
入社式も終えて、新入社員を研修に送り込んだと思ったら、今週は、就職倫理憲章のおかげで?のびのびになっていた来年の採用予定者に対する内定発表のイベントが集中したところも多かった。そのあおりで、いま大忙しなのが採用担当者。この1週間で、どこそこの会社が入社式に新入社員がごっそり現れなかったとか、内定伝達のために某金融機関が研修所に拘束したとかのニュースも日々聞こえてくるが、今は、新年度のスタートなので気分を一新したいところだ。そこで今回は、5年後の採用がどうなるかを考えてみたい。
入社式も終えて、新入社員を研修に送り込んだと思ったら、今週は、就職倫理憲章のおかげで?のびのびになっていた来年の採用予定者に対する内定発表のイベントが集中したところも多かった。そのあおりで、いま大忙しなのが採用担当者。この1週間で、どこそこの会社が入社式に新入社員がごっそり現れなかったとか、内定伝達のために某金融機関が研修所に拘束したとかのニュースも日々聞こえてくるが、今は、新年度のスタートなので気分を一新したいところだ。そこで今回は、5年後の採用がどうなるかを考えてみたい。
その手がかりが、3月下旬に発表された「若年雇用対策への新たな提案」。発表後、新聞にも出たが、ほんの数行の紹介記事だったためか、これに気がついた人は少ない。しかし、内容は実に興味深いのでここに紹介しておこう。
これを提案したのは、産業界労使、学識経験者などで構成する「雇用政策特別委員会」(委員長:高梨 昌 信州大学名誉教授)で、その内容は、「現在の就職・採用慣行が、若者たちの学校から職業へ円滑に移行することを阻害しているので、これを改革するべきである」というのが基本姿勢。現在の就職・採用慣行は、ご承知のところだから省略するが、では、どのように改革するのか、
といったもの。
この改革を実現するためには、それぞれの役割を次のように指摘している。
1. キャリア教育の充実
これは、すでに大学就職部がキャリアセンターに改称するなかで始まっているが、さらに改革を根底から推進するためには、キャリア教育を小中学校から取り組むことを強調している。
2. 「キャリアパスポート」の提案
これは、18歳から35歳までを対象にして、政府などの公的機関が認証するもので、若者のキャリア記録カードのことである。ここでいうキャリアとは、アルバイト、資格、学習歴、就転職職歴、ボランテイアなどである。これによって一生懸命に打ち込んできた若者を公正に評価し、仕事へのチャンスを与えようという仕組みである。
3. 職業奨学金制度の創設
若者が能力開発するために必要な資金を援助するものである。
なかなか結構な構想だと思う。とくに大学の教育内容についての評価は、企業が声を大にして主張すべきものだろう。そのためには、企業としても学業の評価能力と入社後の活用という難問を覚悟しなくてはならない。当然、3年生の春での選考では、評価のしようもないから、就職協定を堅持しなくてはならない。課題は、改革3にある大学卒業資格試験である。提案にもフランスのバカロレアを例としてあげている。もし、これが実施されると大学生の半分はご合格しないだろう。企業にとってセレクションの手間が省けてよいところだ。怪しい大学の淘汰も必然的に起こってくる。結構なことだが、現実にできるのだろうか。これからの議論だけでなく卓越したリーダーの登場を期待したい。
というわけで、昨年の採用活動を反省する余裕もなく、ことしの採用活動のピークを迎えている採用担当者にとって、たまには、こうした日本や若者の将来を考えながら採用を考えることもよいのではなかろうか。
(2004.3.4)
来春、大卒予定者の採用活動がピークを迎えた。予想より2週間遅れだが、6月中旬には終息すると思われるので、このあたりで、前半戦の中間総括しておこう。
まず、企業の採用意欲だが、これは、予想以上に回復したといってよい。昨年秋のエントリー受付け時点では、企業の採用計画は、多くの企業において「採用未定」とか「採用減の方向」だったが、年末からは、景気回復の波に乗り、好決算の見通しが明らかになるにつれ、前向きに新卒採用を考えるようになった。とくに電機、化学、非鉄金属、紙パルプ、証券、銀行、住宅などの業界で顕著となった。この動きは、年明けの採用活動においても明確になった。ホームページの更新、企業セミナーの追加開催、e-mailダイレクトメールの大量送信、リクルーター派遣など企業は、久し振りに活発な動きを見せ、新卒採用復活を象徴した。もっとも、この採用増の内訳をみると「技術系のみ大量採用」(総合電機各社)「2年ぶりに採用復活」(化学、機械メーカー社)という企業とか、契約社員の大量採用(旅行サービス)、サービス職の新卒大量採用(金融サービス、介護サービス)、代替可能な事務部門における新卒派遣の大量採用や、いささか従来とは違う職種の新卒採用の増加が目に付く。
もっとも、採用復活の中でも新卒採用を抑制する企業もある。意外なことに業績好調な精密機器や医薬品メーカーである。ここ数年、他業界が採用抑制をしてきた間に大量採用してきたので、ことしは、小休止というのが実態だが、収益性の維持という点からも採用の抑制に入ったようだ。ほかには、企業合併や統合をした企業(保険、商社など)もあった。こうした事情のほかに、産業界は、団塊世代の定年退職を迎えて、あらたに新卒を積極的に採用し、人材ポートフォリオの再構成をしようという企業や情報管理を徹底するために新卒の大量採用をするという考え方の企業も現れるなど、次の時代への人材の準備に入ったようだ。
