新年度をむかえ、多くの若者が新社会人となりました。今年の新入社員は、インターンシップから内定式まで、ほとんどがオンラインです。対面で先輩社員と上手くやっていけるか、リアルな職場に馴染めるかなど、コミュニケーションに緊張や不安を感じている人は多いでしょう。何気ない会話を通して、安心させてあげてください。
雑談時の話題として、簡易年表を作ってみました(4年制大学をストレートで入学、卒業した場合)。
<2022年度、新入社員年表>
・1999年生まれ
・2004年(5歳)日本の人口がピーク
・2007年(8歳、小学2年)YouTube日本語版開始
・2008年(9歳、小学3年)Twitter日本語版開始、リーマンブラザーズ破綻
・2011年(12歳、小学6年)東日本大震災が発生、LINE開始
・2013年(14歳、中学2年)東京オリンピック開催決定
・2016年(17歳、高校2年)高校生のスマホ所有率93%、マイナス金利
・2017年(18歳、高校3年)「忖度」が流行語大賞
・2019年(20歳、大学2年)「平成」から「令和」へ
・2020年(21歳、大学3年)新型コロナにより大学はオンライン授業に
・2021年(22歳、大学4年)東京オリンピック開催
人口が減少していく社会で育っています。小学生のときにYouTube、Twitter、LINEといったSNSサービスがスタートしました。リーマンショックや東日本大震災も小学生のときです。東京オリンピック・パラリンピックの誘致が中学2年生で決定し、大学4年生のときに1年遅れで開催。新型コロナによって規模は大幅に縮小されましたが、学生ボランティアとして参加した人もいるでしょう。光と影を交互に体験しながら、成長してきた世代と言えそうです。
また、成熟した社会性を獲得するための大学生活を、半分近く損なった世代でもあります。それまでいた集団を離れ、異なる環境や文化で育った人たちと交流することで、言葉遣いや挨拶の意義、人との物理的もしくは心理的な距離感の適切さなど、社会的な立ち振る舞いを成熟させていきます。そうしたトレーニング機会が得にくく、家族を中心とした同質的コミュニティーで過ごすことを強いられました。例年よりも、未成熟さを残している人は多いでしょう。
育成する立場からすれば、今年の新人は大変そう…ということになりますが、コミュニティーに未成熟な人間がいることで、組織(チーム)力が高まる可能性もあります。
数年前の新入社員研修の出来事です。受講生のほとんどは大卒および院卒でしたが、数名の高卒者もいました。この年代の4~6歳差というのは大きく、経験値も知識量も格段に違います。チームでビジネスワークをおこなうプログラムでは、研修内容についていけるか、メンバー同士の協働が成り立つのか、少し不安でした。しかし意外なことに、高卒者がいるチームの方が、より円滑にビジネスワークをこなし、活発な対話が成立していたのです。
印象的だったのは、休憩時間の過ごし方です。多くの受講生はスマホを取り出し、画面を見ながら、たまにメンバーとおしゃべりをする…といった感じで過ごしています。でも、高卒者がいるチームは「△△はテキストのココを参考にするといいよ」「〇〇の書き出しは私が手伝うね」など、最年少メンバーを中心に、多くの会話が成立していました。結果として、よりスムーズな協働が機能したのでしょう。
経営学の古典的研究では、新メンバーの加入効果として、組織や職場の活性化をあげていますが、新卒採用では未成熟さという要素が加わることで、周りの人間の庇護欲も高めているように感じます。新型コロナをきっかけにテレワークが増え、職場のコミュニケーションは乏しくなっています。だからこそ、新入社員への庇護欲を組織(チーム)内コミュニケーションのトリガーとして活用し、既存メンバーの協働を引き出す効果が期待できそうです。意欲ある未成熟な若者は、その存在だけで組織に貢献しているのかもしれません。つまり、新入社員の大切な仕事の1つは、多くの先輩社員に助けてもらうことなのでしょう。
※当コラムに記載されているシステム名・製品名などには、必ずしも商標表示(Ⓡ、TM)を付記していません。当コラムに記載されている会社名・製品名・ロゴマークは各社の商号、商標または登録商標です。
- 掲載日:2022/04/07
第73回 新入社員の大切な仕事
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
バックナンバーを全て表示

キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント