第65回 大学生活のオンライン化について思うこと

 新型コロナによる非日常的な生活も、これだけ長期化してくると、日常になりつつあります。人と会うとき、リアルかオンラインかを確認することにも慣れました。マスクをした顔しか知らない人も増えてきました(笑)。私たちのコミュニケーションスタイルは、確実に変化しています。それは、多少なりとも、ものの考え方・捉え方に影響を与えているでしょう。心身とも大きく成長する大学生であれば、なおさらです。
今回は、大学生活のオンライン化について、思うことをあれこれと書いてみたいと思います。

 大学のオンライン授業については、このところ風当たりが強くなっています。しかし、物事にはメリットとデメリットの両面あります。オンライン授業によって教育を止めずにすんだこと。オンライン留学など、新しい教育の可能性に気付けたこと。リピート可能な教材によって、より良い教育効果が得られたことなど、メリットにも着目すべきでしょう。

 個人的には、授業そのものよりも、大学生活がオンライン化したことへの影響を憂慮しています。青年後期という発達段階にある若者にとって、より広い世界で異質な人や気の合う人と出会い、新しい経験をしていくことには、大きな意味があります。新たに育まれた価値観によって、従来のものの見方は再構築され、アイデンティティが確立されていきます。異性との交流などによる心身の変化、それをコントロールする経験も、大切な成長プロセスです。オンライン化によって、身体性をともなった心と身体の成長が得にくくなるように感じています。

 キャンパスという場を共有し、不特定多数の若者が一緒に過ごすことで、意図しなくても、人間関係の多様性は担保されていました。教室から教室へ、教室から図書館へ、図書館から食堂へと移動することで、点と点はつながり線になります。その線上には行き交う人々がいます。ときに偶然に出会う友人がいて、一緒にいる別の友人とも知り合いになったりします。線は面となり、コミュニティーの面積はさらに広がっていきます。

 それと比べると、オンライン上のコミュニティーは、それぞれに孤立した点のようなものです。互いに影響を与えあうことは稀で、コミュニケーションの拡張が困難と言えます。たまたま目にしたサークルメンバーの募集ポスター、グランド脇を通り抜けるときに見かけて興味を持った運動部の練習、先輩から依頼されて強制的に参加することになったボランティア…。新しい経験や出会いにつながる些細なきっかけは、点と点をむすぶ線上に意図せず存在することが多いように思います。孤立したオンライン上の点だけでは、本人が知り得ない世界に足を踏み入れる機会が、少なくなってしまうでしょう。

 また、オンラインでは人とのコミュニケーションをブロックする、コミュニティーから離脱する、といったことが容易であることも特徴です。例えば、授業でグループワークをおこなうとき、教室でメンバー同士が顔を合わせていれば、その場を離れることへの心理的ハードルはかなり高いでしょう。人見知りを自認する学生にとって、初対面同士のワークは試練と言えますが、逃げにくい状況によって、苦手なりに経験値を高め、対処方法を身につけていきます。

 しかし、オンラインコミュニケーションでは、カメラもマイクもOFFにできます。呼びかけに答えなくても、「通信状況が悪いので…」とチャットに一文書き込めばスルー可能です。「退出」ボタンを押せば、一瞬で離脱することもできます。教室内のグループワークでフリーライダー(ワークなどに参加せず、利益だけを得る人)をするのは、相応の覚悟が必要です。しかし、オンラインなら1クリックで相手をブロックしたり、アッという間に自室に戻れたりします。互いの気配も感じにくいので、心苦しさを感じることも少ないでしょう。

 オンライン化によって、学生の偶発的な出会いは少なくなり、交流する相手も自分で選択しやすくなります。ストレスの少ない既知のコミュニティーにとどまり、社会性が未熟なまま、実社会に出ていく学生が増えるかもしれません。その一方で、全く未知な場所や人とつながることが容易なのもオンラインです。自分のコミュニケーション領域をどんどん広げて、より成熟していく学生も出てくるでしょう。

 自らの領域が広がる層と広がらない層。“格差”と言うより“分断”といった言葉が相応しいような状況になることを危惧しています。両者は交わることなく、互いの存在を認識することなく、大学生活を過ごしていく。これは現在進行形の話なので、データをともなう事象ではありません。「~かもしれない」程度の話です。ですが、分断を生じない工夫の必要性を感じています。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。