■4月22日、経団連は、大学との産学協議会で議論した結果を中間報告書にまとめ、通年採用を進めていく方針を決めた。この報告書では、新卒一括採用を見直し「多様な採用形態に移行していく」として専門的なスキルをみることやジョブ型採用を取り入れる通年採用のニーズは高まっていると評価、経団連として通年採用を拡大していくと発表した。マスコミは、これによって終身雇用など日本的雇用慣行が見直され、グローバル時代の人事制度がスタートすると一斉に報じた。だが今後、通年採用が拡大普及することによって採用活動はどう変わるのか、採用現場の企業や大学には、それぞれ多くの課題がありそうだ。
▼通年採用の現状はどうか。リクルートの「就職白書2019」(※1)によれば採用の方法・形態ということでは、21.7%の企業が通年採用を導入していると指摘している。注目したいのは、従業員規模と業種による違い。従業員数5000人以上の大企業では、16.9%と少ないが従業員数300人未満の中小企業では、34.1%と目立って多い。業種別では、サービス・情報が30.8%、建設27.5%、流通21.9%、製造15.9 %、金融10.8%と差がある。この導入率は、中小企業や採用力の弱い業界ほど高いのが特徴だ。これら企業の導入目的は、提言にあるようなグローバル化やIT化を担う人材を獲得するためではない。採用活動をしてきたものの計画数を達成できないため春の一括採用の補完として不本意ながら通年採用を行っているのである。
これらの企業と反対の極にいるのが、外資系企業やIT大手企業、ベンチャーである。これらの企業は、他社に先駆けて「高度で専門性が高い人材」を早期に確保しようということで通年採用を掲げている。その採用活動は、夏にインターンシップやワークショップで学生を選考、年間で何回も内定出しを繰り返す。これらの企業は、学生にとっては、早期に内定を出してくれる企業であり、自分の力を評価してくれる企業とあって就職人気は高い。その注目点は、採用活動が通年であり、応募条件は、卓越した能力、国籍・年齢不問(ただし30歳以下)で既卒者や外国人だけでなく在学生にも内定(内定パス)を出すことにある。多彩な人材を求めて世界に開かれた採用というわけだ。これこそ本来的な通年採用の到達点だろう。
▼これに準じるのが経団連の目指す通年採用。当面は、グローバル化やIT化を担う人材を最優先で獲得するため年間を通じて採用・選考活動を行うことにある。従来の一括採用に比べると自社のペースで学生にアプローチし、自社にマッチした学生を採用することが狙いだ。そうなれば、外資系企業の早期採用活動に対抗できるし、外国人留学生や留学中の日本人学生などにも対応できる。多様性のある学生を随時、採用できることになる。従来の一括採用が、採用活動の集中によって企業も学生もワンチャンスだったものが分散化するのである。当然、企業の採用活動を規制してきた指針のようなルールも撤廃される。自由で多様な採用活動が実現できるのである。
▼このようなメリットがある一方、通年採用には、次のような課題もある。
- 掲載日:2019/05/09
2019年5月 一括採用から通年採用へ
- 能力重視の採用というが通年採用において企業が求めている能力とはどのようなものか、これまでの採用選考で評価していた能力とどこが違うのか、選考基準が大学や学生には不明だ。
- 通年で採用していることを通年で広報することも課題だ。応募者の質の確保のためには、企業側から要求する能力を明確にして学生などに企業から意図的にアプローチすることも必要だ。スカウト型採用も検討することになる。
- 通年採用では、要求する能力や経験が明確なジョブ型採用となる。今後、グローバル職やIT職から法務・会計・統計など専門職の開発が課題になるだろう。
- 能力主義の採用、ジョブ型採用が広がると採用戦略や採用の決定権は、即戦力的な能力を評価できる部門に徐々に移る。人事部から採用業務がなくなるのである。
- 通年採用の大きな課題は、効率的な採用である。採用広報・選考・面接・インターンシップなどどれも長期化するほど採用コストが増加する。
*このほか、通年採用の場合、新卒に限定されないので技術・知識・姿勢など能力主義賃金を入社時から適用していくことになる。研修も一律でなく個別になるか自己啓発が中心になる。配属や評価でのミスは早期離職、転職への契機にもなる。など年功序列からの離脱にかかわる課題は多い。
▼このように通年採用の現状と課題を確認したが、実際には、全面的に通年採用への移行に踏み切る企業は少ないだろう。これについては経団連も「一挙に通年採用に変わる話ではない。価値観や生活観と結びついていくので時間がかかる」と述べたように順次発進ということになりそうだ。だから当面は、一括採用と通年採用との二本立てになりそうだ。そうなると採用活動のスケジュールも継続されることになる。既に指針廃止となっても、何らかのルールは必要という声が強いので政府が経団連から指針を引き継ぎ、緩やかなルールを策定するとみられている。
あと数年、一括採用がどう見直され、通年採用がどのように発展するのか不透明なだけに、まだまだ混迷は続きそうだ。