採用現場ニュース2003(2003年の記事)

【2003年1月】 今年の就職企業ランキングの特色

今年もまた人気企業ランキング調査が日経(1月27日朝刊)と東洋経済(1月25日号)から発表された。企業の実力を知らない学生によるうわべの人気調査だと無視するのも良いが、優秀学生が上位企業にチャレンジするというから油断できない。大手の金融機関では、採用担当者の人事考課の評価対象となっているところもあるからランクのダウンは、深刻だ。

1. 次の時代を反映するランキング

2つの調査を検討してみよう。両社の調査で、上位10社に入っているのは、ソニー、JTB、トヨタ、サントリー、電通、JAL、全日空と7社が共通している。ソニーは、どちらでもトップ。こうした人気会社は、企業の業績や業界の環境変化、次の時代への準備などが反映されているといわれている。そうして改めてランキングをみるとなんとなく納得する。

2. 特色その1<学生を消費者として扱う>

特色は、次の3つ。まず、ソニーやJTB、NTTドコモは、学生の生活に身近な商品の販売、サービスを業としているだけに消費者としての学生を意識した採用PRや採用活動をしている。そのため、学校名不問、公正な選考、懇切な面接と丁寧な採用を実行している。人気安住することなく、きちんと情報を発信し、女子学生にチャンスを与えていることが評価されたのだろう。

3. 特色その2<個別企業の人気>

2番目の特色は、トヨタ、サントリー、ホンダ、資生堂のようにブランドが確立された上で、業界での勝ち組みとなった企業の人気が高いことだ。かつては、人気業界、人気御三家企業というものが存在したが、近年は、業界人気はなくなり個別企業次第となった。

(2003.1.27)

【2003年2月】 通年採用、インターンシップ採用が増加中

大手企業は、3月1日から一斉にエントリーシートの受付を開始する。採用戦線は、この3月下旬が第一次ピークとなり、5月中旬が第二次のピークとなり、5月末に終息を迎えるとみられる。しかし、こうした年中行事化した新卒採用にも変化が表れてきた。通年採用、インターンシップ採用の増加である。

1. 通年採用の背景

最近の調査では、新卒の定期採用者(4月入社者)の比率は7割となり9月入社、毎月入社という通年採用が増加しているという流れが明確に出てきている。その背景となっているのは、何か?前向きに考えると、雇用の流動化や国際化に対応して有能な人材や経験を積んだ既卒者を即戦力として必要なときに必要なだけ採用するということらしいが、こうした人材への飽くなき欲望は、割り引いて考える必要がある。かつて秋採用は、補欠募集といわれていたが、その要素もある。もちろん、海外子女採用でもあった。

しかし、大手電機メーカーに聞くと、採用計画の遅れと採用活動の失敗、優秀人材の未充足というのが本音のようだ。こうした企業は、例年、4月から採用活動を開始することから出遅れ、優秀人材となると金融、マスコミから奪還できない。結局、年中無休採用体制となる。つまり、通年採用は、実は、採用難の結果だという指摘も多い。

2. インターンシップ採用の浸透

そうしてみると、最近、新卒採用をすべて通年採用に転換と宣言した企業もあるが、どうも採用中止を表明しただけのようにみえてしまう。逆に大手の通信系企業のようにコア人材は、新卒から育成しなくてはならないと公言し、通年は、スキル人材と明確に区別している企業もある。

一方でインターンシップ採用の伸びは、確実だ。2年前の電機大手M社の採用直結型が社会の批判を浴びることなく、受け入れられたことをみて多くの企業が追随してきたからだ。こうしたインターンシップ採用によって採用活動はインターンシップ募集活動に移り、そのエントリー受付時期は当然、春休みか夏休みとなる。

こうした採用方式は、ことしもマスコミ業界の一部で公然と行われ、定着している。この確かな採用方法は徐々に浸透することになると見られている。

(2003.2.25)

【2003年3月】 昨今の大学就職部事情

採用活動のピークを迎えた今週だが、送り出す大学就職部は、いま組織変更と人事異動の真っ最中。今回は、生臭い話は置いといて、就職部の新しい動きを3つ紹介しよう。

1. 大学就職部の情報提供機能低下

その一つが就職部の情報提供機能の後退である。これは、インターネットの普及で、リクナビのような就職のポータルサイトが情報提供とエントリー、選考、内定と就職プロセスのすべてを支配し、学生は、就職部に情報を求めなくなったという周知の事実だ。どこの企業でも自由応募制だから、インターネット時代では、当然の結果といえる。だから学校の就職部にわざわざ求人し、学校経由で企業に応募するというのは採用PRのできない中小企業や公益団体のようなところだった。