次に採用活動のテンポを振り返ってみよう。ここ数年、不況の中でも大手企業を中心に優秀人材に対する青田買いは、進んでいた。昨年の場合は、銀行、保険、マスコミのトップ企業は、3年生の2月に内定、体勢は3月に決着していた。その内定から、学生は、4年生になるのだから、1年以上の内定期間を持ち、ことしの4月に入社したのである。当然、この長い内定期間の間に辞退する学生も相当数にのぼった。また反対に、その時期に内定できない学生は、結局、一年以上の就活をする学生も珍しくない。ことしの春、内定しないで卒業した学生は、2割近くにのぼったと報告されている(文部科学省:大学内定調査)。大学にとっても早期スタートは、負担が重いのである。このことは、採用する企業側にとっても春に採用できるという採用力が弱ければ長期化するのは当然である。一昨年は、中小企業の多くが、一年中、採用活動をする羽目になったのである。そのため、大学、企業の双方から正常化の声があがり、経済団体連合会でも昨年10月に就職活動に節度を求める「倫理憲章」を発表、採用活動の早期化に歯止めをかけたのである。
この憲章は、当初は、形骸化必至と見られていたが、予想以上に遵守された。その結果、現在までの内定ペースは、中堅企業が3月、大手の銀行、保険が4月上旬、商社が下旬、大手メーカーが5月中旬であり、採用戦線は、6月中旬で終息する見通しだ。昨年より3週間遅れのペースだった。たしかに、早期化はストップしたが、中堅企業は、いま不安の真只中にある。大量採用する大手の電機メーカーの内定が5月下旬と遅いためにすでに内定している学生が大量に引き抜かれそうだからだ。すでにこの内定辞退が続出している中堅企業とくにSEを大量採用しているソフト関係の企業は、採用セミナーを精力的に開催している。内定をもらえなかった学生、学生に逃げられた企業の組み合わせだ。このように倫理憲章が遵守されたことと、そのしわ寄せが中小企業に出たというのがことしの特徴だ。
では、全体を振り返ってみると企業の採用の満足度は、どうだったろうか。大手をはじめ中堅企業にいたるまで、学生のエントリー応募、企業セミナー、面接などへの参加者数は、かつてない多さで量的な満足度は、高い。それだけに内定者の質については不満が聞かれる。「こんなに応募者が多いのだからもっと良い学生がいるはずだが」という声だ。
しかし、これはぜいたくな悩みというものだ。求める人材を明らかにすることなく、ただ待っていただけの企業には、滑り止めに応募するだけだ。これから、辞退するかもしれないのだ。ことしもっとも採用に満足している企業は、人材像を明確に定義して、対象とする学生をタイプ別に区分、それぞれ違ったアプローチをするターゲットリクルーテイングをした企業である。リクルーターと各種テスト(心理、能力など)、面接手法を組み合わせてじっくり採用活動をした企業である。倫理憲章によって時間的余裕があったのも大きい。勝負は、ここにあった。だから、何も行動せず、採用PRもしなかった企業とでは、大きな差が出たのである。
こうして採用数、採用時期、採用満足度をそれぞれみると、就活に熱心だった学生、大手企業、大手大学がともに「まあ、まあ」の成果だったようだ。久しぶりの採用回復は、このような大手と中堅・中小の格差拡大を見せつけながら、それぞれが満足した年になったようだ。
(2004.6.4)
来春の大卒予定者に対する採用活動がようやく終息し、採用担当者もほっとして夏休みを迎えることになった。しかし、9月になれば、直ちに次年度の採用活動の採用PRが開始し、採用システムの見直し、採用計画の策定、体制の準備と急速に忙しくなる。そこで、このあたりで、企業の採用力を検討しておこう。
採用力とは、あまり聞きなれないかもしれないが、要は、学生にアピールする力と実際に応募させる力そしてライバル企業との重複内定においても最終的に入社させる力など3つの力の総和である。これらは、どれもが同程度に重要である。一つでも欠ければ、その年の採用は、不満の残る結果となる。そして、これら3つの力は、具体的には数字となってあらわれるから、採用担当者としては、気が気ではない。成果主義の徹底している企業では、これらの数字を採用担当者に課しているくらいだ。
さて、3つの力を具体的に検討してみよう。
まず、学生に対するアピールする力であるが、有名企業やブランド力のある企業は、すでに備わっているから優位に立てる。ところが、知名度はありながらも学生を数多く集められない企業も案外ある。そのためには、採用PRのツールであるホームページ、入社案内、会社説明会などに費用と知恵を絞ることになる。採用にかける姿勢といってもよい。社長が先頭に立って採用を重点にしたり、会社説明会に出席するぐらいの意気込みがあれば、採用力の第一の関門は突破したことになる。あとは、採用PRポリシーの明確さが採用力の基本となる。それと同時に秋から年末にかけて大学が開催するセミナーに数多く出席し、企業を知ってもらうチャネルの豊富さも採用力のひとつである。
例えば大手の銀行では、100大学、大手のメーカーは、10大学というのが平均、中堅企業でもユニークな採用方針と社長が説明するというので多くの大学から招請をうけている企業もある。なにしろ参加するのは、無料だから積極的に開拓することが大事だ。まず、ここを点検してみよう。どこの大学からもお呼びがないというのは、いささか怠慢といわれても仕方ない。
次が、実際に応募させる力である。
採用PRは、意図したとおりに実施できたとしても実際に学生に応募させることができるのかが勝負である。エントリーでは、単に登録させるだけでなく、求める人材を明らかにしながら本人に納得のいく選考を行ない、これといった学生に実際に挑戦してもらわなくてはならない。ここでは、ネットでの選考プロセスとともに、先輩社員との接触や面接の機会を設けて、採用部門に足を運ばせなくてはならない。狙うべき人材の明確化とフォローする組織力である。コア人材レベルになるほどこのアクションが必要になる。こうした先輩社員の動員力こそメーカーの技術職や金融がもっとも得意とする採用活動である。学閥、派閥の温床にもなりかねないだけに注意が必要だが、コア人材の採用をめざすときには、この力は、今後、不可欠だ。
もう一つの採用力が、優位性である。そこには、企業の規模や伝統、社風といった企業価値や仕事の魅力、労働条件の優位性、人事制度の魅力などがあるが、採用活動のきめの細かさという採用担当者の力もある。とくに応募者への対応がキーである。エントリーシートの書式、連絡の早さ、公平さといった初期段階での対応からその後の面接や筆記試験もキーポイントだ。最近はやりのWebテストで瞬時に合否判定をするのは、学生の反発を買うだけだ。納得のいく選考方法や面接担当者の姿勢で企業の魅力が決定的な力になる。
このように企業の採用力は、企業のイメージや企業力、採用PRの巧拙だけでなく応募者への対応力や採用担当者の魅力が大きいことがわかる。採用PRの設計ばかりでなく、選考試験の見直しや採用担当者の面接研修なども見直しをしてみてはどう同だろうか、いずれもまだ十分に間に合うことばかりだ。
(2004.8.2)
来年の採用計画(05年入社予定者)を決める時期になった。秋になったら就職サイトが一斉にオープンするからだ。そのため8月中旬までには、入社案内の制作、情報誌への出稿、ホームページの改定を終えていなくてはならない。
05年の採用活動が始まった。すでにリクナビなどの就職サイトはオープンし、各社の採用ホームページもエントリーを受け付けている。しかし、その動きは、いまひとつ鈍いのが今年の特徴だ。ここ数年は、2月上旬ともなれば、採用活動は、本格化し、採用担当者もオープンセミナーから選考会の準備ということで多忙期に突入というのが、通例だったが、今年は、様子が違う。大手企業の動きが静かなのである。なぜだろうか、昨年の10月下旬に採択された日本経済団体連合会の「倫理憲章」(就職協定)を遵守しようという気配があるからだ。とりわけ今回の就職協定は、大学側からの「教育的見地」という強い要望と企業側の「早期化の限界」という2つの深刻な事情からようやく誓約されたからだ。
そのため、今回の就職協定は、いつものようなお題目だけでなく、企業も遵守しなくてはならないと決意、これまでの抽象的な表現から下記のように具体的に採用活動に踏み込んでいる。
この就職協定を素直に読めば、これから3月末までは、企業と学生が接触することは禁止となるし、仮内定は、4月1日以降で学生に誓約書を求める内定は、10月1日となる。
本当にこのとおりになるのだろうか。
残念ながら、この動きに対してひそかな作戦を進めている企業もある。コア人材採用に意欲的な大手金融機関である。同社は、大学3年生を対象にしたオープンセミナーを昨年の9月から開始している。これは、大手就職情報会社の企画だが、高い費用を払ってセミナーの告知を行い、多くの学生を集めた。そして12月には、キャリアセミナーということで同社の研修所に学生を連日集め、自己PR、プレゼンの場を設けた。ここには、同社の若手社員が動員されている。さらに年明けとともにインターネットを活用したOB訪問を呼びかけ、現段階では、企業セミナーへの勧誘を精力的に行なっている。これで就職協定の遵守になるのだろうか?たしかに学生との直接接触はなく、インターネット上のことで抵触しないようだが、誰が見ても怪しい。しかも学生にも人気のある企業だけに他社にとっては脅威だ。この3ヶ月、採用活動を自粛していた企業にとって、してやられる可能性は大きい。
さて、どうなるだろうか?コア人材への意欲は、かつてなく高まっているだけに、就職協定を守らない大手企業が数社出ただけで、この就職協定は、簡単に瓦解する。多くの企業は、2月いっぱい我慢できるのかどうか、採用担当者のモラルそして企業のコンプライアンスがあらためて求められているのである。
(2004.10.29)
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早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。