コロナ禍によってWEB面接は、誰もが知る選考手段の1つとなりました。数年前からHRテックの一分野として、注目は集めていましたが、実際の導入企業は限定的でした。それが、この数ヶ月で格段の広がりをみせました。ある学生アンケート調査(※)では、4月中に受けた面接の約8~9割がWEB面接となっています。学生にとっても、ごく普通の選考方法となりつつあるようです。
経験者が増えたことで、多くの学生からさまざまな意見があがるようになりました。ある学生は「コロナのおかげと言ったら不謹慎だけど、自宅ですべての就活が完結するから気に入っている」とコメントしていました。「WEB面接にも慣れてきたので、WEBでも対面でも問題なく対応できている」といった意見もあります。一方で、「自分の熱意が伝わっているか不安」「画面越しの会話だと自分自身のモチベーションが上がらない」「パソコンに不慣れなので対面の方が安心」などと感じている学生も少なくありません。
オンライン講座や面接練習などで、学生とWEBコミュニケーションをしていて感じるのですが、対面コミュニケーションがしっかりとできている学生は、おおむねオンラインでも問題はありません。例えば、口角を上げ、目線を下げずに、適切に相づち(うなずき)などのリアクションができる。伝えたいことがハッキリしていて、適切な言葉とスピードで、分かりやすく話をすすめることができる。こうした対応ができていれば、対面でもWEBでも、円滑なコミュニケーションが可能でしょう。
とはいえ、学生コメントにあるように、どちらかに適性が偏った学生も存在します。「対面で映える学生」と「WEBで光る学生」の特徴を、個人的経験をもとにまとめてみました。
- 掲載日:2020/06/15
第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
<対面で映える学生>
声の大きさ、表情、立ち振る舞いなど、第一印象を左右するノンバーバル(非言語)コミュニケーションにたけていて、相手に親しみやすさ、頼もしさといった感覚情報を与えることができる。ひご(庇護)欲や育成欲を相手に感じさせるタイプの学生も、対面に適している。
ディスカッション(目的のある会話)よりも雑談(楽しさを重視した会話)が得意で、短時間で人との距離を縮めるアプローチができる。
<WEBで光る学生>
ノンバーバル(非言語)よりバーバル(言語)による意思伝達にたけていて、比較的ハッキリとしたもの言いをする。
目的重視のコミュニケーションを好み、グループディスカッションなどでは、要点を押さえた発言はするものの、必要以上には話さない。深掘り質問に強く、自身の思考および思考のプロセスを論理的に話すことができる。意図が明確な質問にはスムーズな会話が成立する。
WEB面接はまだれい明期なので、学生だけでなく企業も手探りの状況といえます。当初は「やはり面接は対面でないと…」といった企業が多くありましたが、「今まで接触できなかった属性の学生から応募があった」「面接日時の調整が楽になった」など、新たなメリットを感じているようです。心理的なハードルも「やってみたらWEBも意外とよかった」といった感想が多いように感じます。社風や社員の雰囲気と言った感覚情報が伝えきれない…といった課題はあるものの、WEB面接という選考は広く定着していきそうです。
22年卒採用では、対面とWEBのハイブリッドで選考を考えている企業もありそうです。その場合、1次はWEB、2次以降は対面といったステップ毎に手段を決めるのではなく、例えば、最終面接以外は対面とWEBの好きな方から選択できる、といった方法にすれば、学生の納得感はより高まるでしょう。自分の強みを発揮できますし、「WEBだと伝わらない(から対面がよかった)」「対面だと緊張する(からWEBがよかった)」といった不満も解消するはずです。
もしハイブリッドで選考を実施するのなら、「半構造化面接」をおすすめします。あらかじめ決められた質問で面接をおこない、話の流れによって面接官が自由に質問を投げかけ、対話を深めていく面接方法です。手段の違い(対面かWEBか)で評価に大きなズレが生じないように、質問内容と評価項目を固定することがポイントです。手段によるズレだけでなく、属人的な評価ギャップも少なくすることができるでしょう。
最後に、今後の対面もしくはWEB面接で参考になりそうな学生コメントを紹介しておきます。
■対面面接
・短時間で流れ作業のような面接だった。対面でやる意味が感じられなかった。
・面接官が2人ともマスクをしていて、距離があったため、どちらが質問しているのか分かりにくく、どっちを向いて話をすればいいのか迷った。
・待機する場所、案内、面接方法、あらゆるところにコロナ対策への配慮が感じられて、気持ち良く面接できた。
■WEB面接
・いきなり面接ではなく、最初に人事の方からすすめ方の説明があり、その後に面接官と切り替わって面接がスタートした。
とてもスムーズだった。
・最初に、通信がきれたときの対応方法と評価に影響がないことを説明してくれて安心できた。
・間を持て余すような微妙な雑談には、こちらが対応に困ってしまった。
まだ先行き不透明な環境下ですが、より多くの企業と学生にとって、安全かつ納得できる選考がおこなわれることを願っています。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
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- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
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- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント