2020年5月 新型コロナウイルス感染禍のなかで、21卒採用は
6月上旬に決着する

年明けとともに急拡大した新型コロナ感染は、21卒の採用活動に大きな衝撃と混乱を与えながら最終局面を迎えた。2月中旬以降、企業や大学は、規模の大きい合同説明会や対面型のOGOB訪問を中止したが、企業はこの間も採用計画を見直すことなく、コロナ対策を考慮しながらの採用活動を継続した。その結果、4月上旬には学生の内定保有率は30%を超えることになった。この採用活動のペースでいくと連休明けの5月下旬には企業の内定出しは山を越え、6月上旬には昨年同様に採用活動が終了することになりそうだ。このコロナ感染は、リーマンショック以上の大打撃を社会全体に与えているだけに、今後の企業経営や新卒採用、大学教育などの分野において、さまざまの変化が生じるだろうが、コロナ感染が終息していない現在では、予測もつかない。ここでは、これまでの21卒採用の前半戦の経過についてレポートしておこう。

▼コロナ禍という深刻な経営環境のなかで注目されたのが企業の採用計画。採用するのは21卒の大学生なので、入社は1年先であり、採用活動開始前の昨年末なら採用計画の見直しは可能だったが、求人ブームが年々激化、売り手市場の中では早期からの採用活動が常態化していた。そのため多くの企業は、早期に採用計画数を決め、昨年秋頃からインターンシップや企業研究セミナーなどで採用活動の準備を進め、年明けとともに学生との接触を開始、1月下旬から囲い込みが始まっていた。だから、コロナ感染が急速に拡大し始めた2月頃には、採用計画を再検討するにも時すでに遅く、もはや現場の採用活動は止められなくなっていた。就職情報会社ディスコの「新型コロナウイルス感染拡大による採用活動への影響」(※1)という調査によれば、3月下旬の時点でも「当初の採用計画の下方修正」と回答した企業は、9.0%、「検討中」は19.8%と環境変化を認識する企業が3割近くあったが、「当初の採用計画通り」と回答した企業が、70.6%と大多数を占めた。こうなれば、採用活動に遅れまいとして多く
の企業は、コロナ対策を万全にしながら、前に突き進むしかなかった。

▼経営サイドからの採用計画の見直しがなければ企業の採用担当者は、当初の予定通りに採用活動に取り組まなくてはならない。2月以降はコロナ感染が拡大したため、大型の合同説明会や大学の学内説明会は相次いで中止となった。その後は小規模な会場に学生を集め、対面型での説明会や若手社員との面談などが各地で開催されていたが、大きな制約や感染リスクを伴っていた。そこで注目されたのが、オンラインによる採用活動だった。すでにオンラインによる会社説明会や面接選考への取り組みは、HRテクノロジーの導入ということで数年前から一部の企業では始まっていた。しかし、このオンライン採用については、技術面・信頼度・学生の評判などでしゅん巡していた企業が多かったが、今回のコロナ感染回避の採用活動として改めて着目され、導入する企業が急増した。その導入場面は、会社説明会・質問会・集団面接・個人面接など対面を基本とする採用イベントだった。なかでも増えたのが、多くの学生を集める会社説明会のオンライン化。これは、従来の「ホームページを拡充、ビデオを流す」だけの企業もあったが、「抜本刷新、ライブ型」にして質疑応答を組み込みながら、学生に語り掛ける会社説明会が数多くリリースされたのが目に付いた。
リクルートキャリアの就職プロセス調査(※2)によれば、「WEB上での個別企業の説明会に参加した」という学生は、43.5%に及び、20卒学生の37.1%を大きく上回った。しかし、もっと注目したいのは、「WEB上での面接を受けた」かという設問に対する回答だ。昨年は、この設問への学生の回答は無かったが、21卒では、30.4%もいた。まさに激増したのである。一次面接だけでなく、リクルーター面接、二次面接、最終面接と面接選考のあらゆるステージで導入されていたことがわかる。 

▼このように、企業は3月下旬にはさまざまな工夫と苦労をしながら採用活動に取り組んでいた。その状況については、前記のディスコ調査(※1)によれば、採用活動を「予定通り進めている」企業が25.2%、「基本的には進めているが一部見合わせている」企業が47.7%と7割近い企業が採用活動を継続していることを明らかにしている。見落とせないのは、採用を取りやめるとした企業は、わずか0.5%に過ぎなかったのは意外だった。このようにコロナ禍のもとでも企業は、オンライン型の採用を導入しながらも一方でリアルな採用活動では、マスク着用は当然として、会場の設営、開催人数の制限、消毒体制、検温などさまざまな回避策をとりながら苦難の採用活動を続けていたのである。

▼多くの苦労をしながら進行してきた21採用だが、その現状はどうか。就職情報解禁から2か月、まだ6月1日の選考開始日まで間のある時期だが、5月の連休明けから採用活動は、ピークになりそうだ。ここはまず、就職情報各社の4月1日現在における就活学生の内定保有率調査を見てみよう。

就職情報会社名 今年の内定率 昨年の内定率 調査名
ディスコ 34.7% 26.4% 就職活動調査(※3)
リクルートキャリア 31.3% 21.5% 就職プロセス調査(※2)
マイナビ 20.5% 12.7% 大学生活動実態調査[3月末時点](※4)

 どの調査でも昨年対比大幅増で過去6年間の最高を更新している。企業の内定テンポは、一昨年から早期化していたが、今年は、コロナ禍というリーマンショック以上の環境悪化になっても早期内定の動きにブレーキはかからなかった。新卒への採用意欲が依然として旺盛ということだけでなく、コロナ感染の終息が見えないことへの不安と、春一括採用という採用活動スケジュールに固執したからだろう。

▼4月上旬において学生の内定保有率が30%を超えている現在、今後の展開はどうなるか。例年なら、どの企業も連休明けの5月中旬からは人事面接となり、最終面接を経て6月上旬には、大手企業が一斉に内定を出すことで21卒の採用活動は終了することになる。しかし、今年は、大きな問題がある。5月末までの緊急事態宣言だ。大手企業が、ビジネス街に就活学生を呼び出そうものなら当該企業は、社会的非難を浴びることは必至だ。そこで企業にとっての当面の採用活動の選択肢は、3つだ。一つ目は、目立たない時間帯に少人数の学生を順次、会社外に呼び出し、最終面接を強行する。二つ目は、最終面接を緊急事態宣言が解除される日以降に設定して最終決定をする。三つ目は、最終面接までもオンラインで実施することだ。これらの選択は、コロナ終息の見通しと関連するだけに企業にとっては難しい判断になるが、先のリクルートキャリアの調査や4月中旬からの大手企業の動きを見るとオンラインによる最終面接を5月末までに実施する企業が多いとみられる。このことによって大手企業の採用活動は、多くの不安と課題を残しながらも昨年同様、6月上旬に決着することになりそうだ。

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。