第10回 人と組織の適合を考える

 あなたが、仕事を通じて世の中の役に立ちたいと考えているとしよう。会社が同じような理念をもっていれば、あなたは会社との一体感を感じることができ、仕事のやりがいも強まることだろう。あるいは、いまの会社があなたに不足している知識やスキルを会社が与えてくれ、あなたもまた仕事を通じて会社に貢献できると感じることができるなら、高いモチベーションで仕事を続けていくことができるだろう。一方で、自分が培ってきた知識やスキルが、今の仕事で求められているものとは何か違うと感じれば、仕事に不全感が生じて意欲が低下してしまうかもしれない。

さまざまな適合

 こうした問題は、人と組織の適合という視点でとらえることができる。人と組織の適合は、働くモチベーションにもさまざまな影響を与える。先の例でいうなら、あなたと会社の理念が共通しているということは、「個人と組織の類似性」に基づく適合関係であり、あなたにないものを会社が与えてくれ、あなたもまた会社に貢献できると考えるのは、「個人と組織の相補性」に基づく適合関係である。

両者の適合関係は他にも考えられる。たとえば、ブレッツとジャッジの二人の研究者は、つぎのような分類をおこなっている。

(1) 個人の知識やスキル、能力と、仕事に求められるものとの適合関係
(2) 個人がもつ欲求と、組織がそれを充足してくれる構造をもっているかの適合関係
(3) 個人が志向する価値と、組織が志向する価値との適合関係
(4) 個人のパーソナリティと、組織がもつ文化やパーソナリティ(個人が感じているもの)との適合関係

 このように、個人と組織の間にはさまざまな適合関係が考えられるが、一般的に両者の適合関係が良好な場合には、職務満足が高まる、離職率が下がり定着率が高まる、組織へのコミットメントが高まる、健康度が高まるなど、組織行動に関するプラスの効果が明らかになっている。

個人と組織の価値観の一致

 ブレッツらも指摘するように、個人が志向する価値と組織が志向する価値の一致は、両者の適合の重要な手掛かりとなる。人は自分の価値観と一致する状況に置かれたときには、ストレスも少なく、気持ちよく仕事に取り組むことができる。しかし、自分の価値観と組織の価値観にズレがある場合には、いろいろな場面で折り合いをつけることが求められ、多くの場合は自分の意に反して組織が求める行動をとらざるをえなくなり、ストレスも高まる。

 組織心理学者のオーライリらは、組織に働く人々を対象に、プロフィール比較法という方法を用いて、個人が志向する価値観と組織が志向する価値観の一致度を比較した。結果は、両者の一致度が高い場合には仕事への満足感が強まり、組織へのコミットメントも高まることが見出された。

 組織コミットメントについてはいくつかの定義があるが、「組織の目標と価値についての強い信念とその受容、組織のために努力しようとする意思、そして組織の中でのメンバーシップを維持したいという強い願望」であるととらえることができる(ポーターらの定義)。組織に働く人々は、自らの価値観と組織の価値観の一致度が高いと認知している場合の方が、両者のズレが大きいと認知している場合よりも、組織に留まることに快適さを感じ、組織目標を受け入れやすくなり、したがって組織コミットメントも強まる。

日本での研究

 上記の傾向は、欧米の研究では明らかになっているが、日本でも同様の傾向が見られるだろうか。
 筆者ら※は、旅行会社に勤務する女性従業員130名を対象に、プロフィール比較法を用いて個人と組織の価値観の一致度を探った。比較用の項目は、オーライリらの研究で使用されたものと筆者らが新たに加えた、計25項目からなっていた(表1)。

表1 個人と組織の価値観測定項目例

因子 項目の例
革新性 革新的である
機敏にチャンスをとらえる
細部への注意 注意深く慎重である
「規則」に基づいて判断する
寛大さ 寛大である
形式ばっていない
実力主義 問題や衝突に真っ向から立ち向かう
伝統的な性役割にこだわらない
成果重視 業績・成果を重んじる
よい成績への期待が高い

注)7件尺度により測定

この25項目について、自らが感じる望ましさ(個人の価値観)と、現在職場で強く感じられる組織文化を思い描いて評価してもらったもの(組織の価値観)について、その一致度をみた。

 結果は、両者の一致度が高い場合には、従業員の仕事満足度、組織コミットメントともに強まることが明らかになり、欧米と同様の傾向が確認された。個人の価値観と組織の価値観の問題は、人と組織がどのように調和を保っていくかという観点からも多くのヒントを与えてくれる。


※角山剛・松井賚夫・都築幸恵(2001)個人の価値観と組織の価値観の一致:職務態度の予測変数としてのパーソナリティ-職務業績関係の調整変数としての効果. 産業・組織心理学研究,14,25-34.

東京未来大学学長 角山 剛
東京未来大学学長 角山 剛

1951年生まれ。立教大学大学院修了。東京国際大学教授を経て2011年9月より現職。専門は産業・組織心理学。モチベーションの理論的研究をはじめとして、女性のキャリア形成、職場のセクハラ、ビジネス倫理意識などモチベーション・マネジメントの視点から研究に取り組んでいる。産業・組織心理学会前会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事、人材育成学会理事。近著に「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集委員長 丸善)など。