採用現場ニュース2018年07月

増える内定辞退と対策

■19卒の採用活動はほぼ山を越え、最後の局面を迎えた。これから各社の採用担当者は、10月1日の正式内定日?までの間、さまざまな「内定者フォロー」を行って内定辞退を防ぐことになる。最近では、大手企業でも内定辞退が増加しているが、地味な製造業や大量採用の流通・サービス業では、採用計画未達の企業が続出し、深刻な問題となっている。それでは、内定を持つ学生の気持や企業への期待、これに対する企業の内定者フォローとは、どのようなものか、有効な対策はあるのか、検討してみよう。

▼大手就職情報会社の調査によれば、すでに内定率は7割以上には達しているという。そうなれば、未内定で就活中の学生は、3割程度ということになるが、実際には違う。内定を持ちながらも就活をやめない学生が多いのである。同調査によれば、内定保有者のうちで「就活は終了した」という学生は、25.1%にすぎなかった。まだ7割強の学生が、就職サイトに登録したままであり、関心を持った企業にエントリーしたり、採用面接に参加したりしているのである。その気持ちは、「現在の内定先に不満なので就活を続ける」という学生が12.6%、「現在の内定先に不満はないが就活を続ける」という学生が29.6%もいるのである。これでは企業の採用担当者は気を抜けない。誓約書を書かせるぐらいでは安心できないだろう。 

▼多くの学生が、就活をやめようとしない理由は3つある。
第一は、早期内定のためである。就職情報が解禁され、内定するまでが3か月程度。だから学生は、十分に企業研究をしている時間的な余裕がない。3年生の秋から準備をしておけばよいというものの実際には就職サイトを見たり、企業セミナーに参加したりするなかで企業を知って応募していく。それが数か月と短期間だから、じっくり企業研究や先輩社員の声を聞く時間がない。とにかく関心を持った企業にはすべてエントリーしてとりあえず内定を取りに行く。応募できるチャンスが集中しているので重複内定は仕方ないのである。

第二は、学生の職業観。就職先について第一志望とか第二志望というこだわりがない。どうしてもこの会社に就職したいという動機が希薄なのだ。だから学生は、銀行、商社、メーカー、マスコミとの併願にはなんら違和感もなく、どこの企業の志望動機も上手に書き、面接を突破、内定する。企業側は、第一志望かどうかにこだわるが、学生は、志望順位にこだわりがない。むしろ学生が第一志望企業を発見するのは重複内定をして企業研究をしてからというくらいだ。

第三は、採用活動の通年化である。これは、求人難と採用活動の短期集中によって採用計画未達企業が増加したことと、大手有名企業が既卒者の採用、留学生の採用、二次募集などによって6月以降にも採用活動を継続してきたためだ。このことは、内定者にとっては、チャンス到来となった。現在の内定先に不満はないが、もっと魅力的な企業がないかと模索している。その結果、最後の局面であっても応募、合格すれば先の内定企業は辞退となるわけだ。

▼では、企業の内定辞退防止のためのフォローはどうか。先の大手就職情報会社の調査を見ると、もっとも多いのは、内定者懇親会。これは、会社の人間や一緒に働く仲間を知ってもらい、内定者同士のコミュニケーションを促進し、同期生意識を持たせるものだ。会社のイベントへの参加や食事会、会社見学などだが、これによって学生に自社への入社意思を固めてもらう。企業は、内定者懇親会に参加してもらうことで他社への迷いを払拭してもらうことを期待している。これは採用に自信のある大手企業に多く、気休めに近いが、学生は拘束が少ないので歓迎している。

次に多いのは、内定者同士のワークやゲームなどに参加し、意見交換できるSNSを運営する内定者フォローだ。これも企業の負担が少なく、学生にとっても学生生活に支障なく、全国各地の学生が参加できるという利点がある。そのため急速に内定者フォロー策として普及している。ただし、内定者相互に一体感はなく、社内報の電子版レベルが多い。内定辞退防止という抑止力に乏しい。
このほか、内定者を海外事業所に派遣したり、研修所に拘束したりする荒業もあるが、少数派。昔からあるのが入社前教育。入社までに仕事に必要な社会人としてのマナーや業務に必要な資格や知識、語学力などの講座をeラーニングや通信教育で行う。企業側の真面目な思い入れの割には学生からの評判は悪い。学生の精神的な負担が多いからだ。

▼しかし、こうした内定者フォローは、学生の不安や期待からするとどうだろうか。多くの内定者は、自分の能力はどのように発揮できるのだろうか、自分はうまく人間関係を築けるのか、同期の内定者はどのような人間か、という点に不安を感じている。そのため最近では、SNSやeラーニングなどバーチャルでなくリアルでグループメンバーとのコミュニケーションを重視する次のような取り組みが注目されている。

その一つは、「内定者インターンシップ」あるいは「ワークショップ」である。内定者に1週間程度の就業体験をしてもらう。あらためて各職場の仕事を体験してもらい、担当社員と話し合うなかで仕事を具体的に理解し、面白さや課題を見つけさせる。実際に働く職場を体験するのだから内定者は、企業について理解を深めることができる。

二つ目は「内定者キャンプ」である。懇親会の延長線上にあるが、内定者と社員が寝食を共にすることで、より密接な関係をめざす。会社の将来展望や創業時のエピソードを社長が語る企業もある。もっと気楽に会社を離れて研修所、ホテル、保養所などでハイキングやバーベキューなどを楽しむ企業も多い。

三つ目は「会社オープンデー」の開催である。これは、内定者だけでなく親をも対象としている。会社の運動会やイベントに合わせて行い、社屋や工場の公開だけでなく製品や商品の展示、販売、さらにはコンサートや内定者の親に向けた社長や役員の会社紹介や懇親会などである。ITやバイオ、BtoB、生活情報サービスなどの業界では親に事業内容を理解してもらうことが重要だとして多くの企業が取り組んでいるのが注目される。

★内定辞退は、企業に問題がなくても防ぐことができないケースが多い。学生や親の偏見や誤解が少なくないからだ。そのため企業の採用担当者が、内定者フォローとしてやることは、内定者の不安を少しでも軽減しておくこと、自信を失わせないこと、会社の魅力を発見してもらうことである。これが最後の局面に入った現在、採用担当者が取り組む重要な仕事である。

キャリアコンサルタント 夏目孝吉
キャリアコンサルタント 夏目孝吉

早稲田大学法学部卒業、会社勤務を経て現在キャリアコンサルタント。東京経営短期大学講師、日本経営協会総合研究所講師。著書に「採用実務」(日本実業出版)、「日本のFP」(TAC出版)、「キャリアマネジメント」(DFP)ほか。