2. 学生のインターネット活用の普及

また、大学の就職部には、予算がないのか、企業の最新データはほとんどなく、2年前ぐらいの会社四季報が置いてあるぐらいというのが実態だった。そうなれば、学生が就職部に行くのは、インターネットをタダで利用することと昨年の就職活動記録や先輩の在籍状況を確認するだけだった。それが、インターネットを活用すれば自宅にいながら、最新の企業情報や「みんなの就職活動日記」を閲覧し、エントリーできるとあっては、就職部に顔を出す必要もないことになる。こうして就職部は、情報機能を失ってしまったのである。もちろん、それだからこそ就職部の情報分析力や相談機能が重要になってきたのである。

3. アウトソーシングの加速

2つめが業務のアウトソーシングだ。これは、就職指導体制の弱体な新興大学ばかりでなく、就職をさらに強化しようとする大手の大学の動きが見逃せない。就職指導のカリキュラムを外部に委託、就職部は学生への相談業務に徹底しようという姿勢だ。これは、立命館大学のように最近、評判を高めている大学に見られる傾向だ。一方で、国立大学の動きもある。こちらは、独立行政法人となって経営の効率化と就職指導の充実をはかることが課題だからだ。動機は、さまざまだが、こうして大学就職部のアウトソーシングは、急増している。

4. キャリアセンターへの変更

そして3つめが就職部からキャリアセンターへの衣替えだ。名称の変更は、大学3年生の就職のためでなく、低学年からのキャリア形成に取り組むために就職という名称をやめてキャリアセンターにするという動きだ。すでに、多くの大学では、就職率を良くするためにも低学年からの「自己発見」や「キャリア形成」をテーマとした就職関係セミナーの開催するようになった。ことしから名称を変更した早稲田大学では「キャリアとは進路を中心とした人生を考えること」と定義して、就職部を発展させたと述べている。こうした動きは、立命館大学、立教大学などでもみられる。しかし、課題もある。キャリア教育とは、何をしたらよいのか、誰が教えることが出来るのか、学生は聞きたいと思うのだろうか?それでも名称変更は、ことしの4月から多くの大学で実施される見通しだ。

(2003.3.26)

【2003年4月】 新卒採用メリット

最近、人材リスクということが盛んにいわれるようになった。その多くは、企業の差別採用、退職者、情報開示など法律や社会問題ということでの危機意識だ。しかし、こうしたリスクは、企業のあり方や企業倫理として論じる部分が多い。もっと人事、採用の分野に目をむけるとリスクの芽というものがいくつかある。新卒採用、スカウト採用、アウトソーシング、定着対策、選別教育、FA制度、成果主義、早期退職優遇策、企業年金制度と企業経営を危機に陥れるリスクには枚挙にいとまがない。ここでは、その中の新卒採用(大卒)を取り上げてみよう。

1. 新卒採用のリスク

今日、企業は、社員を定年まで雇用すると、ひとりあたり5億円の負担になるといわれている。その費用の前提は、23歳で採用して60歳定年、その間の賃金は、年功序列と年々のベースアップがあるということだが、生涯賃金を計算しているだけ。もちろん賃金以上の働きをすれば、企業としては十分にペイするものだ。逆に力を発揮できない社員を採用したら5億円に損害金や逸失利益を加えれば10億円の負担になりかねない。それだけに新卒にかぎらず人材採用の大事さ、リスクを認識させるものになっている。

まず、新卒採用のリスクだが、次の3点がある。

  1. ポテンシャルに期待しているので当たり外れが大きい
  2. 新卒は、知識、経験がないので採用基準が不明確
  3. 3年間で3割の大卒が転職する

2. 新卒採用のメリット

このリスクに対して新卒採用のメリットもある。その第一に挙げられるのは、コア人材の早期確保が容易であることだ。企業力にもよるが、中途採用では、応募者が多い割にコア人材は、案外、少ない。むしろ新卒採用をするなかで確保するほうが確実である。このコア人材の採用により、彼らを早くから活躍させることで企業成長のスピードがアップするという点だ。とくに技術や販売、営業の分野では、若い頭脳と行動力なので新卒採用は欠かせない。第二は、組織の若返りだ。新卒を採用していない会社は、組織が停滞し、柔軟性を失ってしまうからだ。第三は、新卒の人件費コストが安いということであり、第四は、採用経費が安いといったところだ。このなかで注目したいのは、コア人材の早期確保という理由だ。これは、中堅企業や成長企業においては、不可欠の要素だ。

3. コア人材採用の重要性

こうしてみると新卒採用は、リスクがあるものの人材像の明確化や採用選考をしっかりやることでミスマッチといわれる離職率を押さえることができる。採用PRばかりでなく採用成功のプロセスにおいて各種の採用アセスメントツールをもっと活用し、定着対策や人材育成に費用をかけるべきだろう。5億円の買い物にまるでコストをかけていないことがおかしい。環境不透明と知識産業化の中で企業は、人材だけが武器だ。コア人材を採れないことが企業の危機にもなりかねない時代だ。来年度の採用計画を検討する上で人材を採用できないリスクを考えてみてもよいのではないだろうか。

(2003.4.25)

【2003年5月】 採用戦線03を総括する

今週で、04年入社の大卒採用も終了する見込みだ。ここで本年の総括をしてみよう。

1. 早期化と長期化

まず、第一が、採用時期の一段の早期化である。これは、よくみると2つの早いスタートが背景にあった。9月上旬から開始された大手・人気企業による業界・企業セミナーである。例年より2ヶ月も早かった。これによって夏休み明けの学生は、一気に就職モードに入ったのである。もうひとつの早期スタートは、2月中旬からの面接ラッシュである。これが、3月上旬になっての銀行・保険・商社の一斉内定となった。それぞれ昨年より1週間、早かった。

しかし、この早期化は、上位企業だけで、実際には、多くの企業にとっては、採用活動期間が長期化することになった。いわゆる採用活動の2極化だが、ここでは、学生の動きがピークを迎えたほうを内定のピークと見よう。その理由は、良い人材がいなくなったことと学生の就職意欲がヤマを越したことで一服感がでて、動きが鈍くなったためだ。その結果、採用活動は、だらだらと5月下旬までにのびてしまったのだ。

2. アウトソーシングの普及

第二に今年の特徴としてあげたいのは、採用活動のアウトソーシングである。

採用活動の長期化とイベント重視によって採用業務のアウトソーシングが急速に普及したのである。膨大な応募者の管理、運営、選考などを外部に出すという動きだ。これは、応募者数が多い企業ほどその傾向にある。人事ではエントリーシートの管理、採用セミナーの実施、面接業務、採用管理システムの受託と多彩だ。このほかベンチャー企業のように採用戦略づくりから採用候補者までの絞込みをする専門業者もあらわれた。少数のスタッフで短期間、大量に行わなくてはない通信、マスコミ、総合商社などで多く見られた傾向だ。

3. 採用形態の多様化

第三は、採用形態の多様化である。なかでも通年型採用とインターンシップ採用は、今後の主流になる勢いだ。通年採用は、優秀人材には、いつでも門戸を開くということだけに企業の2割が導入している。従来の画一的な年次や人事制度の否定となり、戦後50年ずっと続いてきた新卒採用の構造そのものの変化である。またインターンシップは、新卒ミスマッチが30%を超えている現状では、もっとも人材を見極める方法として有効とみられている。このインターンシップ採用は、大手企業だけでなく最近は、中堅企業で増加している。こうした企業では、インターンシップ期間中に能力・適性検査やコンピテンシーをつかって企業との相性も分析している。就業体験でなく、就業試験といった格好だ。今後の議論を呼ぶところだが、ひとつの方向を示しているといえよう。

(2003.5.26)

【2003年6月】 「求める人材像」の明確化

昨年の内定者が無事入社し、来年入社者の採用活動も終了、内定者対策とともに、そろそろ次年度の採用計画を決める時期だ。

1. 「求める人材像」の明確化

といっても、この業務の関係あるいはタイムラグは、採用担当者以外には、なかなか理解しにくい。採用時期の早期化が行き過ぎた結果だからだ。それは、ともかく、6月下旬からは、就職情報会社がいっせいに採用総括セミナーを開催、一服する余裕も無く、来年度の計画と予算を考えなくてはならない。その出発点が「求める人材像」の明確化である。外部からは、「求める人材像」は、毎年、変わりやしないだろうとか、そんなに大事なのかと質問が出そうだが、ここをきちんとしておくことが採用戦略と活動のポイントといえる。

2. 具体的なキーワードの抽出

これをどのようにして作るのか、「明朗活発、好奇心旺盛、コミュニケーション力」「地アタマの良さ」と盛りだくさんに学生に要求するのではなく「仕切り上手、聞き上手、反応が鋭い」といった具体的な項目における行動的なキーワードを示すことが大事だ。実は、このキーワードを導くのには、かなり苦労する。企業の5年後の方向性や事業の具体的展開にかかわりがあるからだ。企業によっては、「コンピュータが好きな人」とか「人を喜ばせることを仕事にしたい人」などと軽快にキャッチコピーをぶつけるところもある。人事部の工夫のあとが見られるが浮いた感じがしないでもない。

3. 明確化プロセスから見えてくるもの

ここは、経営会議、工場、現場などで「求める人材像」の明確化プロセスとして議論してもらうことだ。つまり企業の将来の方向、事業展開と人材の配置、採用して育てる現場が中心になってキーワードをつくるのである。そうなれば、どんな人材を、どれくらいのレベルで、何人ぐらいが必要かが明らかになる。現場が、明確な採用基準を持って、面接にも出てくるし、ときには大学の研究室に求人にいくこともあろう。職種別採用をめざすならこうした布石は、不可欠だ。そうなると、あらためて、ことしの入社者、内定者はどうだったのかとなり、採用PRや活動のブレ、面接、選考方法の反省になる。そしてあらたに採用対象と効果的な採用PRのプランがでてくる。これをターゲットリクルーテイングというが、こうした「求める人材像」づくりにあらためて取り組む企業が増えてきたことは注目してよい


なお、参考としてある財務コンサルティング会社の「求める人材像」を紹介しよう。

  1. 分析力の良さ
  2. 物事を伝えるコミュニケーション能力
  3. 日本経済を変えたいという大きな情熱

なるほどと納得させられる。

(2003.6.17)

【2003年7月】 「求める人材像」は、キーワードづくりから

来年の採用計画(05年入社予定者)を決める時期になった。秋になったら就職サイトが一斉にオープンするからだ。そのため8月中旬までには、入社案内の制作、情報誌への出稿、ホームページの改定を終えていなくてはならない。

1. 学生の心に響く「求める人材像」とは

この出発にあたって、採用担当者がまず、考えなくてはならないのが、採用人数や採用形態(春採用、通年、派遣など)の決定とともに「求める人材」についての具体的な要件やキーワードである。単に「優秀な人材」といっても漠然としているし、時代の変化にともない毎年、人材の要件は、変化する。その資質、能力、経験など学生の心に響くものを訴えなくては、学生たちも応募する気にならない。だからといって求める人材を美辞麗句で飾ってはいけない。

2. 現実的なキャッチフレーズとしてまとめる

例えば、「世の中の動き、人の気持ちを感じ取る豊かな感性と多面的な見方が出来、さらに創造性豊かで旺盛なチャレンジ精神を持ち、自ら考えながら問題解決行動の起こせる方 、それと良識・倫理観を持ち、社会の一員としての役割・責任を果たすことができればなおよい 」。これは、無いものねだりに近い。学生は、困惑するばかりだ。こうした人材要件への欲ばり現象が新卒採用のミスマッチにつながっている。採用活動の出発にあたっては、人材要件をどのように明確化し、文章表現するか、現実的にキャッチフレーズとしての「求める人材」をつくってみることをお勧めしたい。

そして、その凝縮されたキーワードを採用PRの基本として秋から1年間、展開することが望ましい。昨年、電機メーカーのM社は、求める人材要件として次の3点をあげた。「顧客本位」、「企業家精神」「自主自立」である。ここでは、消費者の立場にたって楽しさや快適さを提供できるかどうか、既成概念にとらわれない自由な発想が出来るか、自分の価値を向上させることが出来るか、といったことを重視すると学生に説明している。なかなか明快である。

3. 学生と理解、共感できるキーワードをつくろう

このように求める人材をキーワードに象徴させることは、わかりやすい採用の第一歩だ。しかし、実際に、そのキーワードを決めるまでに議論が重ねられることになる。実は、このプロセスが大事なのである。外部のコピーライターや就職情報会社に丸投げをしてはダメだ。人材へのキーワードは、企業戦略とも密接なだけに、その決定プロセスは、採用現場だけでなく経営トップから若手までの共通理解が必要だ。そのなかで、人材への期待を全社的な運動にしていくことがポイントになる。そのプロセスの中で「ほしい人間」のキーワードを抽出する。それは、人材への思い入れが表れていること、そして平易で、人物の行動がイメージしやすいものが望ましい。

こうした人材のキーワードの重要性に着目した企業の例をいくつか見てみよう。「創造的破壊=オリンパス光学」、「知的野蛮人=ヤマハ」「ふまじめ=オービック」といったものがおやっと思わせる。いくつかは、注釈づきとなるが、これらのキーワードによって学生は、何だろうと思い、企業の人材への期待と思い入れを理解、共感することになる。

人材採用のポイントは、人材像を明確にし、応募者の心に響くキーワードをつくることにある。いまなら時間をかけて議論することができよう。

(2003.7.29)

【2003年9月】 Web選考は、普及するか(エントリー対策として有効だが、反発も多い)

Web選考は、まだ一部だ。
最近、いくつかの企業では、採用のスケジュール案内のなかでWeb選考を掲げるようになった。

1. Web選考が広がった背景

これは、インターネット上で学生を選別する試験のことである。その内容は、現在のところ応募者を受付けるエントリーシートや面接予約の提出時に簡単な知識を聞くテスト、性格検査、知能検査といったものが主流だ。現在、こうしたWeb選考を取り入れている企業は、東芝、三菱地所、大日本印刷、マイクロソフトなど、ごく一部だが、ここ数年、SEを採用するIT系企業では、徐々に普及しているこの傾向は、今後どうなるのだろうか、効率性という点では、もっと普及すると見られているが、どうも停滞気味なのである。今回は、このWeb選考を検討してみよう。

まず、こうしたWeb選考が広がった背景だが、次の3つが理由としてあげられる。

  1. 多すぎるエントリー者を合理的に選別する
  2. 応募者の機会均等を実現する
  3. 採用活動の効率化と短期集中への対応

2. 公平性と利便性が魅力

多すぎるエントリーをどのように選別するか、これは、採用担当者の悩みである。エントリー数が1万人を越える企業では、人事スタッフだけでは、エントリーシートを読むことだけでも大仕事である。時間のロスも大きい。そのため採点をアウトソーシングする企業もでてきた。だが、そうした対応ができない企業では、応募者の2割程度を残すためには、先着順とか、学校名や性別によって選別することにもなりかねない。こうした不公平さや事務負担を軽減するためと積極的な姿勢で人材の早期発見をするためにWeb選考が注目されてきた。とくに一定水準の知的能力、性格・適性、コンピテンシーを持つ応募者と本気の志望者をセレクションする方法として有効と見られたからだ。

とくにWebによる選考では、応募者全員が受験することが可能であるし、時間や費用といった負担も少ない。学生にとっての利便性、企業にとっては、システムの負担はあるものの応募者管理、選考プロセス運営など大いにメリットのあることになる。

3. 本格普及まで課題は多い

しかし、最近のことだが、ある大手ソフト会社など先発企業が、Web選考を取りやめた。その理由は、学生からの評判が良くなかったからだ。その批判は、あの程度のテストで人物評価をされるのは容認できない、自分に実際に会ってから評価してほしいという声だ。さらに一般教養、知的能力(言語・非言語)、英語などならともかく、価値観、性格、適性、情緒といったテストで選考されることへの不満である。これらは、学生の誤解の面もあるが、親近感のない無機質な企業と思われたのだろう。それに一部の企業だが、テストを理由にやはり学校別採用を大胆に行った企業もあるからだ。また、Webテストそのものの技術的な課題もあって、導入に躊躇する企業も依然として多い。その代表的な課題が、替え玉などの不正受験である。学生が集団で受験すれば誰かが正解を見つけられるだろうし、写真に撮り、問題の予備学習をするといったことである。しかし、これらは、稀なことであるし、次のステップでチェックすることは可能なので大きな問題とはいえない。

4. 学生の納得性が必要

むしろ、企業として考慮しなくてはならないのが、学生の納得性である。それが十分でないと「あんな試験で何がわかるのか」とか「適性で落とすのは理解できない」といった反発が生じる。ここには、テストの本来の目的である相互のミスマッチ防止のためにテストをするのだという企業からのメッセージが不可欠だ。普及には、ヒューマンタッチが必要なのである。Web万能といっても、まだまだ全員面接という選考方法がベストなのである。

(2003.9.1)

【2003年10月】 新卒採用の枠組みが崩壊中だ

就職サイトが一斉にオープンしたが、採用意欲は抑制気味だ。復活が期待されている金融、通信、ITといったところが本格景気回復していないからだ。これは、採用形態の多様化にもあらわれている。新卒採用より中途や契約、派遣にシフトしているのである。

1. ミスマッチ解消にむけた動き

とくに新卒の分野では、総合職採用は、一定数を継続的に採用するものの一般職、事務職については、大幅削減か派遣、契約型や新卒紹介予定派遣という採用システムに移行している。これは、女子採用やSEに多く見られ、派遣会社から新卒者を派遣してもらい、学生と企業の双方が合意すれば、1年後には社員として採用するというシステムである。

企業側のメリットは、いうまでもなく採用経費、採用業務の削減、ミスマッチ解消にある。このミスマッチ解消は、学生の側からもいえる。派遣会社は、学生を登録させたあと本人と面接、研修、コンサルテイングをすることによって本人の希望、能力、適性にあった企業を紹介、派遣から正社員へのサポートをしていく。いまこのシステムは、採用コストを削減している企業や採用力のない企業にとっては、有効な採用方式となっている。また大学側も就職者としてカウントできるので就職率アップに役立っているといえよう。しかし、企業にとって、業務の継続性や次代をにらんだ人材育成ができるかどうか、派遣される学生の意欲や能力があまり高くないこととともにひそかな悩みとなっている。

2. さまざまな契約型採用

一方、契約型採用も徐々に増えていることが注目される。
これまでの新卒採用=終身雇用の概念を変えたのが契約型採用である。テレビ会社やIT企業、旅行会社、航空会社の採用形態として浸透しつつある。例えばテレビ製作会社は、ディレクターという職種で募集して話題を集めた。新卒学生の持つ新鮮な企画力や製作能力に期待した採用形態だ。

また旅行会社や不動産販売会社では、数年前から大卒女子を対象に1年契約社員として採用することが増えている。すでに大手の旅行会社は、来年は数百名単位での契約新卒を採用すると発表したことも注目される。航空会社の客室乗務員ことフライトアテンダントもこの採用形態の先駆者だ。こうした契約型のハイエンドともいうべきなのが三洋電機の「オーナーマインド社員」制度だ。これは、法務、経理、システムなどの分野で即戦力として働けるという新卒者が対象。身分は、正社員ではなく、1年間の有期契約で、契約更新時に年俸も改訂する。その年俸は、500万円~800万円という。昨年は、5人採用されたという。

このように新卒採用は、採用時期、雇用契約、募集職種などさまざまの面で、従来の新卒採用の枠組みが崩壊しつつあることがうかがえよう。

(2003.10.29)

【2003年12月】 採用担当者に必要な資質

かつて人事部不要論が叫ばれたことがあるが、そこでいう人事とは、「社員を採用、教育、配属し、継続的に社員の人事考課の情報を集め、人事異動の発令をするところ」であった。ここには、密室のなかで人事評価がされ、経営と直結した命令を伝達する機関であった。人事部不要、解体論が出てくるのは、当然だろう。

1. 拡大する人事部の役割

最近は、人材評価も360度評価や組織サーベイがきめ細かく行われ、その結果も公開されるようになった。人材価値評価にしても社員に納得のいくやりかたが導入されている。ここでは従業員に対してキャリア情報の提供やカウンセリングが普及しつつある。人事部が新しい役割を担うようになったのである。

2. 影響力のある採用担当者の資質

こうしたトレンドの中で人事、それも採用担当者の資質も大きく変わってきている。採用環境が、買い手市場で膨大な応募者がありながら、優秀な人材が見つけにくくなっている。採用活動の巧拙が企業イメージに影響を与え、企業の社会的評価にも影響を与えるようになっている。

3. 採用担当者に求められる3つの力

 では、今日の採用担当者に必要な資質とは何か?
性格や知識でなく「力」として具体的にあげてみると次の3つである。

  1. プロジェクトマネジメント力=大量の応募者を短期間に受け付け、会社説明会を開催し、面接を実施し、採否を決定する。ときには、アウトソーシングも手配、管理する。
  2. マーケテイング力=企業の採用PRの企画、実施、学生の動きへの敏感な対応、企業イメージの形成、話題づくり。
  3. 質問力=面接、選考の場面で学生の良い点を引き出し、採用に結びつけるための学生への深い理解と観察力である。ここには、質問力を強化するための各種アセスメントツールを上手に利用する能力も不可欠である。

4. 意欲的にキャリア形成に取り組もう

これが採用担当者の3つの力であり、そのために日々、意図的に力を磨いておく必要があろう。もちろん、必要な資質を「キャリアカウンセラーになれ」とか「人が好きになることにつきる」といった言葉でくくってもよいが、もっと人事担当者自身がキャリア形成に役立つような知識、ノウハウとして考えないと取り組む意欲がわかないのが現実だ。

(2003.12.8)

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。