もうすぐ3月です。新卒採用の“就活ルール(※1)”に従えば、広報開始となるわけですが、現状を見るかぎり、選考が本格的にスタートするタイミングと言えそうです。
ここ数年、選考の早期化が進んでいます。今年は東京オリンピックがあるため、昨年より少し早い内定出しが予想されています。同時に、長期化への備えも必要になるかもしれません。6月には学生ボランティアの研修がスタートするため、状況しだいでは、一旦就活をお休みにして9月から再開・・・という動きもあり得るからです。例年とは異なる動向が生じるため、これまで以上に先読みしにくい、不透明な採用活動になりそうです。
確実に採用人数を確保するため、同評価の学生なら志望度の高い、内定承諾が見込める学生を優先したい。今年はそんな気持ちが強まるかもしれません。とは言え、面接で学生の志望度を確認するのは極めて困難です。「当社の志望度は?」と聞かれたら、「第1志望です」と答えるのがパターン化しています。リクナビ問題のように“内定辞退率の予想”がビジネスになるぐらいです。志望度の見極めは難しく、それゆえ企業ニーズが高いのでしょう。
学生が異口同音に「第1志望」と答える風潮に、苦言を呈する方も少なくありません。正直に答える学生の方が好感を持てる、互いに無駄をなくすためにも正直に答えた方が有益だ、第1志望でなくても納得できる説明があれば問題ない・・・etc。確かにそのとおりです。しかし、評価が下がる可能性が全くないとも言い切れません。
ある学生は、うそはつきたくないと考え、正直に「志望度はまだ分からない」「他社の選考も受けたい」と伝えたところ、面接官の反応が明らかに悪くなった、と言っていました。実際のところは分かりませんが、学生がそう感じてしまう反応だったことは事実です。その学生は前回の経験を生かして、別の選考では「第1志望“群”です」と答えたそうです。そして「第1志望ではないわけですね」と突っ込まれ、以後すべての選考で「第1志望です」と答えるようにしたと言っていました。
コミュニケーションにおける国際比較をまとめた書籍(※2)によれば、日本人は世界でもっとも「直接的なネガティブフィードバック」を嫌うそうです。もともと日本のコミュニケーションは、文脈を深読みするハイコンテクスト文化なので、ネガティブな発言は極力間接的な表現にしがちです。ビジネスでも「できない」よりも、「困難です」「できかねます」といった表現を好みます。この文化に慣れている私たちが、「志望度は低いです」「少なくとも第1志望ではありません」と直接的に言う学生に、マイナス印象を持たずにフェアな評価ができるでしょうか。私には自信がありません(笑)。
面接官の価値観はさまざまです。どんな評価をされるか分からない以上、もっともリスクの少ない対応をするのは当然でしょう。マイナス評価をされる可能性があるのに、正直に答えろというのはムリな話です。「他社の選考状況は?」という質問も同様ですが、他社との比較につながる質問に、学生が率直に返答することは少ないでしょう。それは評価する側にも要因の一端があるのです。多くの学生は、意に反して「第1志望です」と答えることに、胸の痛みを覚えています。
もし、本気で学生の志望度を知りたいのなら、安心やメリットを提供する必要があります。例えば、最終面接の通過連絡をしつつ、内定取り消しがないことを約束したうえで志望度を確認すれば、リアルな気持ちを聞くことができるかもしれません。「当社が第1志望になるために、できることがあるかを考えたい」とアプローチすれば、本音を言うメリットになるでしょう。やり方はさまざまですが、安心やメリットがなければ、学生が本心を言うことはないでしょう。
「子どもは親を映す鏡」と言ったりしますが、同様に「就活生は社会人を映す鏡」なのでしょう。相手の反応を見ながら、手探りで最適解を見つけつつ、就職活動を進めていきます。学生の対応に疑問を感じることがあれば、自社の採用課題を見つけるきっかけになるのかもしれません。
- 掲載日:2020/02/17
第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- ※2 『異文化理解力』エリン・メイヤー (著)
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント