第64回 就活支援サービスの功罪

 1年ほど前に就職相談を受けた学生と、先日再会しました。継続的に支援していたわけではなく、就活支援企画で1度対応しただけの学生です。その学生をなぜ覚えていたのか。こちらが驚くほど数多くの質問を受けたからです。「インターンシップは何社ぐらい参加した方が良いですか」「志望分野の幅を広げる方法は」「インターン参加企業から早期選考の案内が来たら受けなきゃダメですか」「面接で答えられない質問をされたときの対応は」「服装は…、髪型は…」「内定辞退の方法は…」などなど。

 まだ本格的に就職活動がスタートする前から、これだけ多くの質問を先回りして考えられることに感心してしまいました。同時に、未知のこと、不確実なことへの強い反応に、不安を抱いたことを覚えています。質問する様子からは就職活動への興味関心は感じられず、分からないことはすべて無くしたい、無くしてからでないと動けない、といったニュアンスが滲み出ていたのです。

 「就職活動では苦労するかも…」。正直そう思っていました。なので、意外にも本人から「3年の12月には内定をいただき、入社を決めました」と明るい声で返事がかえってきたときは驚きました。相談を受けたのが3年の10月中旬だったので、その2ヶ月後には就活を終えたことになります。思わず「どうやって?」と尋ねてしまいました。

 その学生の就職活動は“就活エージェント”メインで進んでいったようです。個別面談で相談に乗ってもらえ、エントリーシートも添削してくれる。紹介された企業のインターンシップには優先的に参加でき、フィードバックもある。そうしたサービスを利用しつつ、結局、エージェントから紹介された早期選考を受けて、内定を決めたそうです。「なぜ就活を継続しなかったの?」と質問したら、「早く決めて安心したかった」と返事が返ってきました。

 「企業情報も詳しく教えてくれたし、事前に面接練習もできました。不安なことがあれば相談に乗ってくれたし、安心感が強かったです」。そう話す様子からは、満足度の高さが感じられます。選考を受けたのが1社で、内定が1社。それで就活終了ですから、効率的でムダのない活動と言えます。学生からすれば、羨ましいと感じるでしょう。でも、私には違和感が残りました。1度の選考落ちもない、スムーズで失敗のない就活が、この学生にとってベターだったのか…。ずっとモヤモヤが続いています。

 ルーティン業務だけを担う正社員は、すでにほとんど存在しません。自分が果たすべきタスクに必要なスキルや知識、充分な経験といったリソースがすべて整っていることも稀です。仕事では未知なことへのリスクを引き受け、自分で考え行動することが求められます。その意味で、就職活動はプレ社会人としてのトレーニング機会でもあります。折角の機会をショートカットしてしまうのは、勿体ないと言えるでしょう。

 就活エージェント以外にも、いまや多種多様な就活支援サービスが存在します。エントリーしておけば企業からアプローチしてくれるスカウト型求人サイト。自己分析や企業研究の方法を教え、面接指導する就活塾、有名企業を通過したエントリーシートを提供するサービス…。それぞれにビジネスとしての意義はあると思いますが、一歩間違えば学生の成長機会をスポイルする可能性もあります。

 「苦労せずに就職活動を終えたい」。多くの学生の本音でしょう。少しでも楽ができるサービスがあれば、利用したくなるのは当然です。需要と供給があれば、ビジネスとして成立するのも納得できます。ただ、それにより経験値が低く、未成熟な若者を増やしてしまうのであれば、何か工夫が必要でしょう。

 これは支援なのか、成長機会の損失だろうか。学生のキャリア支援にかかわりながら、新卒採用ビジネスの一端を担う人間として、常に直面し、悩み続けている問題です。新卒の就職活動時だけではありません。『第59回「退職代行サービス」を利用する心理』でも書いたように、世の中にはさまざまなサービスが溢れています。就活支援サービスを駆使して内定を得て、退職代行サービスを使って退社し、転職エージェントで再就職する。これはすでに現実的なキャリア形成と言えます。

 「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」。確かにそのとおりなのですが、どこまでが就活生にとっての“良し”なのか。どこまでが社会的に“良し”といえるのか。絶対解がある問いではないので、自戒しつつ、考え続けながら、自分なりの支援をしていきたいと思います。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。