2019年11月 文科省の採用活動調査を読む

■文科省(文部科学省)は、10月30日、「2019年度 就職・採用活動に関する調査結果」の速報版(※1)を発表した(以下、本調査)。これは、本年度の就職・採用活動の状況について大学と民間企業に対してアンケート調査したもので、企業の選考実態や学業成績の取り扱い、インターンシップなど産学連携について、教育行政の立場から調査、分析している。本調査は、大学編と企業編の二本立てだが、本稿では、企業編を中心に紹介しよう。
企業編の主な項目をあげてみよう。企業の採用計画、採用状況、広報活動、面接・選考開始時期、内々定時期、内定辞退、学業配慮、学業重視度、学校推薦、留学者採用、インターンシップ、採用活動ルールの評価、オワハラ(※2)、セクハラ等々調査項目は多岐にわたる。ここにあげられている項目は就職情報会社の調査と共通するものが多いが、その結果は、かなり違う。文科省という行政機関からのアンケート調査なので、企業としては建前どおりの回答が多いからである。だから実態とかい離した回答が目に付くのは仕方ないが、本調査ならではという調査項目も少なくない。以下に、興味深い調査結果をいくつかあげてみよう。

▼20卒の採用計画がどうだったかは、目新しくはないが、本調査であらためて確認してみよう。昨年より予定数を増やした企業が30.8%から26.2%に減。採用予定数を減らした企業が12.5%から15.6%に増加した。これまで毎年のように採用数を増やしてきた企業の求人意欲にストップがかかったのである。その採用環境の変化を反映したのが企業の採用市場観。学生優位の売り手市場にあるという回答が69.9%から52.5%へと後退している。この傾向は、各就職情報会社の調査でも共通して指摘されていた。この新卒に対する求人意欲後退の原因は本調査では明らかにしていないが、景気動向の冷え込みや業務のIT化だけでなく新卒の採用難が深刻化する中で大量採用企業や中堅企業が中途採用や派遣に転換しているからであろう。それが、新卒採用のトレンドをマイナス方向に向かわせているようだ。

▼広報活動とは、指針によれば「自社の採用サイトあるいは就職情報会社の運営するサイトで学生の登録を受け付けるプレエントリー」というものだが、本調査では、3月1日を開始とした企業が最も多く54.1%(昨年は63.1%)、だった。こんなに多くの企業が指針を遵守していたという回答に驚く。その一方で2018年12月までに開始していたという早期開始企業は、22.8(17.0%)だった。昨年より増えている。こちらに注目したい。広報活動開始がより早期化したということである。
同様に選考開始時期については6月開始が最も多く24.1%(29.8%)だった。これも指針通りの模範回答だが、この質問には、率直に回答した企業も多く、3月までに選考を開始したという企業が33.9%、4月が24.1%、5月が9.5%と早期が増えた。今年の場合は、選考開始イコール内々定出し開始と読み替えると納得がいく。それにしても今年の5月の数字が極端に低いのは、10連休が選考活動を大きく停滞させたためだろう。
最近では、採用計画より採用予定者数の確保状況(8月1日現在)が知りたいところだ。これは、大企業と中小企業では大きく違う。本調査では、大企業は、「確保できた」のが49.6%(昨年は49.2%)と昨年並みだったのに対して中小企業は35.0%(27.5%)だった。中小企業の新卒採用がやや好転したものの採用難は相変わらずのようだ。

▼文科省らしい調査項目もある。企業が説明会や面接日、インターンシップの実施日程について学生に余裕をもって連絡したり授業に配慮したかである。このなかで「夕方や土日の説明会、面接」を行った企業が35.7%もあったのが目を引いた。文科省、大学の要望の成果といっていこう。文科省らしいといえば採用選考において学業成果の活用も調査している。「学業成果を表す書類やデータ」を求めている企業は76.9%だったが、採用選考において、どの程度重視しているかは、「大いに重視している」4.7%、「ある程度」47.6% 「重視していない」24.9%、「全く重視していない」5.7%という結果だった。しかし、重視企業にその中身を聞いてみると、成績81.5%、卒業見込み66.3%、履修科目46.7%だった。成績や履修内容より卒業できるかどうかが気になるようだ。
また学校推薦については、「学校推薦による採用は行っていない」と回答した企業は75.0%と圧倒的で、文系・理系ともに学校推薦を行っている企業は、8.6%に過ぎず、多くは理系で15.6%だった。

▼採用担当者が気になるインターンシップについては、どうだったろうか。調査結果のポイントを3つ挙げてみよう。 
1.インターンシップの目的は、「自社への理解促進」が34.7%、これに対して「潜在的応募者の確保(母集団の形成)」、「採用選考の一環」、「採用目的の説明会」などの合計が25.9%だった。インターンシップ本来の目的である「キャリア教育への貢献」という目的を挙げた企業が6.4%に過ぎなかったのは寂しい。「無回答」が23.1%もあったことも印象に残った。
2.インターンシップの目的を「潜在的応募者の確保」と回答した企業は、どの程度、その目的を達成できたのか。「目的が達成された」と「ある程度達成された」との回答を合わせると75.6%、これは、「あまり達成されなかった」と「母集団形成には効果がなかった」の回答合計の20.7%を大きく上回った。インターンシップが採用活動として効果があることが明確に示されたのである。
3.インターンシップで得た学生情報を採用選考で活用することについても聞いている。これは、原則不可なのだが、「活用したい」と「どちらかというと活用したい」との回答数を合わせると78.2%もあった。この調査項目は他では見かけないだけに注目される結果だ。企業には、文科省によくぞ回答したといいたい。 
このほか、指針や採用ルールについてあれこれ質問しているが、すでに日程については従来通りということで継続が決まっているだけに賛否を論じても採用担当者にとって興味を引くことはなさそうだ。

▼文科省らしい調査ということではオワハラの実態を企業に聞いていることは見逃せない。しかし、この問題を企業に聞いても実態は明らかにならないだろう。警告の意味なのだろうか。質問項目は、こうだ。「本年度の就職・採用活動において、学生に対し、他社への就職活動の終了を求めたことがありますか」。回答は、90.1%の企業は「ない」と回答したが、4.9%の企業は「ある」と回答したという。実際にはどうだろうか。 
またセクハラ行為防止のために対策をしたかという質問に対しては、「行っていない」という企業が68.5%、「行った」企業は28.1%だった。この結果はどうだろう。今後の企業の課題といえるだろう。このように本調査は、興味深い調査結果が随所にあり、来年度の採用活動計画を立案するにあたって参照する価値はありそうだ。


引用データ:文部科学省「2019年度 就職・採用活動に関する調査」(企業)調査結果【速報版】
調査対象:全国の企業 2,500社
調査時期:2019年7月17日~2019年8月7日
回答率:39.2%(有効回答数 980件)
(最終版は来年3月頃に公表予定)

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。