第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち

 学生との交流を通して、様々なことを学んでいます。特に、大学1年生を対象にしたキャリア講座では、多くの気付きがあります。アイデンティティが確立しきっていないため、彼らの言動には、大人社会の有様が鏡のように反映されています。それはブーメランのように私たちに刺さってきます。

 ある講座のグループワーク(GW)時に、学籍番号でランダムにチーム編成したら、たまたま男子だけのチームができました。テーマと設定時間を伝え、さっそくGWをスタート!……したのですが、数分後に近くを通ると、話し合いをしていません。「どうしたの?」と状況を確認したところ、リーダー役らしき男子学生が、「話し合いで結論が出たので、もうGWは終了しました」と返事をしてくれました。その言い方からは、短時間で結論を出せたリーダーとしての自分を誉めてほしい!といったニュアンスも感じられます。可哀想かな~と思いつつ、「早く結論を出す競争ではなく、テーマへの解釈を深めるワークなので、時間いっぱいディスカッションしてください」と伝えました。

 女子だけのチームもありました。こちらのチームはとても賑やか!笑い声とともに、多くの言葉が飛び交っています。ただ、GWテーマとは全く関係のない言葉しか聞こえてきません(苦笑)。「話し合いは終わったの?」と聞くと、「もう終わったんで、おしゃべりしていました」と元気な答えが返ってきます。結論が出るまでの経緯を確認すると、一人の意見に別の学生が同意して、他メンバーも次々と「だよね~」と同意したため、意見がまとまったそうです。「多様な人の立場で、異なる意見を考えてほしいから、あえて同意しないワークをしてみて」と伝えました。

 ジェンダーについて話をしたいわけではありません。これはこれで、とても重要な社会的課題ですが、今回のケースを性別の違いでくくるのは乱暴でしょう。そうではなく、2つのチームが短時間で結論を出すことができたプロセスが気になったのです。

 おそらくこの2チームは、似た経験によって獲得した「不文律」を、お互いに持っていたのでしょう。その意味において、同性であることは有為に働いたと言えます。同質性の高いコミュニティーや、長く行動をともにしている集団内では、場に相応しい「わきまえた行動」が自然と身に付きます。この2チームも、全員がわきまえた行動をとることで、早い意思決定が可能だったのでしょう。大人社会の話し合いでも、よく見る光景です。

 「不文律」でコントロールされた話し合いが、一概にダメとは言えません。私たちの周りには、立場や職位、習慣や暗黙知など、驚くほど多くの明文化されていないレギュレーションがあり、それによってスムーズにものごとが決まっていきます。変化の少ない環境下で、これまでと同じような成果を求めるのであれば、合理的かつ効果的な方法と言えるでしょう。

 問題なのは、異なるタイプの話し合いが求められる場においても、同じやり方しかできないことです。ダイバーシティやジェンダーに関連した事柄を決めるとき、「不文律」や「わきまえた行動」が作用してしまうのは、大きな矛盾となります。

 とは言っても、利害関係や因習に囚われない、対等かつフラットな話し合いというのは簡単ではありません。延々とまとまらない地域コミュニティーの会合に、辟易とした感情を抱いたことのある方もいるのではないでしょうか。「異性とのワークは難しい、同性の方が楽」「メンバーに自分とは違うタイプの人がいてイヤだった」。こんな身も蓋もない学生コメントを、私は笑うことができません。

 「違う」ということは不快なことです。年齢や性別だけでなく、国籍・文化・宗教などもふまえれば、世の中は「違う」ことだらけです。ダイバーシティ、異文化コミュニケーションといった言葉はかっこよく聞こえますが、分かり合うには時間も忍耐も要します。ストレスだってかかります。頭では「多様性の尊重」を理解していても、心身が付いていかず、疲弊する人も少なくありません。

 劇作家の平田オリザ氏の言葉(※)を借りれば、日本語には対等な立場で話し合う“対話”に適した言葉自体が少ないそうです。もともと年長者・男性に有利な言葉で、対等なほめ言葉も少ない。例えば、男性上司が、年下女性の部下に仕事を指示するときの言葉づかいは、容易にイメージできます。しかし、女性上司から年上男性の部下ではどうでしょう。前者と同じ言葉づかいでは、きつい感じがするのではないでしょうか。日本語は、言葉の端々で関係性を分からせる、マウントに適した言葉なのかもしれません。

 長い間、同じ集団内にいると、自分が多様性に耐えられない人間であることに気付きにくいものです。冒頭の学生もそうですが、日本語において優位になりやすい年長者や男性は尚更でしょう。自分を含め、本当の意味で“対話”ができる大人は多くはありません。このことに自覚的であることが、とても大切ではないでしょうか。

 もうすぐ、新卒採用の選考(面接)が本格的にはじまります。社会的立場が全く異なる社会人と学生のやりとりは、ある意味、異文化コミュニケーションです。彼らを理解するのに、大人社会の「不文律」ばかりで評価してしまっては、学生の本意を見誤ってしまうかもしれません。わきまえない発言も、生意気なわけではなく、熱意の表れかもしれません。選考評価は、面接が終わってからでもできます。面接中は、ぜひ“対話”を意識しながら、学生とのコミュニケーションを楽しんでみてはいかがでしょうか。

※平田オリザ(2012)『わかりあえないことから─コミュニケーション能力とは何か』講談社現代新書


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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。