2019年3月 「志望先を決めないで就活する学生たち」

■3月1日、就職情報が解禁されて20卒の採用活動が本格的にスタートした。すでに大学内では企業セミナー/業界パネルディスカッション、学外では大規模な合同説明会や各種就職イベント/1dayインターンシップが連日多数、開催されている。そうした中で学生の就活も一段と活発になってきたが、実際の学生の動きは緩慢で、1dayインターンシップ以外の就職イベントの参加者数は、どこも昨年対比減少の傾向がみられる。その原因は、数年来の求人ブームによる就職環境の好調さに加えてインターンシップ参加者に対する個別企業の囲い込み、学生による応募企業数のセレクションの強化があげられる。

▼昨年より速いテンポで展開している20採用だが、出遅れた企業にとって希望といえるのは、これから就活を本格化しようという学生が少なくないという情報だ。こうした学生には、3つのタイプがある。

その1は、就活に慎重な学生たちだ。何もしないで慎重だったのではない。主要な就職サイトには早期から登録し、興味のある業界や企業については、ホームページを見たり、就活学生相互のSNSなどから情報を得たり、1dayインターンシップに参加したりしてきた。そうした中で、興味ある企業の情報をできるかぎり多く集め、手元に引き寄せていたからだ。だが、こうした学生たちの多くが自己理解で戸惑い続けていたが、ようやく2月から周囲の動きに合わせるように動き始めたのである。

その2は、すでに内定を持っている学生たちだ。就職情報会社ディスコの学生モニター調査(※1)によれば、2月1日時点での学生の内定保有率は、8.1%と昨年より3ポイントも高いが、どの学生も就活をやめたわけではない。むしろ学生は、内定を持っていることを保険として、これから始まる人気企業や大手企業の就活に本格的に取り組むという。これは、内定を出した企業にとっては容認し難いが、新卒一括採用の現状では仕方あるまい。

その3は、一般の就活学生だ。昨年の夏からのインターンシップに参加し、学内外の企業研究会に参加し、自己理解を深め就職対策の準備をしてきた学生たちだ。すでに複数の企業の最終選考に残っている学生も多いが、もっと良い企業、自分に合う企業はないかと熱心に就活を続けている学生たちだ。   

▼では、これから就活を本格化するという学生たちの就職意識や活動は、どのようなものか。先のディスコの調査(※1)では、志望業界が「明確に決まっている」という学生は、34.4%いたが「決まっていない」という学生は21.3%だった。これから業界研究をする学生が2割超もいるということが注目される。興味深いのは、この「決まっていない」学生の数字が前年同期より6.6ポイントも高いということ。そして「決まっていない」という学生の今後の行動予定も面白い。これからの就活では、「志望業界を決めて就活したい」が54.3%、「このまま決めずに就活したい」が45.7%と半数近くが回答している。業界を絞らずに広く、個々の企業の説明会などに参加しながら就活するということらしい。

▼こうした学生たちの就活を見てみてもわかる通り、就職先の選び方は、業界でなく個別企業ごとに選定している。たしかに今日、業界を前提に企業研究をするという発想は古いし、産業界の実態とずれている。十数年前だったら業界の区分も企業の序列も明確だったが、現在では自動車・電機・化学・食品などの事業分野のように境界領域が重複するだけでなく別領域に展開している。そのため学生が就職先としてあげるのは業界より個々の企業であり、業界という枠組みを超えて企業を見るのも当然だろう。だから第一志望が異業種のトップ企業3社をあげても何ら違和感がなくなったのである。

▼このような学生の活発な就活の動きを読んで、大手企業は、3月上旬から学生にエントリーシートを提出させる動きを鮮明にした。これも先のディスコの企業調査(※2)だが、アンケート回答企業の54.6%(昨年は、47.1%)が受付を開始した。この時点でのエントリーシートとなれば、これまでの企業研究会やインターンシップ参加者が対象となるが、本気で志望しているかどうかを見極め、3月中旬からの本格的な面接に入るための選考とみて良い。そのためにエントリーシートを詳細に記入させたり、小論文形式にしたりして工夫を加えている。面接も人事だけでなく幹部社員との面接や面談会、そして少人数のグループディスカッションや5日間前後のインターンシップを予定する企業も目に付く。これは、学生の志望度を確認すると同時に念入りに面接をして内定辞退を防ぐためでもある。その背景には、4月から人事面接に入り、早期に内定を示唆したいという狙いもある。今年の場合は5月の10連休が深刻な問題で、大手企業の内定時期は形式的には6月上旬がピークだろうが、実態としては10連休の前の4月下旬に内定が示唆されることになって、20採用はヤマを越すことになると見られている。

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。