あと1か月もすれば、大学は夏季休暇に入り、23年卒生の夏インターンシップが本格的に動き出します(まだ2021年なんですが…苦笑)。16年卒採用から広報開始が3月にずれ込み、それを機にインターンシップの拡大が始まったわけですが、19年卒あたりから広く一般化し、いまでは就職活動のスタートラインとして定着しています。今後、皆さんもオンラインや対面で、23年卒生との接触が増えていくでしょう。
私自身、23年卒生の支援にかかわる機会が増えています。その中で強く感じるのが、「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」ネタが見つからないことを不安がる学生の多さです。新型コロナの影響を受けずに、学生生活を過ごせたのは1年間のみ。2年生という最も自由に活動できる期間をほぼオンラインで過ごし、強い制約の中で大学生活を送ってきました。就活で使えそうな「ガクチカ」がない…と不安に感じるのも当然でしょう。
23年卒生は、2年生になる春季休暇中に感染拡大が進み、そのままオンライン中心の大学生活に入りました。サークル活動や課外活動のメンバーと連絡を取り合うタイミングを逃したまま、活動休止になっているケースも少なくありません。慣れないオンライン授業に対応しつつ、一気に増えた課題に追われる学生も目立ちます。大学生に向けられる世間の目もあり、必要以上にストレスを抱え込み、心身のバランスを崩し気味な学生もいます。対人関係の広がりの中でアイデンティティを確立していく青年期には、かなり厳しい環境と言えます。「充実した学生生活を送っていました!」と胸を張って活動内容を言える学生は、例年に比べて極めて少ないと考えます。
対面の交流が制限されていたので、学生生活に変化は少なく、価値観やコンピテンシー(行動特性、思考特性)を確認できそうな活動機会も多くありません。面接で「学生時代に力を入れたこと」を尋ねても、小さな出来事をそれっぽく仕立てた“痛いエピソード”になりかねません。無い袖を無理やり振るより、有る袖を振った方が有用でしょう。私がお勧めしたいのは、学生時代を学業に置き換えた「(コロナ禍において)学業で力を入れたこと」という学業の「ガクチカ」です。
選考時、学業に関する質問を活用する動きは、数年前からありましたが、あまり広がることはありませんでした。大きなトレンドになりにくい背景には、学業をメインに深掘りするときの「質問ストック」が少ない…という事情があるように思います。大学が発行する成績証明書は、成績と単位数しか記載されていない形式が一般的です。授業内容における詳しい記述がなく、圧倒的に情報が少ないと言えます。面接側が「どんな質問をすれば、知りたい情報が得られるのか分からない…」と感じる気持ちは理解できます。
大学の成績証明の記載内容がより充実したものになれば、選考に使いやすくなるのではないでしょうか。各科目の種類(必修、選択など)、成績評価方法(レポート、試験など)、授業形式(座学、グループワーク、実習など)、単位取得率…といった情報が分かれば、面接時の質問も考えやすくなります。大学では科目ナンバリング(科目を番号で分類し、種類や入門~上級などのレベルなどを体系化した仕組み)も進んでいるので、その情報を公開するだけでも参考になるでしょう。
詳しい授業情報がなくても、学業「ガクチカ」に使えそうな「質問例」をいくつか考えてみました。
・オンライン授業をより良いものにするため、自ら工夫したことは?
・もっとも単位取得が困難だった科目、その理由、対応方法は?
・もっとも興味関心を持った科目、その理由、自学自習の有無は? …など
オンライン授業を行いながら感じるのですが、現在の環境は、手を抜こうと思えば抜けるし、学ぼう!と思えばより能動的に学ぶことができます。自主的な学びの裁量が増えているからこそ、学業の「ガクチカ」で人となりが見えてくるように思います。
学業をテーマにした「ガクチカ」が定番質問に加われば、コロナ禍で制約された学生生活を送っている他学年への安心材料にもなるでしょう。変化に対応しつつ学び続ける人材の価値が高まっているので、企業側のニーズにも合っているように感じます。23年卒採用から、学業の「ガクチカ」を新卒採用のスタンダードな質問として加えてみてはいかがでしょうか。
- 掲載日:2021/06/29
第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント