新型コロナによって、大学生活は大きな制約をうけました。制約と言っても、デメリットばかりではありません。オンライン授業やオンライン就活にメリットを感じる場面も多々ありました。新たな“対面とオンラインの特性を活かした大学生活”への期待もあります。しかし同時に、未成熟さを残している二十歳前後の学生が、オンライン生活で受ける影響を危惧する気持ちもあります。特に、数多ある有象無象のネット情報と、どのように付き合っていくのか……難しさを感じるケースが増えてきました。
就職活動で言えば“情報収集の偏り”が目立ちます。以前から、SNSや動画で選考対策や口コミ情報をチェックする方法が広がっていましたが、好まない学生層も少なからずいたので、意外と限定的でした。多様な情報の入手経路(ex.大学の友人や先輩、ゼミの先生やメンバー、キャリアセンターなど)も、対面による偶発性で確保されていたので、それほど偏らず、バランスを保てていたように思います。
しかし、“おうち時間”が増えたことをきっかけに、オンライン情報への偏重傾向が強まったと感じます。オンラインOBOG訪問など、本人が能動的に動いて得る情報はよいのです。懸念しているのは、眺めるだけで分かった気になるTwitterやInstagramなどのSNS情報、YouTubeなどのインパクト重視の動画情報です。本人の閲覧履歴が反映されやすい情報ポータルサイトでは、どうしても偏りが生じます。
また、情報収集のオンライン偏重をうけて、「元採用担当者」「キャリアアドバイザー」などが情報発信する就活アカウントが目立つようになりました。多くは有益な内容ですが、中には「ちが~う!」と画面に向かって叫びたくなるような内容もあります(笑)。
例えば、あるアカウントでは、録画選考の心得として「内容よりも印象!」と明言し、視覚的アプローチ(ユニフォームを着てパフォーマンス、模造紙に「伝えたいこと」を書くなど)を紹介していました。人が評価する録画選考なら、それも1つの戦略ですが、視覚より内容を重視する企業だってあるはずです。人だけでなくAIも評価する面接システムでは、マイナス評価されかねないアプローチになります。このアカウント運営者は、元採用担当者という経歴でしたが、「自分が関わった企業の選考アドバイス」という情報の限定性を示していないことが気になります。
別アカウントでは、就活マナーのアドバイスとして、逆質問に回答してもらったあと「参考になります」と返すのは間違い!面接官が嫌がる言葉遣いです……と書いていました。これが“間違い”なら、何が“正解”なのか? 「勉強になります」だそうです。私の頭の中は「?」マークでいっぱいになってしまいました。学生を不安にさせる内容が多いこのアカウントは、オンライン専門の就活塾のものでした。
ある学生に、就活で参考にしたYouTubeチャンネルを尋ねたところ、人気タレントの動画を紹介されました。オンラインで見栄えする話し方、インパクトある話の組み立て方が勉強になるそうです。自分と似たタイプのタレントであれば参考になるかもしれませんが、見栄えやインパクトだけで内定が出るわけではありません。「こんなふうになりたい」という憧れだけで真似をすれば、イタイ就活生になってしまいそうです。
SNSや動画の就活アドバイスには、奇をてらった内容が一定数存在します。鵜呑みにせず、自分で判断することが大切ですが、実社会の経験が乏しい学生には、簡単なことではありません。不安ゆえ、正解を求める気持ちが強く、断言してくれるアドバイスに傾倒しがちです。それが、実社会や社会人に対する誤解につながっていることも少なくありません。
年明けからは、23年卒採用が本格的に動き出します。学生と話をする機会も増えてくるでしょう。もし、情報の偏りや誤解を感じたら、異なる考えがあることを示してあげてください。信じていた情報と違うアドバイスで、混乱する学生がいるかもしれません。そんなときは、「複数の社会人が同様のアドバイスをする場合、マナーや習慣に該当する社会人として意識すべき内容。人によって異なるアドバイスは、その人が経験した仕事や業界の流儀に影響されているので、自分の好みで取捨選択して大丈夫」と、私は伝えています。
複雑で多様化した世の中です。すべての学生に当てはまるアドバイスは少ないでしょう。それを理解しながら学生と向き合い、意見の限定性を伝えることを大切にしています。そのうえで、学生自身の意思で、ものごとを取捨選択してもらうことが、ネット社会で生きていく彼らの社会的成熟を促していくように考えます。
※当コラムに記載されているシステム名・製品名などには、必ずしも商標表示(Ⓡ、TM)を付記していません。当コラムに記載されている会社名・製品名・ロゴマークは各社の商号、商標または登録商標です。
- 掲載日:2021/12/17
第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント