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第3回 内発的モチベーション

内発的モチベーション

成果を出して給料が上がった(「やった─!」)、仕事ぶりを課長にほめられた(「よし、もっと頑張るぞ!」)等々、モチベーションを高めるためのインセンティブはいろいろある。給料や上司からのほめ言葉など、外部から与えられるインセンティブに基づく「外発的モチベーション」は効果も高いが、使い方に注意が必要である。なぜか。人は刺激の強さが変わらない場合には順応を起こし、反応が鈍くなってしまうのだ。「アップの幅が狭い」「課長のほめ言葉も聞き飽きた」というように、そのままでは次第に効果が薄れてしまうということだ。

心理学者のデシ(Deci, E.L.)は、外発的モチベーションに対して、内的なインセンティブに基づく「内発的モチベーション」の考え方を提唱した。今回はこの内発的モチベーションについて見ていくことにしよう。

有能感と自己決定への欲求

有能感と自己決定への欲求

デシによれば、人は生得的に有能感と自己決定への欲求をもっており、この2つがモチベーションの重要な源泉となっている。有能感(competence)とは、自己がおかれている環境に効果的に対処できる能力もしくは力量をいう。自己決定(self-determination)とは、この能力あるいは力量に基づき、自分の意思で行為を選択することをいう。

人は有能感をもつことで行動の主体としての自己の存在を意識することができ、自ら決定し行動を選択することで納得して取り組むことができる。ここから、外部環境に偶然的に支配されるのではなく、自らが主体となって自律的に環境を支配しようとする行動へのモチベーションが生まれる。

ちなみに、故事成語にある「衣食足りて礼節を知る」は、衣・食という基本的な欲求が充足された後に、礼や節という社会的な交わりに必要な高次の欲求が芽生えると解釈できる。洋の東西を問わず欲求階層の符合するところが面白い。


内発的モチベーション(intrinsic motivation)

内発的モチベーション(intrinsic motivation)

昇進や昇給、周囲からの賞賛といった、外部からの報酬によるモチベーションに対して、達成感や充足感といった内部から湧き出る感覚が報酬となるモチベーションは、内発的モチベーション(intrinsic motivation)とよばれる。デシによれば、内発的に動機づけられた行動とは「人がそれに従事することにより、自己を有能で自己決定的であると感知することのできるような行動」である。達成感や充足感は、自己の有能感や自己決定感を高める内的な報酬となる。

先に述べたように、外発的モチベーションももちろん効果はある。しかし、たとえば金銭的報酬は、一度使い始めれば途中でやめたり後戻りすることはできない。頑張って結果を出しても報酬が上がらないとなれば、やる気は失せてしまう。上司からのほめ言葉も度重なると新鮮さはなくなってしまう。

これに対して、仕事から得られる達成感や充実感は、さらなるチャレンジの意欲につながり、またそのチャレンジを成し遂げようとするモチベーションを生む。その根底にあるのは、デシの言葉を借りれば有能感と自己決定感への欲求である。



内発的モチベーションの変化

内発的モチベーションの変化には3つの場合が考えられる。  第1は、本来は内発的に動機づけられている行動に対して外的な報酬が与えられた場合、内発的モチベーションは弱まる。つまり、「自分の意思で選んだ結果の行動である」という因果関係の認知が、「報酬目当ての行動である」という認知に変化してしまう結果、内発的モチベーションが弱まってしまう。

第2は、有能さと自己決定の感情が高まると、内発的モチベーションは強まる。反対に、有能さと自己決定の感情が低下すると、内発的モチベーションは弱まる。自分が思うように進めることができ、思うような結果を得ることができる場合には、内発的モチベーションが強まり、活動に面白さを感じて我を忘れるくらい没入することができる。

第3は、報酬がどのように受けとめられるかによって内発的モチベーションも変化する。その報酬によって自分の行動がコントロールされている(「報酬のためにその行動をとっている」)と感じる場合、内発的モチベーションは弱まる。一方、その報酬が自分の有能さと自己決定感によってもたらされたものである(「成し遂げた成果に対して与えられた報酬である」)と感じる場合、内発的モチベーションは強まる。


物質的報酬だけがモチベーションの源泉ではない

有能さや自己決定への欲求は、人が、自分の行動が報酬や命令によって外部から強制されることを嫌うという、束縛からの自由を望む存在であることを示している。したがって、余分な報酬が与えられると、内発的なモチベーションが削がれ、本来面白いと感じることのできる行動であっても、その魅力を失わせてしまうことになるのである。

物質的な報酬(外発的モチベーション)ももちろん必要ではあるが、長期的に見た場合には、外発的モチベーションだけに頼るのではなく、行動それ自体の中に興味や充足感を見いだすことができ、自己の成長を実感することができるような、内発的モチベーションによるマネジメントが必要である。

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角山剛 モチベーション論

角山剛 モチベーション論
「モチベーション」をテーマに、その理論背景や研究内容を、東京未来大学の角山剛教授にやさしく解説いただきながら、実務に生かすためのコツをご紹介するコンテンツです。

東京未来大学学長 角山 剛

1951年生まれ。立教大学大学院修了。東京国際大学教授を経て2011年9月より現職。専門は産業・組織心理学。モチベーションの理論的研究をはじめとして、女性のキャリア形成、職場のセクハラ、ビジネス倫理意識などモチベーション・マネジメントの視点から研究に取り組んでいる。産業・組織心理学会前会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事、人材育成学会理事。近著に「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集委員長 丸善)など。

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