2020年9月 21年卒採用を振り返る

年明けとともに急拡大した新型コロナ感染症によって世界経済は暗転、日本経済も全面的に深刻な事態となり、いまだにコロナ終息が見えない現在、多くの企業は、暗中模索の状態となっている。しかし、こうした最悪の環境のなかでも企業は、コロナ回避のために従来の採用方法を見直し、オンライン採用などに切り替えることで今年の新卒の採用活動を乗り切った。今回は、21年卒採用のしめくくりとして今年の動きを10のトピックス(話題)で振り返ってみよう。

1.コロナで採用活動大混乱
コロナ感染症が広がり採用活動に影響が出始めたのは2月頃。予定されていた会社説明会や合同説明会が相次いで中止、延期されたことで企業の採用活動は大混乱した。そうした中で、採用活動を中止する企業や延期する企業があるかと思えば、採用活動を継続する企業も多く、3月からはオンライン採用、対面型の採用、最終面接だけは対面型で面接をするなど、企業のコロナ対応が様々だった。大学では学内説明会が一斉に中止、キャリアセンターも閉鎖ということで学生たちは途方に暮れた。想定外、新卒採用史上初、最悪の就職環境で大混乱したというのが21年卒採用の最大の話題だった。

2.採用計画は継続されたが弱含みへ
コロナ感染症拡大によって21年卒の採用計画はどうなるのかが注目された。毎年4月に発表されていたリクルートワークス研究所の求人倍率調査(※1)も、今年は年初に集計した調査結果を6月に再調査、8月にあらためて発表した。このコロナ渦中の調査によれば、21年卒の求人倍率は、1.53倍と昨年の1.83倍より下がったものの0.3%減にとどまった。これは、リーマンショック後の0.5ポイント減より少なく、求人倍率もバブル崩壊後の0.99倍に比べるとはるかに求人意欲は旺盛だった。このように21年卒に関しては、企業の採用意欲は、コロナがあっても旺盛だったということは見落とせない。

3.人気企業の採用中止
コロナの影響が企業業績に具体的に出始めたのは、3月頃からで航空、旅行、観光、宿泊サービス、イベント関係業界が深刻な経営状態となった。多くの企業が、当初の採用計画を維持して活動していたのに対して、これらの業界の経営は追い詰められ、新卒採用に大きな影響を与えることになった。最も早く新卒採用中止を発表したのがANAとJALという大手航空2社。すでに内定した学生は採用するが、これからの採用活動は中止すると発表した。毎年、学生の就職人気ランキング調査では上位を占める企業だけに2社を目指してきた学生たちのショックは大きかった。特に女子学生にとっては、CA(客室乗務員)の採用中止は採用人数が多いだけに大きなショックとなった。

4.オンライン採用時代へ
今年、コロナ感染症拡大を契機に激増したのが企業のオンライン採用。数年前から会社説明会や画像によるエントリー受付で導入する企業が増えていたが3割程度だった。それが今年は、オンラインで会社説明会を実施したという企業は、63.1%、個人面接が61.6%、最終面接は35.7%だった(ディスコ キャリタスリサーチ「21年卒採用活動に関する 緊急企業調査」※2)。なかには一次面接から最終面接までWebという企業も多かったという。これまで批判のあったオンライン採用だが、今年は一転、コロナ回避ということで企業も学生も容認、採用イベントのほとんどが従来のリアルな対面型からWebによるオンライン型に移行した。

5.採用活動は、昨年より1か月遅れ
昨年夏のインターンシップが大盛況であったところから、企業のプレ採用活動も従来になく活発だった。その結果、今年の1月下旬から冬インターンシップや質問会、ワークショップなどが多数開催され、2月からは面接に入った企業が多かった。しかし、その早い動きは、2月中旬からの新型コロナ感染症の急拡大によって合同説明会や学内説明会が相次いで中止となったことで、3月からの採用活動に急ブレーキがかかった。その後、採用活動がオンラインに切り替えられ、企業の採用活動は手探り状態で継続された。採用活動が本格的に再開したのは5月中旬からだった。それから1か月余、6月下旬にようやく採用活動は山を越えた。これによって21年卒採用は、昨年に比べると、1か月遅れの採用活動スケジュールとなった。

