第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!

 6月中旬に入り、20年卒採用はそろそろ終盤戦に入ってきました。同時に、21年卒向けの夏インターンシップが動きはじめています。一括採用が主流の今ですら、担当者にとっては、ほぼ通年採用状態といえそうです。学生(21年卒生)の動きも活発になってきました。先輩情報を参考に、インターンシップの背後にある意図を探りつつ(苦笑)、参加する学生が多くなりそうです。

 学生が望むのは、費やした労力に対してリターンが大きいお得なインターンシップです。求めるリターンは、成長実感であったり、社風確認であったり、採用への優遇措置だったりと個々により異なるので、一概にコレ!とはいえません。ただ、できるだけ効率のよい就活をしたい、という気持ちは共通しています。

 実利あるインターンシップを希望する気持ちはよく分かるのですが、多くの学生にとって実社会とのファーストコンタクトになる夏インターンシップでは、レイバーではない「働く」体験をしてほしい。欲をいえば、仕事の“楽しさ”を味わってほしいと切に願っています。

 「働く」という言葉には「レイバー(Labor)」「ワーク(Work)」「プレイ(Play)」の3種類があるという考え方があります(※)。レイバーは、自分の意思や自由が認められずに、命令された労働を強いられる働き方です。ワークは、自身の役割の範囲で裁量をもって、組織の目的達成を目指す働き方といえます。最後のプレイは、自らの興味関心を追求しつつ、個人の名前で仕事ができるフリーランスのような働き方…といったイメージでしょうか。

 よく学生に「企業で『働く』ってどんなイメージ?」と聞くのですが、「過酷な労働を強いられそう」「生きるためにはしかたがない」「メンタルが持つか不安…」といった意見が少なくありません。彼らにとっては、労働≒苦役というわけです。3つの分類でいえば、間違いなくレイバーでしょう。この就労観の背景には、彼らのアルバイト経験が暗い影を落としていると感じています。

 最近は、大学でワークルールを教える講座が増えています。学生アルバイトにも適用される労働法について教えると、いつもとは比較にならないほど多くのコメントが寄せられます。曰く、8時間勤務のときも休憩がない。店長に言ったら「ウチはそういうルールだから」といって取り合ってくれなかった。大学生は暇なんだから深夜シフトが基本!と言われ、ほぼ強制的に深夜のシフトに入れられてしまう…等々。

 一番多いのは、辞めたいのに辞めさせてもらえないというケースです。ある学生は店長に「辞めたい」と申し出たところ逆ギレされ、「コッチのことも考えろよ!」「そんな無責任なこと認められるはずないだろ!」と怒鳴られたそうです。「もう怖くて言い出せない…。辞めるにはどうすればいいか」と相談に来ました。

 ちなみに、この学生は「明日辞めます」と言ったわけではありません。1ヶ月近くも前に伝えているので、労働基準法で定められている2週間前はクリアしています。にもかかわらず、店長はハラスメントともとれる言動で学生アルバイトを引き留めたのです。それだけ店長も切迫した状況だったのかも…とは思いますが、他の解決方法を模索すべきでした。

 こんな経験をすれば、「働く」ことにポジティブなイメージを持てるわけがありません。しかも、ブラックバイト経験はSNSで拡散されがちです。アルバイト経験の有無にかかわらず、労働に対するマイナスの印象は拡散するばかりです。

 上司(店長)に言いたいことがあっても、目をつけられるのはイヤだから黙っていよう。指示されたことだけを、言われたとおりにやるのが一番安全。余分なことはやらない方が無難。結果的に、レイバーとしての処世術ばかり身につけることになります。

 さらに、最近の暗いニュースが追い打ちをかけます。OBOG訪問した女子学生へのセクハラ行為、育休明けの転勤命令をきっかけとした退職におけるトラブル、セクハラ調査をした女性法務責任者の解雇…。気が滅入るようなニュースばかりです。#Metoo問題をみても、立場の強い者が弱い者に何かを強いるという構図は、あらゆるコミュニティーに存在します。その事実を目の当たりにすれば、弱者である学生が「働く」ことへの不安を感じるのは当然といえます。

 インターンシップでレイバーではない「働く」経験ができれば、少しは彼らの就労観を変えられるのではないでしょうか。いきなり学生がプレイヤーとして仕事をするのはムリなので、まずはワーク体験です。与えられた課題をクリアするために、裁量の範囲で組織内を自由に動き回り、役職が上の人とも忌憚のない対話をする。そんなワーク体験ができれば、楽しさを実感してもらえるように思います。

 学生が初めて経験する「働く」という行為が、レイバーであることの損失は計り知れないと考えています。せめてインターンシップでは、達成感や充足感を味わって欲しいものです。そして、先輩社会人の方々には、彼らの良きメンターになってもらえれば、これほど嬉しいことはありません。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。