第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由

 新卒採用の難化が進んでいます。新型コロナの影響で、一旦は求人倍率が1.50倍まで下がったものの、23年卒では1.58倍まで回復しました(※参照1)。新卒人材の充足率は78.5%と、過去10年で最も低い数字にとどまり、前年より採用人数を増やす企業が増加しています(※参照2)。24年卒採用はさらに売り手(学生優位)市場が強まり、厳しい採用環境となるでしょう。

 中長期的な視点で見ても、採用の難化は避けられません。少子化が新卒採用に影響を与えはじめているためです。横ばいが続いていた18才人口が2018年から減少期に入り、4年制大学をストレートで卒業した場合の22才人口は、すでに下降しはじめています。24年卒生(現大学3年生)の予測人口は116.7万人で、これが4年後には106.3万人と、一気に10万人強も減少します(文部科学省「学校基本調査」より算出)。大学進学率は約5割なので、大卒人材が5万人ほど減る計算になります。

 苦労して貴重な新卒人材を採用するわけですから、入社後は確実に育成したいものです。しかし、これも一筋縄ではいかなくなっています。職場や仕事に適応できず、早々にドロップアウトするケースは珍しくありませんし、「言われたことはやるが、言われたことしかやらない」など、育成関連の相談を受けることも増えました。

 新卒人材の育成を考える際は、以前とはスタートラインが異なることを念頭に入れておいてください。大学でキャリア教育科目を担当している立場で言えば、入学時点の成熟さがすでに違います。周囲からの配慮やサービスが手厚くなったことで、自分で物事を考え、決断する場面が減りました。受け身でいられる子供の時間は、ますます長くなっています。

 大学生活でも、以前ほど多様な人間関係や経験を得ることが難しくなりました。SNS情報などがリッチになり、スマホ1つで対処できることが多くなっています。ネット情報の活用能力は向上していますが、体験から得られる人間的な成熟度は低下していると言えるでしょう。新入社員研修を終えたら、あとは現場のOJT(On-the-Job Trainingの略)で対応する従来型では、学生から社会人へのトランジット(移行)が難しくなっています。そろそろ新卒人材の育成プロセスを、見直すタイミングと言えそうです。

 お勧めしたいのは、OJTに入る手前でワンステップを追加する方法です。鮭の稚魚が海に出ていくまでのプロセスで説明します。川の上流で生まれた稚魚は成長しながら川を下り、真水と海水が入り交じった河口付近の汽水域でしばらく体を慣らします。海水で生活できるだけの準備を整えて、海へと出ていくわけです。この汽水域で過ごす時間が、大学生活にあたります。以前は、この汽水域の4年間があれば、概ね円滑に社会人に移行することができました。しかし、それが難しくなっています。その手前でワンステップを追加して、「生けす」で育成する期間を設けてみてはいかがでしょう。

 この「川(高校)→汽水域(大学)→生けす(追加の育成期間)→海(職場)」という育成プロセスを考える場合、NTTデータの「本部内インターンシップ」が参考になりそうです(※参照3)。新入社員でチームを組み、3カ月毎に事業部別のジョブを経験しながら、1年間かけて育成する取り組みです。ここでの育成は実務スキルではなく、主体性やチームワークの醸成を目的にしています。複数の部署や社員と協働して、組織として成果を出すには、現場に入る一歩手前で、社内リソースを活用するトレーニングが有効なのでしょう。

 生けすステップを検討する場合、ジャンプをすれば手が届くレベルの育成用業務を用意すると良いでしょう。複数の部署と連携する必要があるものが適しています。「業務マニュアルの改訂」や「デジタル化の検討」などであれば、関連部署とのやりとりが生じますし、組織全体の仕事の流れを理解することもできます。手取り足取り教えることはせずに、見守り、伴走するスタイルの育成者を置いて、安心して失敗できる環境を整えることも大切です。

 人材育成力が高ければ、採用選考の選抜性を低く押さえられます。人材の獲得が容易になるので、さらに難化が予想される新卒採用にも対処できるでしょう。新卒人材を安定的に獲得するためにも、自社の育成力を向上させたいものです。そろそろ育成プロセスを見直すタイミングなのかもしれません。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント