2020年7月 オンライン採用でwithコロナ

■年明けとともに急拡大したコロナ感染によって、21卒の採用活動はかつてない混乱となった。感染が拡大し始めた3月上旬には、会社説明会や面接などの採用活動を中断したり、延期する企業が続出したからだ。しかし、その後多くの企業は、コロナ回避策として採用活動のオンライン化を進めることで、3月中旬から5月下旬の面接選考をなんとか乗り切り、採用活動を終えた。このように21卒採用において大きな役割を果たしたオンライン採用は、どのように導入されいつから急拡大したのか、次年度の夏インターンシップがスタートした現在、これまでのオンライン採用の経緯を振り返ってみよう。

▼オンライン採用が広がり始めたのは3月から
当初から早期化が予想されていた21卒採用だが、今年は昨年以上に速いペースで進行していた。一部の企業では、すでに2月上旬から企業と学生の個人面接が頻繁に開催されていたのも周知の事実だった。だが、そうした中でコロナ感染が発生、その後、拡大の勢いは止まらず、さらなる感染拡大が危惧された。そのため2月中旬、就職情報大手のリクナビキャリアは、3月に予定していた合同説明会を中止すると発表した。2万人以上の学生や企業が集まる大規模な説明会だけに予防措置を講じても、感染リスクは防ぎきれないと判断したからだ。賢明な措置だった。この就職イベント中止の動きは、当然ながら3月から解禁予定だった大学主催の企業セミナーや就職情報会社、企業が主催するさまざまな会社説明会にも影響が及び、企業の対面型の採用活動が相次いで中止されることになった。しかし、すでに大手企業の採用活動は、会社説明会から個人面接の段階に入っていた。そのため中止はできないという企業が少なくなかった。そこで登場したのが、対面接触を回避するオンライン採用の導入だった。これまでオンライン採用のなかでも面接は、人物判定の難しさや学生からの反発、通信環境の不安定さなどで一部の企業でしか導入されていなかった。だが、今回は緊急避難ということで、3月から4月にかけて大手企業を中心に一斉に導入する動きとなった。この動きを明確に指摘している調査がある。株式会社ビズリーチの「採用担当者アンケート」(※1)(調査時期4月、回答数664件)だ。この調査では、企業に「いつから本格的にオンライン化対応を開始したか」と質問している。その回答は下記の通り。

  1月以前から 36%  
  2月から   10%
  3月から   31%
  4月から   23%

いかにコロナ感染拡大に対応して企業の採用活動が急速にオンライン化したかが読み取れる。

▼5月下旬にはオンライン採用一色に
では、採用活動後半ともいえる5月下旬まで企業のオンライン採用は、どのようなものだったのか。これは、就職情報会社である株式会社ディスコキャリタスリサーチの「2021年卒採用活動の感触等に関する緊急企業調査」(※2)(調査時期5月下旬、回答数1122社)が詳しい。この調査では、オンラインで会社説明会を実施したという企業が63.1%、個人面接が61.6%、最終面接は35.7%、以下、社員座談会27.7%、グループディスカッション8.1%だった。
採用プロセスのそれぞれの場面において、オンラインによる選考が行われていることがわかる。注目したいのは、最終面接までオンラインで行い、そのまま内定を出した企業が4割近くあったという報告だ。コロナ対策を徹底した採用選考だが、企業、学生ともに納得していたのだろうか。

▼オンライン採用導入のメリットと問題点 
このように今年、オンライン採用が急増したのは、言うまでもなくコロナ対策として有効だったということだが、それだけでなく、オンラインでの会社説明会や面接には、これまでの対面型の採用活動に比べてメリットがあるからだという。採用担当者の声を紹介しよう。

  1.多くの学生に同じ情報をまんべんなく提供することができた
  2.遠隔地や海外など広範囲からの学生の応募が増えた
  3.多くの学生が緊張することなく自由に応募していた
  4.採用業務(選考会場の設営、諸経費、連絡調整)の負担が軽減できた
  5.選考、連絡業務の効率化と迅速な対応をすることができた
  6.面接など選考プロセスの可視化と記録が共有できた 

もちろん、こうしたメリットがある一方でオンラインならではの問題点も下記のようにあった。

  1.面接官の採用にかける熱意や思いが伝えづらかった
  2.学生の志望度合いや入社意欲が確かめにくかった
  3.企業の雰囲気や職場の様子を伝えることが難しかった
  4.学生の人物評価が表面的で隠れた魅力を把握しづらかった
  5.企業に知名度や話題性がないと学生から接触してこないことを痛感した
  6.企業、学生双方の知識不足や通信の不具合等で、トラブルが起こった

こうしたメリットやデメリットによって、今年オンライン採用を導入した企業には、次のようなオンライン採用の課題が生じていることも挙げておこう。

  1.ネット中心の選考だったので企業、学生ともに採用、就職に満足感がない
  2.選考途中での辞退者が多かった
  3.学生による企業の研究や魅力の見極めが弱く、内定後のミスマッチが起こっている
  4.ネット中心の企業理解のため、内定後でもクチコミやフェイク情報に影響されやすい
  5.学生のITスキルや通信環境の優劣で、人物の印象が変わってしまうことが多かった

▼すでにオンライン採用の環境があった
これらのデメリットや問題点がありながらも、今年は多くの企業がオンライン採用に踏み切った。それだけコロナ感染が深刻だったからだが、オンライン採用導入の素地がすでに多くの企業にあったからでもある。導入のタイミングも良かった。そもそもオンライン採用は、数年前から企業からも注目されていた。この間企業は、政府や経団連による5Gへの対応を急げという掛け声のもとに、企業内ネットワークの構築や大量データの利活用、電子会議システムの運用、AI導入に精力的に取り組んでいたからだ。またITベンチャーによって、人事分野のシステム開発、ツール、アプリの商品化など、HRテクノロジーが急成長し企業の関心を集めていた。従って、人事採用部門としても環境認識とIT活用のインフラはあったためオンライン採用への転換は好機とばかりに迅速に移行することができた。

▼オンライン採用は、今後も増える
コロナ感染を契機に爆発的に普及したオンライン採用だが、この流れは企業にとってコロナ対策だけでなく、採用戦略として採用対象者をグローバルに広げ、採用活動の通年化を促し、採用担当者の業務量を軽減するなど、採用革命ともいえるぐらいメリットは多かった。技術的に解決すべき問題点もあるが、HRテクノロジーの開発競争が激しく、日々優れた商品が登場していることも、オンライン採用に取り組む採用担当者にとっては心強かったといえよう。
気がかりだった学生たちのオンライン採用に対する違和感や不安も、コロナ禍を契機にそれまでの不安感は減り、むしろオンライン採用を歓迎するスタンスへと変わった。それは、コロナ回避だけでなく、オンライン就活をすることのメリットを多く見つけたからだ。これは、株式会社エン・ジャパンの「オンライン就活意識調査」(※3)(調査時期6月 対象人数669名)が明らかにしているが、オンライン就活をすることにメリットを感じている学生が70%もいたという。その理由は、従来の対面型のリアル面接に比べて気軽に参加できる、自分をアピールしやすい、多くの企業の説明会や面接に参加できる、時間が有効利用できる、交通費が軽減される、といったもので就活のやりやすさを評価し、企業の選考方法への不安が激減したことが注目される。

▼今後、オンライン採用はどうなるか 
これからの採用活動では、再びコロナ汚染に見舞われる可能性が少なくない。それだけに就職サイトや企業のホームページの役割が重要になるが、今後の採用活動は、withコロナという環境のなかで、オンラインを軸にリアルな対面型の面接や座談会・見学会を、適宜組み込むハイブリッド型として、新しい採用手法を模索することになるだろう。

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。