6.内定率が低下した
採用活動の早期化は当然のことながら、内定の早期化につながる。21年卒採用では、昨年夏のインターンシップ参加者へのフォローが強化され、年明けには、人事面接に入った企業が相当数あった。その結果、早期内定を出す企業が増え、今年の2月には学生の内定受諾率は、マイナビ就職活動調査(※3)では10.4%もあった。その早期化の動きは3月も続き、内定率は20.5%(昨年12.7%)と好調だったが、コロナ感染症の発生によって伸び悩み、4月は35.2%(39.3%)と停滞、さらにこのスローペースは続き、5月に緊急事態宣言が解除されても48.0%(昨年61.8%)、6月65.1%(74.4%)、7月73.1%(80.0%)という経過をたどった。このように学生の内定率は、前半は順調だったが、コロナ発生以降は停滞、昨年より1割減ということで現在に至っている。

7.学生の大学離れ
コロナによってキャンパスが閉鎖されたり、キャリアセンターが利用できなくなったりしたことで学生たちの就職イベントへの参加状況が軒並み低下、キャリアセンターに資料を見に来ることも相談することも減った。大学側は、代替策としてガイダンスや企業セミナーを画像で配信したり、オンライン相談を強化したりと様々な工夫をしていたが、学生のアクセス数は少なく、危機感を募らせている。さらにオンライン採用の急増によって、学生の就活は、学生たちが自分を就活サイトに登録してスカウトを待つとか、先輩や友人による紹介を重視した就活をしたり、学生が直接、企業のホームページにアクセスすることで、そのままオンラインで面接を重ね、内定を取るという動きを見せ始めた。就活サイトや大学のキャリアセンター抜きの就活の動きが見え始めたのである。

8.学生の就活費、企業の採用経費が軽減へ
学生の就活費用が年々増えて問題となっていたが、今年はコロナ回避のためのオンライン採用が広がったことで、学生は就活費の負担が減った。学生にとってオンライン就活のメリットは多く、応募機会の増加や緊張緩和などとともに、企業の説明会や試験会場に行くための交通費、宿泊費などの負担が激減したからだ。この効果は企業も同様で、面接システムの導入によってイベント会場費、製作費、人件費、学生への交通費、選考のための採用諸経費などが大幅に削減されることになった。

9.大学・学生の就職対策が大転換
オンライン採用の爆発的な伸びによって、大学がこれまで行ってきた学生の就職対策が大転換することになった。企業研究では、オンラインによる膨大な会社データの収集、分析が可能となり、学生がどのように企業研究をしたらよいのかデータの読み方や働き方について聞き出す質問法など、大学として学生に問題意識をしっかり準備させることになった。なかでも試験対策として重視されるのがオンライン面接の受け方。狭い画像のなかの動きや表情が評価されるので、リアルな面接と違った表現や表情で対応しなくてはならない。今年は、先輩の体験レポートがないだけに、学生たちは出たとこ勝負だった。また就職試験対策ではないが、オンライン採用では選考中の通信の接続状況により、人物評価が下がってしまうということで、通信環境の設定、各種アプリの使い方なども新しい就職対策として加わることになった。

10 インターンシップもオンライン化へ
21年卒採用においては、昨年の夏インターンシップから継続して学生をフォローしていた企業が、コロナ感染症拡大による採用活動の制約下でも多くの学生と面接を行い、早期に内定者を確保できた。そのためインターンシップが採用活動の軸になると考える企業がさらに増え、22年卒採用への募集が始まった今年の6月頃には、多くの企業が、夏インターンシップを開催することになった。しかし、今年の場合は、そのほとんどがオンラインインターンシップだった。コロナの収束が見えないということもあるが、その内容は、1日だけの企業紹介、見学会がほとんど。今後もコロナの収束が見えないということで、秋からもオンラインで実施される。昨年の夏には、オンラインインターンシップはゼロに近かったのに、今年はほぼすべてがオンライン。就業体験がオンラインでどこまで学べるのか、という問題点や通信環境の不安定さという課題もあるが、昨年の夏インターンシップの多くが、1日だけの企業紹介、見学会だったという実態からすれば、むしろ今年はオンラインで徹底したほうが良いかもしれない。今後は、コロナの収束次第だが、夏は1日オンラインインターンシップ、秋から冬には4~6日のリアルインターンシップ、あるいはコロナ再発ならこれもオンラインで開催されることになりそうだ。

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。