第1回 モチベーションとは? 

モチベーションとは?

モチベーションの特徴

モチベーションとは、目標に向かって努力し、その達成を目ざそうとする意欲を意味する。仕事における意欲はワーク・モチベーションとよばれる。心理学者のピンダーは、ワーク・モチベーションを「個人の内部および外部にその源をもつ一連の活力の集合体であって、仕事に関連する行動を始動し、その様態や方向性、強度、持続性を決定づけるもの」と定義している。

すなわち、モチベーションは行動を発動させる心理的エネルギーであって、このエネルギーは次のような特徴をもつ。
モチベーションのシステム的とらえ方

ここに共通するのは目標(goal)志向性であり、目標が存在するところにモチベーションが生まれる。いいかえれば、目標のないところには明確なモチベーションは生まれない。何も目標がないところで「さあ、がんばれ!」と部下の尻を叩いても、それは部下が迷惑なだけである。どのような目標をもち、目標達成に向けてどのような方略を考えていくか。これがモチベーションを高めるための重要な手がかりとなる。 もう一つ、これらの特徴は、モチベーションがフィードバック・ループをもつシステムとして位置づけられることを意味している。心理学者ダネットとキルヒナーは、これを図1のように表現している。

モチベーションを理解する上での注意

心理的エネルギーであるモチベーションは、直接に観察したり触れたりすることはできない。したがって、外部に現れる行動を手がかりにして間接的に推測せざるをえない。それだけに、表出された行動からモチベーションを推測するには注意が必要である。 たとえば、Aさんが仕事に精出すのは、高い報酬を得たいがために見えるが、しかし実は仕事そのものに魅力を感じていることが大きな理由かもしれない。また、同じに見える行動であっても、その行動を引きおこしているモチベーションは、人によってさまざまに異なっていることもある。さらには、たとえ目標は同じであっても、それを追求する行動は人によってさまざまに違いがある。 したがって、部下の意欲を引き出すためにも、仕事へのモチベーションをどのような視点からどのようにとらえるかがを考えていかねばならない。

欲求とモチベーション

接近欲求と回避欲求

ワーク・モチベーション研究の流れを理論的に整理する上では、内容理論(content theory)と過程理論(process theory)という分類がよく知られている。内容理論とは、何が人を動機づけるのかという、モチベーションの源泉に着目する一連の理論をさす。その背景には欲求(need)の存在が仮定されている。  欲求とは、生理的なものも含めた願望や期待など、行動を生み出す内的な欠乏状態であり、具体的な行動へのモチベーションの引き金になるものである。理論的には、対象に近づく行動を生む接近欲求と、対象から遠ざかる行動を生む回避欲求が考えられる。

接近モチベーションの強化を

接近欲求は息の長いモチベーションを生み出す。たとえ目標が遠くにある場合でも、そこに少しずつでも近づくことで、充実感や心地よさ、達成感を得ることができるからである。また、目標に近づくとその行動へのモチベーションは強度を増し、達成に向けて一層の努力が生まれる。 これに対して回避欲求は、対象に近づくほど強い回避モチベーションを生むが、対象から遠ざかるとそのモチベーションは急速に弱まるという特徴をもつ。回避モチベーションで部下の行動を管理することはできるが、しかしそれは長続きしない。上司から睨まれるのが怖くて嫌々ながら仕事している部下は、上司の目が届かないところでは手を抜くことが多くなるものである。 したがって、回避モチベーションではなく、接近モチベーションを強めることが、長い目で見れば仕事に対してプラスの効果をもたらす。納得のいく目標の設定、努力に対する公正な評価、長期にわたる展望、職場における信頼感の醸成などは、接近モチベーションの強化に役立つ。

東京未来大学学長 角山 剛
東京未来大学学長 角山 剛

1951年生まれ。立教大学大学院修了。東京国際大学教授を経て2011年9月より現職。専門は産業・組織心理学。モチベーションの理論的研究をはじめとして、女性のキャリア形成、職場のセクハラ、ビジネス倫理意識などモチベーション・マネジメントの視点から研究に取り組んでいる。産業・組織心理学会前会長、日本社会心理学会理事、日本グループ・ダイナミックス学会理事、人材育成学会理事。近著に「産業・組織心理学」(共著 朝倉書店)、「産業・組織心理学ハンドブック」(編集委員長 丸善)など。