学生と話をしていると、「資格」という存在を意識させられることが多々あります。ここ数年は売り手市場で、強い不安を抱いている学生は少なくなりました。それでも就職を意識する時期になれば、「資格がなくても大丈夫ですか?」という質問を必ず受けます。
ここで言う学生は、主に文系学生を指します。理系と異なり、文系の学問分野は、授業と仕事スキルを関連付けるのが難しいといえます。仕事イメージ自体が曖昧で、授業の“学び”とつながりをイメージしにくい…。ゆえに、それ自体が仕事スキルを保証している(と学生が考える)「資格」という存在に頼るのでしょう。気持ちは理解できます。
ちなみに、文系(主に人文社会系)の大学教育で、ビジネス社会で役立つ仕事スキルは獲得できます。東京大学・本田由紀氏の論文(※1)によれば、次のような授業が仕事スキルと相関があるそうです(一部抜粋)。
・議論やグループワークなど学生が参加する機会がある授業
・授業内容に関するコメントや意見を書く授業
・学んでいる内容と将来の関わりについて考えられる授業
参加型の授業によって仕事スキルの獲得が可能なら、資格に頼らず、学業ネタで自己PRすればよさそうなものですが、それはそれで簡単ではないのです。「面接でスゴイこと自慢は必要ない。日常的な出来事で大丈夫!」と言ってくれる採用担当者は多いのですが、1つ1つの変化が小さい日常のエピソードを説得力を持って伝えるには、高い言語能力が必要になります。イベント的な出来事の方が、よっぽど伝えやすいのです。
半期15回の授業で獲得できるのは、仕事スキルの種となる小さな気付きです。それを大学生活のなかでゆっくりと育み、やがて芽が出て、日々の人間関係の中でじょじょに枝葉を伸ばしていきます。1つずつの成長ステップはごく僅かなので、本人も成長の要因に気づいていないことがよくあります。「大学生活で成長した実感はあるけど、これといって話せるエピソードがない」。結局、自己PRのエピソード作りのため、イベント的な活動をはじめたりするのです。
- 掲載日:2017/12/13
第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
意外といっては何ですが、選考における学業の話題は、他の話題よりも高いことが分かっています。(※2)この調査結果によれば、「面接現場における話題の状況」として、学習(研究)3.1割、サークル体育会2.2割、アルバイト1.7割、趣味1.5割、その他1.5割と、学習(研究)が最も高くなっています。とはいえ、学習(研究)に関する質問は深掘りしにくいため、共通話題になりやすいサークルやアルバイトといったエピソードに頼ってしまう可能性も指摘されています。
大学の授業は、この10年でずいぶん変化しました。グループワークや双方向性のアクティブラーニングは、ほぼ全ての大学で実施されているので、ワークへの参加態度など、新しいアプローチで学業への質問をしてみてはいかがでしょうか。これなら深掘り質問もしやすいはずです。
想定質問をいくつか挙げてみます。
・グループワークや双方向性の授業をどれぐらい履修したか、その理由
・グループワーク時の自分なりのコツや心掛け
・グループワークで担うことが多い役割(立場)と、メンバーからの評価
・気の合わないメンバーとの関わり合い方
・反論意見があるときの対応
・自分の意見にメンバーから反論があったときの対応
・グループワークの好きな点、嫌いな点
授業時のグループワークを見ていると、チームで仕事をするのに支障がありそうな態度の学生もいます。一方で、小さな配慮の積み重ねで全メンバーから頼りにされている学生もいます。選考時のグループディスカッションは、すでに就活モードに入っているので、日常的な様子とはいえません。参加型授業における態度や行動を知ることができれば、普段着の彼らを垣間見ることができるでしょう。それは、職場に入ってからの日々の様子と重なるはずです。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント