2020年1月 新卒採用、3つのキーワード

■米中経済戦争など2020年の世界経済の見通しは不透明だが、日本経済は消費税引き上げや企業業績の低迷があるものの、企業の新卒採用の意欲はまだまだ旺盛だ。昨年12月に発表された「ワークス採用見通し調査」(リクルートワークス研究所)〈※1〉によれば、大卒採用が前年と比較して「増える」が11.5%、「減る」は7.6%で依然としてプラスを維持する結果となった。今年は、指針の廃止、通年採用の本格化、AI採用の拡大、オリンピック開催など採用環境の変化が激しいだけに、これから本格化する21卒の採用活動がどのように展開するのか、3つのキーワードから探ってみよう。 

キーワード1.採用スケジュール混迷
経団連の指針が廃止されたが、政府が指針の枠組みを継承したことから昨年同様の採用スケジュールとなった。しかし、今年の採用活動は次の3つの要素で混迷、内定出しは昨年より早まりそうだ。
第一の要素が、「インターンシップの成熟」である。すでに就活学生のインターンシップ参加率は、昨年末までに7割を超えている。その多くは夏に開催された会社説明会型の1dayインターンシップだったが、参加にあたり学生は、エントリーシートを企業に提出し、WEBテストを受けていた。その学生を企業が選別し、年末から今年の冬・春インターンシップへ誘導、囲い込みを強化している。その内容は、4日間前後の選考会型インターンシップがほとんど。昨年の場合、このプログラムを経て早期内々定者が生まれていた。この選考フローは、優秀人材の早期確保には有効と思われていることから、今年はこの密度の濃いインターンシップが、より明確な採用直結型に発展し、採用活動を早期化するとみられている。
第二は、「通年採用の広がり」である。指針の廃止とともに提案された通年採用だが、採用対象は、新卒も在学生も既卒も卓越した能力を持つ人材であれば、時期を問わず採用できるというのがポイント。すでに、この通年採用は、外資企業や急成長企業、IT企業などでは10年前から導入済みで早期化のペースメーカーだった。今年は、経団連傘下の大手メーカーや大量採用企業が、相次いで通年採用に踏み切ることを表明している。採用人数だけでなく、影響力の大きい企業が多いだけに早期内定の動きを加速させることになりそうだ。
第三は、「オリンピック開催」である。今年の夏に開催されるオリンピックも企業の採用スケジュールに影響を与えるだろう。開催時期は7月中旬から8月上旬なので21卒の採用活動に直接の影響はなさそうだが、これは6月までに採用活動を終わらせることのできる大手企業や人気企業の話。中堅企業や地方企業にとっては後のない採用日程となる。そのため5月の連休前後に多くの企業の採用活動が集中、採用活動の前倒し、早期終了が予想される。

キーワード2.通年採用拡大
通年採用の普及は、新卒者の採用スケジュールの存在を否定するだけでなく、新卒一括採用からの脱皮ということで新しい採用の出発点にもなる。通年採用では、グローバル職やIT職さらには法務・会計・特許・統計など各種専門職などが対象になる。その選考プロセスは、ポテンシャル採用でなく、専門性に着目したジョブ採用が導入されることになる。そのため採用活動は、就職ナビなどで学生の応募を待つだけでなく、企業側からリクルーターや紹介による特定学生に対する攻めの採用が活発になりそうだ。それだけに採用活動はし烈化し、活動の時期は随時どころか早期からになり、外部から見えにくくなるだろう。こうした通年採用は、すでに取り組んでいるIT企業やコンサルティング、ベンチャー企業だけでなく大手メーカーや大量採用企業にも広がる勢いだ。(株)ヒューマネージの「通年採用に関する企業アンケート調査」(2019年10月)〈※2〉では、通年採用を実施している企業は13.3%だったが、これに検討中の企業を加えると49.3%に及ぶという。しかし、従来の一括採用が多くの企業にとってまだ効率的でメリットの多い採用方式だけに、当面は一括と通年の併用採用が多いだろうが、その移行・拡大の動きは新卒一括採用という採用慣行が一変するだけに目が離せないだろう。

キーワード3.AI採用不信
昨年は、AI採用に取り組む企業が増えたが、学生からの反発や不安も相当数あった。AI採用の導入は、企業にとって採用業務の負担軽減、選考のスピードアップというメリットだけでなく、選考・評価の公平性などのメリットがあったが、このAI採用については、企業、学生ともに賛否はいまだに相半ばしている。学生の賛成意見は、AIのほうが公平な判断が期待できるという評価や遠隔地学生の利便性、拘束時間の軽減というものだが、学生たちのAI採用に対する評価は、良くない。その理由は、機械採点に対する不信であり評価基準の不透明さだった。そうした中で昨年夏、リクナビの内定率辞退予測問題が発生、学生の間に就職サイトだけでなくAI採用をする企業への不信感も生じることになった。この事件によって企業は、学生の個人情報の収集・利用に大きな制約が課せられることになった。企業の採用活動にとってAI導入は重要な課題だが、個人情報保護とネット採用の関係、AI選考への不安、委託業者の信頼度など企業にとっての課題が多く、採用活動におけるAI導入への戸惑い・不信は増大したままだ。

このように21卒採用の環境は、大きく変わろうとしている。採用活動の日程混乱、通年採用の拡大、AI採用への不信、など3つのキーワードは、いずれも従来の新卒採用の構造そのものの変化が始まっていることを示している。

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キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。