2019年7月 AI採用は、21年卒から本格化か

■主要企業の20卒採用活動は、6月中旬でヤマを越したが、内々定の早期化と短期集中は、さらに進行した。企業にとって採用業務の軽減と採否のスピードアップが大きな課題になってきた。そうした課題を解決するものとして昨年からAI採用が、注目されている。

▼一般にAI採用というが、その対象は、新卒者だけでなく中途採用やアルバイトの採用など広範囲にわたって導入されているし、採用活動のそれぞれの場面で活用されている。例えば、会社説明会や質問会、エントリーシート、論作文の採点、面接や能力や性格を深く掘り下げるテストも普及し始めた。かつてはコンピュータを使って大量のデータを高速で機械的に整理していた時代から本格的なAIシステムを導入して応募者と対話しながら人物評価、採否の判断業務まで行うようになった。

▼では、こうしたAI採用は、現在、どれくらい普及しているのだろうか。株式会社ヒューマネージの昨年8月の調査(※1)によると、新卒採用でAIを導入している企業は、まだ5.4%と意外に少数だった。しかし、導入に向け準備中と検討中と回答した企業が20.9%もあったことに留意したい。まだ普及したとは言えないが、関心は高く、AI採用に前向きな企業が、4社に1社もあることがわかった。

▼こうしたAI採用にいち早く取り組んだ企業としては、ソフトバンクの事例が知られている。同社は、応募者のエントリーシート(ES)の自動判定を2017年から実施している。それまで同社は、1年で約3万件もあるエントリーシート(ES)を採用担当者が読んで選考していたが、AI導入により、第1次選考にかかる時間を約75%削減、これによって採用担当者の負担が大幅に軽減されたという。このエントリーシート(ES)の選考とともに昨年から急増したのが動画選考。これは大手の食品会社や総合商社や保険会社など大手企業だけでなく地方のスーパーや信用金庫も導入して話題となった。その仕組みは、シンプルで、応募者は、志望動機などの質問に答える姿を応募者自身がスマホで撮影、録画し、企業の専用サイトに送信。企業は、受信した動画をもとに応募者の表情やコミュニケーション力、ポテンシャルを判断する。これは、動画によるエントリーシート(ES)ともいえるだろう。この動画について採用担当者は、エントリーシート(ES)を読み込むよりも本人が自分を語るのでその人の人柄や魅力が書類以上にわかるという。この録画からさらに発展させたのがライブ型である。応募者と企業側がスマホを介して質疑応答するのだからこれは面接といってよい。こうした動画面接は、インターネット経由なので企業は、地方の学生や海外の学生との面接・選考が随時可能になり、採用活動の範囲を大きく広げることになった。このほか、動画面接をしながら質問に対する回答で応募者の志望度、辞退可能性、能力や性格、将来性まで分析するという総合型のAI採用ツールも登場してきた。 

▼こうしたAI採用にどのようなメリットがあるかは、上記の事例を見てもわかるように採用業務の軽減、スピード化、採用地域の拡大、人材評価の客観性の4点があげられるが、まだまだ企業のAI採用への疑問や不安、課題は多い。この点について先の株式会社ヒューマネージの調査(※1)によると、AI採用の課題として最も多いのは「活用のイメージがわからない」という回答である。これは、AI採用でどこまで期待する人材が採用できるのか、採用業務がどれだけ軽減されるのか、どのレベルまでAIに選考を任せられるのか、という疑問のようだ。この回答が4割を占めていた。たしかにAIが選考した人材が優秀かどうかは断定できない。だが、これは、AIに期待すぎかもしれない。最終選考は、人間であり、リアルな面接が欠かせないはずだ。次に多かった課題は「具体的な進め方がわからない」という課題。従来の選考方法にどう代替し、どうすれば効果的なのかわからないようだ。このほか、「導入コストが高い」というのも3割あった。これは、普及するにつれて導入コストが低下することと対象人数によって変わるだろう。見逃せないのは、「社内の理解が得られない」という課題である。変革期によくある問題ともいえるが、企業にとって採用姿勢にもかかわるのでAI任せで業務の軽減というメリットだけでは押し切れないのだろう。

▼AI採用は、上記のような課題はあるが、今後の採用業務において技術はさらに発展し、企業や学生たちのAI採用への理解も進むことで確実に普及していくだろう。すでにスタートした20卒の新卒採用では、総合商社など大手企業が夏インターンシップの応募者に動画の提出を要求している。今年はAI採用については、トライアルから実用へと一歩踏み出す企業が増えるのは確実で、21卒の新卒採用は、「AI採用元年」となりそうだ。