第61回 新入社員の矛盾した2つの想い

 令和最初の新入社員は新型コロナウイルスの影響によって、昨年までとは全く異なる環境下で、キャリアをスタートさせることになりました。規模の縮小や中止となった入社式。期間短縮やオンラインによる新入社員研修。入社直後から、数週間の自宅待機を指示した会社もあります。

 人は身を置く環境によって、思考や行動が左右されます。人と距離をとり、マスクをして、会話が制限されたなかで研修を受けるにしても、自宅でひとりオンライン研修を受けるにしても、他者から受ける刺激は圧倒的に少なくなります。得られる学びや気付き、社会人へのマインドセットが難しくなることは否めないでしょう。歓迎会などによるインフォーマルコミュニケーション(非公式かつ偶発的なコミュニケーション)も少なくなるので、先輩社員との人間関係も希薄になりがちです。

 東京などの大都市圏では、在宅勤務をする人が増えるため、新人の組織社会化(メンバーの一員として組織に適応していくこと)は、かなり遅れそうです。せめて知識習得だけでも・・・と、eーラーニングを課しても、業務で使えるレベルを期待するのは難しいでしょう。実際の業務が理解できていないので、どの場面でどんな知識を用い、何をするのかが分かりません。何が分からないかが分からないので、単なる情報のインプットにとどまってしまいます。今年の新人育成は時間がかかるものと割り切り、焦らずに取り組むことが求められそうです。

 また「相反した2つの想い」が育成のやりにくさを強めるようにも感じています。

■相反した2つの想い①
<組織に依存せず、専門スキルを獲得して自立できる自分になりたい>
「『終身雇用を前提とした人生設計』にまでつながってしまったとするならば、見直さないといけない(※1)」。経団連会長である中西氏の言葉です。今年の新人が就職活動をはじめた2018年秋以降、日本型雇用慣行を変える動きが強まっています。当然、彼らのキャリア観、就労観にも大きな影響を与えているはずです。
 組織が保証してくれる安心が少なくなっているのだから、企業へのロイヤリティー(忠誠心)より、目に見える自分自身の成長や短期スパンの損得を重視したい、仕事よりプライベートを優先させたい。そう考えるのは、彼らにとって自然なことでしょう。組織とは適度な距離を保ち、必要以上に自身の価値観を変えられたくない、といった想いを感じます。

■相反した2つの想い②
<所属コミュニティーに受け入れられ、ちゃんと自分を育ててほしい>
 組織に依存したくないと言っても、最初は誰かに仕事を教えてもらわなければなりません。彼らは売り手市場(学生優位)のなかで就職活動していたので、手厚い研修システムを競うようにアピールする企業説明を幾度となく受けています。「仕事ができるようになるまで教えてもらえる」という感覚の新人は多いでしょう。
 どんな企業に魅力を感じるかを尋ねたアンケート(※2)では、「社内の雰囲気が良い」(75.6%、複数回答)がトップでした。理由としては「困ったことがあれば相談しやすいから」「相談や質問がしやすく働きやすいから」などが目立ちます。周囲が自分を受け入れ、見守り、育ててくれるといった環境を理想としているようです。

 組織とは一定の距離感を持ちつつ、メンバーからは面倒見のよい温かな関係を求める。言い換えれば「メンバーシップ型の安心を得つつ、ジョブ型の自由もほしい」と表現できます。ある意味、矛盾した望みと言えますが、実際の職場で先輩社員と過ごすうちに、自分なりのバランスを見いだしていくものでしょう。この点でも、今年の新人育成に「焦りは禁物」と言えそうです。

 この状況は今年に限った話で、事態が収束すれば、これまでと同じ環境に戻る。そう考える人もいるかと思いますが、私は懐疑的です。今回の出来事をきっかけに仕事の進め方は変化し、職場の様子も変わるでしょう。新入社員に限らず、組織で働く人間のキャリア観は、より一層多様化が進むはずです。多様性に対応するには、労力も気力も必要なので、できれば避けたい・・・というのが本音です。それでも、これからはじまる新しい環境に適した育成やマネジメントを模索していく必要がある。今はそう感じています。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。