので、早期に決定しておかなくてはならない。これからの採用ターゲットの設定、採用活動のテンポが違ってくるからだ。
10月からは、5,000社におよぶ企業が各種就職サイトで一斉に採用PRを展開する。そのとき自社のホームページやeメール、DM、入社案内などで、それぞれのセンスと能力を発揮することになる。採用活動において不可欠のツールであるだけに、上手に使えば効果は大きい。とくに知名度の低い中堅企業にとって、採用PRは、工夫次第で学生を魅きつけるチャンスがあるので重要である。
例えば、社長の創業ストーリーをドキュメント風にして動画配信したり、25歳の若手社員の生活と意見をブログにして配信したりと、キャラクターを前面に出すPRも登場しそうだ。携帯電話やネットラジオを活用した情報提供も話題を呼びそうだ。なかには、アナログ手法で勝負する企業もある。新聞に広告したり、イベントとしての会社セミナーを企画、通学バスの胴体に告知する手法である。
なお、就職サイトに参加するにあたっては、数千社を収録する巨大なものに参加するのでなく、数百社程度でよいから、特色あるサイト(業種別、ベンチャー、企業ニュース主体、就職ハウツー)に参加するべきだろう。業種や企業別の検索で企業を発見するほど学生は悠長ではないからだ。
来年の採用活動の展開を予想することは、常に行う必要がある。全体の動き、ライバル企業の動き、自社の活動計画を睨んでシミュレーションをしておかなくてはならない。
現在のところ、11月~12月にオープンセミナーがピークを迎え、翌年2月に学生と企業の接触がピークとなり、4月上旬に山を越えるというのが一般的な見方だが、昨年採用できなかった企業が早期化し、2月に拘束にかかることも予測されるので、油断はできない。とくに警戒したいのが年内に開催される学内セミナーとOBによるリクルート活動である。すでに銀行の中には、ホームページをオープンし、リクルーター研修を終えている。
これにともない、採用体制の早期配置が問題になる。待っている採用体制なら少数のスタッフと採用管理システムでよいが、攻めの採用をするならリクルーターなり、随時面接のための体制と研修をはじめなくてはならない。
昨年より油断ならないのが、今年の採用活動である。スタートにあたってこのあたりを確認しておこう。
(2005.10.05)
求人ブームに沸いた05採用だったが、この熱気は来年の採用にも続きそうだ。
今年10月下旬、大学3年生向けの就職サイトは、一斉にオープンした。キャンパスでは、企業セミナーが連日開催されている。とくに国立大学が熱心で、北大、東大、一橋大、東工大、京大、阪大と、主要国立大学でも大学当局だけでなく自治会、OB会、生協などの主催で就職セミナーが開かれている。
当然、主要企業は、来年の採用活動をスタートさせ、リクルーターの手配を終えている。どの業界も採用意欲は旺盛で、来年は、バブル期並みの採用ブームになりそうだ。背景には、企業業績の好調ぶり、次世代経営者の早期養成、少子化の進展、2007年問題などがある。
採用動向を業界別に見てみよう。
まず業績回復を果たしたメーカーは、絶好調のトヨタ、キヤノン、資生堂、サントリー、旭化成など「勝ち組」が依然として積極採用になりそうだ。また就職人気と大量採用で採用戦線において大きな影響力を持つ金融業界は、昨年よりさらに増加となりそうだ。とくに不良債権問題にけりをつけたメガバンクは、企業統合、リストラを完了し、大幅な業績回復、リテイル分野重視ということで、1000人から2000人規模の採用を続けると見られている。一般職の採用がどれくらい膨らむかで、採用数も大きく変わる。
証券業界は、株式市況の回復で積極営業の路線を強め、一気に大量採用も出てこよう。地域や個人重視の金融サービス発展により、銀行だけでなく、証券、保険の新卒採用においてエリア採用と契約型という新採用制度が普及し、新卒採用をさらに活発なものとしている。さらに地方経済の回復は、地域金融機関、地方メーカーの新卒採用に反映、採用増の傾向が見られる。
一方、総合商社は、ここ数年100人から150人という総合職中心の採用数で、大きな変化はない。採用数が増えそうなのは、準大手の専門商社である。
来年注目されるのは、総合電機メーカーである。日立、東芝、三菱電機、日本電気などは、これまでも500人以上の大量採用(7割は技術系)を続けてきたが、来年はさらに増加するとみられる。これに対してリストラ中の三洋電機は、「未定」というが、採用抑制になることが予想される。ソニーも経営環境悪化で今年並みの230人前後の採用と足踏みが予想される。学生の人気の高い情報通信では、NTTデータ、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモなど大手で200人前後の安定採用モードである。このほか住宅、建設、機械、化学などの業界では、上場復帰や再生した企業が多く、採用戦線に復活することが予想される。
新卒採用に消極的な企業もある。IT、医薬、流通、外食、サービス業のなかのトップ企業である。どこの企業も採用意欲は旺盛だが、新卒学生が計画どおり採用できないからだ。昨年、大量採用を宣言した大手IT企業も、内定辞退続出で計画数の7割しか採用できなかった。そのため、新卒でなく第二新卒、学歴不問採用、紹介採用、派遣採用という補完的な採用方式に移行しつつある。ここには、採用できる人数の目標を下げて採用活動にのぞむという変化が出ている。
これが来年の採用計画の見通しだ。企業は、激戦を予測して、現在は母集団づくりに集中している。そのための業界セミナー、学内説明会、リクルーター派遣は、年末から来年1月末にかけて囲い込みとなっていよいよピークを迎える。
来年は、大手の人気企業といえども「厳選採用」と構えてはいられなくなりそうだ。この本格的な採用ブームによって、採用担当者の間には早くも乱戦の予感が満ち、焦りの声があがっている。
(2005.12.02)
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早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。