第4回 期待とモチベーション

明日は久々のゴルフ。青い芝、カップに吸い込まれるボールの音。仕事なんか放り出してゴルフ三昧の日を送ることができたらどんなにいいだろう。いっそ今からプロを目指して本格的に練習してみるか・・・。

などと"妄想"に浸るのも悪いことではない。しかし、冷静に考えればどんなに努力しようとも自分の力ではプロになどなれるわけがない。万分の一の可能性もないことをあらためて自覚し、せいぜい月一のコースを楽しむ。これが大方のゴルフ好きの心境であろう。

ところで、この万分の一の可能性がもし百分の一であればどうだろうか。たとえ1パーセントの確率であっても、努力すればプロも夢ではないという可能性が高まれば、あなたは思い切ってプロを目指すだろうか。あるいは10パーセントならどうだろう。男性諸氏なら妻や恋人が止めるのも聞かずにプロゴルファーへの可能性に賭けてしまうだろうか。

3つの要因

道具性期待理論の要素

心理学者のビクター・ヴルーム(Vroom,V.)は、人々のモチベーションがどのようなときに強まったり弱まったりするのかを、期待という認知的な概念を中心に据えて解明しようとした。彼の理論は「道具性期待理論」とよばれる。ここで期待(Expectancy:以下E)とは、上の例でいうなら「練習すればプロへの道も夢ではない(プロテストに合格できる)」という本人の見込みを意味する。見込みすなわち主観的な可能性(確率)であるので、数値は0~1で表される。

ではこの期待だけでモチベーションが決まると考えてよいだろうか。日本のプロゴルファーは5千人。トーナメント賞金だけで食べていける人など、この中で20人もいないだろう。それでも、プロになることの魅力は大きいものがあるかもしれない。この魅力は誘意性(Valence:以下V)とよばれる。誘意性もモチベーションに影響する変数である。

さらに、プロになることへの魅力の背景には、プロになれば周りから賞賛される、好きなことが出来るといったことへの魅力が潜んでいるかもしれない。ここで、プロになることへの魅力は第1次結果の誘意性とよばれ、プロになることがもたらすであろう後者の魅力は第2次結果の誘意性とよばれる。中には、プロになればいままでのゴルフ仲間から祝福どころか妬まれてしまうかもしれないという負の魅力も考えられる。したがって、Vは数値的にはマイナス1~プラス1までの間で変化する。

ヴルームによれば、ある行為(プロになること)が第2次結果(周りから賞賛されるなど)をもたらす見込みが高ければ、その行為のもつ誘意性は高まると考えられる。この見込みは道具性(Instrumentality:以下I)とよばれる。つまり道具性とは、第1次結果を得ることが第2次結果をもたらす道具として役に立つ本人の見込みであり、Eと同じく0~1で表される。

モチベーションの予測式

ヴルームによる予測式

妄想のプロゴルファー(!)の話に戻ろう。プロへのあこがれ(誘意性:V)が強くても、なれる見込み(期待:E)が低ければ、結果としてプロになろうとするモチベーションは強まらない。また、努力すればなれるかもしれない(E)と思えても、プロへの魅力(V)が弱ければ、やはりプロになろうとするモチベーションは強まらない。

つまり、モチベーションの強さはEとVとの相乗作用によって規定されると考えられる。ヴルームはこれを、Force(力)=(E×V)という公式で表した。ここで力とはモチベーションを意味する。かけ算であるので、2つの値が大きければ力も大となるが、どちらかがゼロであれば力はゼロになる。つまりモチベーションは生じない。

この式の中でのVは、第1次結果(プロになる)を得ることが第2次結果(周囲からの賞賛、好きなことができるなど)につながる手段としてどれくらい役立つか(道具性:I)によって決まる。つまり、V(ここでは第2次結果の誘意性)×Iで求められる。したがって上の式はF=E×(V×I)となる。

さらに、誘意性をもつ第2次結果は複数が考えられるので、結局この式はF=E×Σ(V×I)となる。式の各要素は、質問項目を用意して数値で測ることが可能であるので、モチベーションの強さを予測することができる。    

ここからは、モチベーションがなぜ、どのように強まるのか、あるいは弱まるのかを説明することが可能となる。このような理論はモチベーションの過程理論(process theory)あるいは過程モデル(process model)とよばれる。

(ちなみに筆者はゴルフはたしなまない。念のため。)

東京未来大学学長 角山 剛
東京未来大学学長 角山 剛

1951年生まれ。立教大学大学院修了。東京国際大学教授を経て2011年9月より現職。専門は産業・組織心理学。モチベーションの理論的研究をはじめとして、女性のキャリア形成、職場のセクハラ、ビジネス倫理意識などモチベーション・マネジメントの視点から研究に取り組んでいる。産業・組織心理学会前会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事、人材育成学会理事。近著に「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集委員長 丸善)など。