第7回 目標とモチベーション(3)

モチベーションは目標に向かうところに生じる。目標は、行動への方向を定め達成に向けての力を引き出す。であるがゆえに、どのような目標をどのように立て、どのように向かっていくかを考えることが大切になる。

自己効力感

 高い目標を達成すれば、それが自信となって「次もうまくできるだろう」という感覚が生まれ、さらに高い目標にチャレンジするモチベーションにつながる。この成果に結びつく感覚を自己効力感(セルフ・エフィカシー)とよぶ。ある課題の中で成功や達成に結びつく行動を、いかにうまくとることができるかについての、本人の自信の程度ということができる。禁酒すれば身体にはいいことがわかっていても、禁酒を実行できるかどうかは別である。実際に禁酒ができるかどうかの感覚(禁酒への自信)が自己効力感ということになる。
 自己効力感が高い場合には、人は努力し、高い目標にもチャレンジしようとする。自己効力感が低いとあきらめやすくなり、目標にチャレンジしようとするモチベーションは弱まる。したがって、高い目標にチャレンジするには自己効力感を育てることが役に立つ。概念の提唱者であるバンデューラによれば、自己効力感を生み出す源には以下の4つがある。

  1. 成功体験:直接に成功を体験することで「やればできる!」という感覚が強まる。失敗が続くと「今度もダメだろう」という気持ちが強まり、自己効力感は低くなる。
  2. 代理体験:自分で直接やらなくとも、誰かが成功しているのを見たり聞いたりすることで、自分もできるという感覚が強まる。
  3. 言葉による説得:ほめられたり、励まされたり、やり方を丁寧に説明してもらうことで、できるという感覚が強まる。
  4. 情緒的覚醒:その課題を遂行中に自己の内部に生じた生理的状態を意識することで、感覚に違いが生まれる。心拍数や血圧の高まりをアガリと意識するか武者震いと意識するかで、できるという感覚も違ってくる。これらは、番号が若いほど自己効力感への影響力が強い(図1)。

 松井賚夫氏(立教大学名誉教授)は、キャリアを伸ばしていくことについての自己効力感(キャリア自己効力という)という観点から、興味深い研究を行っている。この研究では、予備調査に基づき、男性的イメージの強い職業と女性的イメージの強い職業を10領域ずつ用意し、大学生を対象にそれぞれの職業についてキャリア自己効力感を測定した。すると、女子学生では、女性的職業領域のキャリア自己効力感は高いが、男性的職業領域のキャリア自己効力感は著しく低かった。一方、男子学生では、男性的及び女性的職業領域ともに高いキャリア自己効力感を示した。
 松井教授はこの結果を、社会が期待する性役割の違いからとらえている。すなわち、男性では、小さい頃から自立心やたくましさ、競争心などを身につけることが期待され、成長の中で将来のキャリア形成に広く役立つ自己効力感を強めていくことができる。
 これに対して女性では、やさしさや思いやり、従順さといった、受動的な役割が期待されることが多く、男性と比べるとキャリア自己効力感を強める機会とは結びつきにくい。したがって、能力的には同等であるにもかかわらず、男性的な職業でのキャリアに自信がもてないという傾向がでてくると考えられる。
 自己効力感は、具体的な目標に向かって何かを克服したり達成しようとする場面であれば、必ずといってよいほど関わりをもってくる。リハビリなどの医療場面、教育やスポーツの領域でも多くの研究が蓄積されており、その有効性が多くの場面で注目されている。目標設定理論の中でも自己効力感は重要な概念である。つぎにこの概念を取り入れたモチベーションモデルである「高業績サイクルモデル」を紹介しよう。

高業績サイクルモデル

図2 高業績サイクルモデル

 目標設定理論の提唱者であるロックとレイサムは、組織目標へのコミットメントを高めて業績改善を目ざす、包括的なモチベーションモデルを提唱している。「高業績サイクルモデル」とよばれるこのモデルでは、以下のような要因でサイクルが循環する。

  1. 具体的で高い目標と、それを達成できると思う高い自己効力感からスタートする。
  2. 目標と自己効力感は、行動の方向づけと達成への努力、粘り強さ(持続性)、さらに、目標達成のための効率的な戦略を発見しようとする意欲によって強まる。
  3. 目標と自己効力感が業績に与える効果は、個人の能力、目標へのコミットメント、目標達成に関するフィードバック、職務の特性、状況的な制約によって影響を受ける。
  4. 意義や成長を感じることができ、外的にも内的にも高い報酬につながる課題で業績をあげると、強い満足感が生まれる。
  5. 強い満足感は、この先も組織にとどまって自ら課題に取り組もうとする強い意思を生む。
  6. 課題に取り組もうとする意思は、さらなる具体的で高い目標の設定につながる。ここに①へと循環するサイクルが成立する。(図2)

 高業績サイクルモデルは、組織におけるモチベーション管理に影響する要因を、目標設定理論を基礎に整理したものであり、高い業績と高い満足の両方を得られる職場づくりを目ざす際の枠組として活用することができる。ロックたちはこのモデルを、企業組織だけでなく学校教育の場面にも適用できるものとして紹介している。

東京未来大学学長 角山 剛
東京未来大学学長 角山 剛

1951年生まれ。立教大学大学院修了。東京国際大学教授を経て2011年9月より現職。専門は産業・組織心理学。モチベーションの理論的研究をはじめとして、女性のキャリア形成、職場のセクハラ、ビジネス倫理意識などモチベーション・マネジメントの視点から研究に取り組んでいる。産業・組織心理学会前会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事、人材育成学会理事。近著に「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集委員長 丸善)など。