仕事柄、「今年の就職活動の動向は?」といった質問をよくいただきます。端的な言葉でビシッ!とお答えしたいとは思うのですが、なかなかうまくいきません。「○○な傾向になっていますが、△△な一面もあるし、全く異なる□□な動きも見られて…」と、いつも話が長くなりがちです。
該当年齢における過半数の若者が大学生と呼ばれるようになり、学部学科の種類も今や数え切れません(学士で700種超)。採用プロセスも複線化しているため、スタート時期も一様ではなくなっています。“大学生”という大きな主語で、一括りに動向を説明するのが本当に難しくなっているのです。
もし、冒頭の質問に一言で答えるとすれば、“人それぞれ”という全く返事になっていない回答になってしまいそうです(笑)。どれぐらい“人それぞれ”なのか。私が見聞きした範囲ですが、幾つかのケースを紹介します。
- 掲載日:2021/10/18
第70回 “人それぞれ”な就職活動
■早期選考狙いの学生
インターンシップ参加学生を対象に、早期選考を行う企業が増えています。インターンシップの実施目的は企業により様々で、採用プロモーション中心のものもあれば、早期選考を意識したものもあります。募集時に企業意図は明記されないので、どれが早期選考につながるプログラムなのか、学生からは分かりにくい状況です。この学生は早期選考に狙いを絞り、先輩の口コミサイトを丹念に調べて、優遇ルートのあるインターンシップを見つけていったそうです。さらに、競争率の高いBtoC企業は避けて、夏10社、冬3社のインターンシップに参加し、最終的に3社の内定を得ました。早期に動き始めたので、就職サイトの情報は多くありません。OBOG訪問アプリを使って50人近い社会人と会い、情報や知識を収集したそうです。「短時間で良いので…」と依頼すれば、オンラインなら昼休みなどで都合を付けてくれる社会人も多かったらしく、効率的だったと話していました。「ほぼ計画通りに進めることができた」という力強い発言には、社会人としてのポテンシャルの高さを感じさせます。
■新卒エージェントと二人三脚な学生
「就職活動でメンタルをやられるのが怖い」「選考に落ち続けたら心が折れる」。自分の弱さが分かっているからこそ、ストレスの少ない就職活動をしたかったという学生は、“新卒エージェント(新卒専門の人材紹介)”で就職先を決めました。初めての就活は、分からないことだらけです。選考に落ちても、理由を説明してもらえることは稀です。でもエージェントがいれば、すぐに質問できるし、理由も教えてくれます。「社風や仕事内容も詳しく説明してくれて、不安なく就活できた」と、満足そうに話してくれました。結局、担当エージェントに勧められた企業から内定を得て、そこで就活終了。本当に本人による意思決定なのか…という不安は残りますが、まさに二人三脚の就職活動と言えるでしょう。
■超売り手市場の高度テクノロジー人材な学生
画像解析とAIについて研究している大学院生は、「話し下手なので就活への不安はありましたが、驚くほどスムーズに決まりました」と、自身の就職活動を振り返っていました。学会発表や研究に忙しく、何も準備できないまま、先輩情報を頼りに幾つかの企業にエントリー。すると企業から、「一度、お話ししませんか」と連絡が来たそうです。OBOG訪問なのか、面談なのか、面接なのか…。判断しにくい企業側からのアプローチに応じていたら、知らないうちに選考が進んでいたと話してくれました。もともと志望業界が絞られていたので、大手通信会社を中心に複数の内定を得て、すんなりと就活終了。高度テクノロジー人材の学生にとっては、企業主導で選考がどんどん進んでいくような就職活動だったようです。
■外資経営コンサルを制覇した学生
内定を得るのが最も難しいと言われる分野の1つに「外資経営コンサル」があります。そこから複数の内定を得た学生の就職活動は、受験生なみのハードな内容でした。数年分のケース面接(コンサルティングファームの面接で頻出される選考内容)の過去問を調べ上げ、フェルミ推定の解き方を勉強して、対策ノートにびっしり書き込み、新聞には毎日しっかり目を通し、プレゼン方法を学ぶために動画を見て研究。正直、「そこまでやるんだ」と感心してしまいました。内定企業を聞けば、ピカピカの勝ち組!という感じですが、相応の準備と驚くほどの努力をしていることに頭が下がりました。
少し前まで、多くの学生は同じ時期に動き出し、ほぼ同じプロセスで就職活動をおこなっていました。しかし、今は状況が異なります。自由度が高まり、自分らしいキャリア選択ができる反面、何からどう始めればよいのか見えにくくなっています。自分にあった企業選び。そんな言葉が意思決定を難しくさせてもいます。「人それぞれ」な就職活動を前提に、人と比べすぎないキャリア選択、それを支援する姿勢が大切になっているように感じます。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント