2019年9月 20卒採用を振り返る

■20卒の採用活動は8月末で終了。9月からは、いよいよ指針なき環境の下での採用活動がスタートする。次年度の採用活動の準備にあたって、昨年度の採用環境、採用活動、内定テンポ、学生の就職人気、新しい採用選考の動きなど、どう展開されたのか、各就職情報会社などの調査を参照しながら振り返ってみよう。

1.求人ブームは継続した
20卒の採用環境は、米中の経済摩擦やアジア経済の停滞などで波乱含みだったが、日本経済が引き続き好調ということで新卒の求人ブームは継続した。日経新聞の採用計画調査(2019年3月25日)〈※1〉では、20卒の採用計画は、昨年度比7.9%増(昨年は8.5%増)、リクルートワークス研究所の大卒求人倍率調査(2019年4月24日)〈※2〉でも1.83倍(昨年は1.88倍)と発表された。いずれも伸び率が鈍化しているが、増加傾向に変わりはなかった。こうしたなかで金融業界の採用抑制が注目された。これは、メガバンクだけでなく証券、保険など業務の統合やAI化が進んでいる大手企業に顕著だったので学生のショックは大きかった。  

2.インターンシップが採用活動の軸になった
ここ数年、夏インターンシップが企業や学生にとって活動開始のトリガーとなっている。その傾向がより一段と明確になった。昨年の夏インターンシップは、1dayインターンシップが大多数を占め、その目的は、会社を知ってもらい、応募を促すというプレ採用広報活動がほとんどだった。こうした夏インターンシップに就活学生の7割が参加し、参加した学生の一部は、その後も企業から綿密にフォローされ、秋・冬・春と継続的に選考会型インターンシップや懇談会、早期面接などに招待され、企業の選考のフローに乗せられた。こうした早期のインターンシップは、母集団形成だけでなく、採用選考に大きな役割を果たすことになった。就職情報大手のマイナビの学生のモニター調査(2019年5月)〈※3〉によると、4月時点で内定を得ている学生の56.9%が内定先企業のインターンシップに参加していたと報告している。採用活動においてインターンシップの役割が、きわめて大きくなったのである。

3.早期内定が増えたが、混乱はなかった
求人ブームの継続拡大と夏インターンシップの増加によって、採用活動は早期化、内定も早期から乱発され大型連休前に終了すると見られていたが、どうだったか。前述のマイナビの調査によれば、学生の内定率は、3月末が12.7%(昨年9.5%)、4月末で39.3%(昨年33.2%)、5月末で61.8%(昨年60.3%)、6月末には76.3%(昨年73.3%)というテンポだった。たしかに昨年より早いペースで進行し、内定率も大幅にアップした。だが、内定出しの過熱化やトラブルはみられず、6月末で静かに終結した。多くの企業が早期から学生と接触をしていても内定は、6月上旬の人事面接を経てから出すという動きをしたからだろう。その背景には、最後の指針を形式的にも遵守しようというスタンスと内定辞退を見極めるのに慎重だったからだろう。

4.人気企業は、相変わらず身近なブランド企業
金融業界の採用抑制やAI化の波は、学生の就職人気企業ランキングや就職観にも影響を及ぼした。20卒学生の就職人気ランキングの結果は、どうだったか。東洋経済オンライン5月26日号〈※4〉をみるとトップ3は、全日空、明治グループ、日本航空。以下生保、証券、総合商社、メガバンクと続いた。いずれも生活に身近なブランド企業が上位を占めた。こうした中で人気後退が顕著だったのは、経団連の中核を担う大手製造業と採用抑制のメガバンクの人気後退という異変が目に付いた。

5.学生の就活が変化してきた 
売り手市場を反映して学生の就活が沈静化した。学内での企業説明会に参加する学生数が減ってきたのである。これは、先輩の内定状況や企業の旺盛な採用意欲から、学生たちの間に今年の就職は何とかなるという楽観論が広がったためだろう。その一方、学外で開催される企業主催の説明会の参加学生は増えた。この学外の説明会は、会場がホテルやイベント会場ということで企業の採用担当者とブースでじっくり話し合えることや、採用についての生情報が直接伝えられることが魅力だったとみられる。
またエントリーや選考への応募数についても変化が見られた。これは、ディスコの「新卒採用企業調査」(2019年7月)〈※5〉がその実態を明らかにしている。同調査によれば、大手企業の場合でもエントリー数が「増えた」が30.9%に対して「減った」が46.4%に、「選考への応募者数は、「増えた」が27.2%に対して「減った」が50.1%だったと報告している。この背景にはインターンシップやクチコミサイトというチャネルの急増という理由もあるが、学生たちが志望先を絞り込む傾向が強くなったからである。

6.AI採用時代がスタートした
AI採用に取り組む企業が増えたのも新傾向だ。膨大な応募者を公平に迅速に選考するのが目的ということで、当面はエントリーシートやスマホを使った動画エントリーの評価が中心で、導入した企業の多くはトライアルの段階だった。しかし、これを大手の情報通信・航空会社・総合商社・保険会社・食品会社などが導入したことで、俄然注目された。だが、企業にとっては、採用業務の負担軽減、選考のスピードアップというメリットだけでなく、AIの選考基準の透明性や評価の妥当性、情報の保護、学生の受け止め方への配慮などAI採用への疑問や課題はまだ多い。現在、このAI採用については、企業/学生ともに賛否は相反している。学生の賛成意見は、AIのほうが公平な判断が期待できるという評価や遠隔地学生の利便性、拘束時間の軽減というメリットが学生にとって歓迎するところとなっている。今後、企業は多くの課題を順次解決しながら、AI採用を徐々に拡大していくだろう。

7.通年採用への移行が始まった
採用活動のルールを決めた経団連の指針が撤廃されると発表されたのが昨年秋。その時、経団連会長から提言されたのが一括採用の見直しと通年採用への取り組み。しかし、この一括採用は、多くの企業にとっては効率的でメリットの多い採用方式。そう簡単に通年採用に切り替えられるものではない。通年採用も提言にあるようにグローバル人材や高度人材の採用には有効だが、新卒採用では、その対象となる人材はごく少数だろう。この通年採用は、外資企業や急成長企業、採用力のある企業にとっては既に導入済み。だから提言は、目新しいものでなく、企業や大学を困惑させただけだった。今後は、新卒採用が既卒者も含んだ通年採用になるのは必至だが、当面はまだ一部の企業にとどまり移行は緩やかなものになるだろう。だが、この提言によって新卒採用は大きな転換期を迎えたことは確かだ。