新卒採用関連のイベントで、学生を前に話をするとき、彼らのリアクションの薄さに、不安になったことはありませんか。私は、あります。
彼らの緊張を解こうと面白ネタで自己紹介しても無反応…。お約束のリアクションが期待できるジョークにも無反応…。もしかして説明が分かりにくいのかな…と思い、「不明点はありませんか?」と問いかけても無反応…。いや~な汗が出てきます(笑)。
にもかかわらず、アンケートには「くだけたお話で親しみを感じました」「分かりやすい説明でよく理解できました」と書いてあったりするのです。「だったら、もう少しリアクションして…」と言いたくなります。
学生を近くで見ていて感じるのが、公共圏(不特定多数の人と場を共有するエリア)で人間関係を円滑にする“身体反応(笑顔、あいさつ、相槌など)”が弱くなっているということです。
言葉を駆使しなくても欲しいものが手に入るようになったことで、バーバル(言語)コミュニケーションへの意欲が低下している、という点はよく指摘されます。それがさらに進んで“身体反応”というノンバーバル(非言語)コミュニケーションも低下しているように思うのです。
確かに、それでも日常生活で困ることは少ないでしょう。ネット環境があれば、知りたい情報のほとんどは入手できますし、欲しいものだって通販でこと足ります。そういえば、お店の人に話しかけられるのがイヤで、「洋服は通販でしか買わない」という学生がいました。
こうした傾向は、学生に限った話ではないのですが、子どもから大人への移行期だからこそ、コミュニケーションスタイルの違和感が目立ってしまいます。
- 掲載日:2017/06/13
第44回 無反応でも話しつづけられる学生
対人関係を円滑にする“身体反応”を理解してもらうため、ある体験ワークをよく実施します。一切反応しない人を相手に、ひたすら話し続けるというペアーワークです。実際やってみると分かりますが、相手が無反応だと、そう長くは話し続けられません。1~2分で話す意欲を失う人がほとんどです。
ワーク体感後は、無反応のツラさが身に沁みるので、うなずく、笑顔でアイコンタクトする、メモをとる、といったリアクションを意識するようになります。
しかし最近、無反応ワークが通用しない学生が増えているように思うのです。以前なら、「本気で心が折れそうになった」「怖くて頭が真っ白になった」と、強い拒否反応が多かったのですが、だんだんと「厳しい」「つらい」程度に変わっていき、数年前からは「特に問題なく話すことができます」という学生が出現するようになりました。
俗にいうオタクな学生に見られる傾向だったので、ニッチな嗜好性を持つタイプに起こる事象かな~と流していました。本人も「自分の話に興味を示す人が少ないことは分かっているから、反応がなくてもあまり苦痛じゃない」と話していて、違和感はあるものの、反応も多様化しているな~という程度の認識でした。
しかし、ごく一般的な学生から「それほど苦痛じゃない」と聞いたときは、私の方が頭が真っ白になりそうでした。理由をたずねると、「話しやすいわけではないけど、スマホをやっている友だちと会話することも多いので、苦痛を感じるほどではない」という答え…。
お互いに“身体反応”なしで会話が成り立っているのなら、必要性に気付くはずがありません。マナー講座で「表情の基本は笑顔!」とレクチャーすると、「面白くもないのに笑顔といわれても違和感がある」「頬の筋肉がピクピクして維持できない」という彼らの意見にも、合点がいきます。
運動神経や能力の問題ではなく、日常生活における必要性と、圧倒的なトレーニング量の少なさに要因があるのでしょう。使われない身体の反応は鈍く、鈍感になります。相手に対しても同様でしょう。
採用に関わる社会人のアンケート結果(※)で、「空気を読む力(表情やしぐさなどから、相手の思惑を読み取る力)」が、評価ポイントの上位にあがっていました。しかし、一部の学生にとっては、高いハードルとなりそうです。
目下の不安は、無反応ワークがいつまで教材として成立するか、ということです(笑)。無反応に苦痛を感じる学生が少なくなったら、公共圏における“身体反応”の必要性をどうやって伝えればよいのでしょうか。でも、それが現実となったとき、必要性自体がない社会になっているのかもしれません。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
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- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
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- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
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- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
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- 第23回 単語化するコミュニケーション
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- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
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- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
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- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント