第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い

 気遣いには、子どもの気遣いと大人の気遣いがあるように思います。そして、この2つの違いが、配属されたばかりの新入社員と先輩社員(もしくは上司)のあいだに軋轢や誤解を生じさせがちです。

 一般的には、大人は面倒を見る側で、子どもが面倒を見てもらう側という関係になります。面倒を見てもらわなければならない立場だからこそ、子どもは「できるだけ迷惑をかけないように…」という気持ちになりがちです。相手の都合が良くなるタイミングまで(相手から声をかけてもらえるまで)我慢してじっと待ち、可能な限り相手の負担を軽減しようとします。これが子どもの気遣いです。また、自分から「見える相手」だけを対象とするのも特徴です。その場をコントロールしている人を見定め、様子や発言を観察して、できるだけ機嫌を損ねない言動を心掛けようとします。庇護がなければ、生きていくことが困難な“弱きもの”だからこその戦略と言えるでしょう。

 この子どもの気遣いを職場に持ち込まれると、様々なコンフリクト(衝突)が生じます。職場のコミュニケーションは、お互いが大人同士であることが基本です。与えられた仕事を完遂するために、自分から相手にアプローチすることは当たり前で、手が空くのをずっと待っていたら、仕事になりません。職場のコミュニケーションは、自分からアプローチすることを前提に、その時の負担を少なくすることや配慮を示すことを重視します。それが大人の気遣いです。

 例えば、結論から先に伝える、事実と意見は分けて報告する、いきなり話しかけずにクッション言葉(忙しいところスミマセン、など)を挟むなどは、大人の気遣いの一例でしょう。新入社員研修でよく教える内容ですが、彼ら自身が子どもの気遣いから抜け出していないと、せっかく得たスキルもなかなか活かすことができません。

 子どもは自分の居心地の良さを重視するので、気遣いの対象が「見える相手」、なかでも自分と直接関係を持つ相手に限定されがちです。上司や仕事を教えてくれる先輩など、半径3メートル以内にいる人間というイメージでしょうか。社内のエレベーターであっても、気遣いの対象がいなければ、あまり配慮を示すことはありません。新入社員が開閉ボタンの操作をする素振りも見せずに、スマートフォンをいじりながら、エレベーターの一番奥に悠然と乗り込む様子を見て、苦笑したことが何度かあります。

 一方、大人の気遣いは「見える相手」ばかりではありません。コミュニティー全体の居心地の良さを考える余裕があるので、自然と対象が広くなります。直接面識がなくても、仕事の前工程や後工程にかかわる人たち、施設を共有する他社の方々、ビルメンテナンス関係の方にも、自然な立ち振る舞いで配慮を示します。大人の気遣いができる人の周りには、おのずと人や情報が集まるでしょう。

 子どもと大人という表現は比喩にすぎません。年齢を重ねた人でも、子どもの気遣いしかできない人はいますし、若くても大人の気遣いができる人はいます。一概に年齢で判断できるものではないでしょう。とはいえ、職場に配属されたばかりの新入社員は、周囲の助けをより一層必要とする立場のため、子どもの気遣いを優先しがちです。

 仕事を依頼して、相談に来ることもないため、順調なんだろうと思っていたら、全く仕事が進んでいなかった。こんな場面に出くわしたら、「なぜ相談に来なかったのか」と詰問する前に、理由を聞いてみてください。気遣いの方向が間違っていたとしても、あなたへの配慮があったのであれば、それ自体は認めてあげてください。その上で、大人の気遣いを説明し、職場で求められる行動を示せば、次からは安心して相談に来るはずです。

 新入社員は、思いもよらない言動をとることがあります。彼らなりの理屈や理由はありますが、子どもっぽいものが大半です。とはいえ、頭ごなしに否定するのではなく、意図を聞き、その上で好ましくない理由を説明していく必要があるでしょう。この時期、電話対応や商品知識を覚えることも大切ですが、まずは社会人としての有り様を伝え、スタートラインに立たせることが必要ではないでしょうか。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。