先月ちょっと気になるアンケート結果が発表されました。世界の若者9,500人を対象におこなった、就職に関する意識調査です(※)。主要13カ国のデータを比較することで、日本の若者における就職意識の特徴が見えてきます。
(主要13カ国の内訳)
スペイン、メキシコ、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、ノルウェー、スイス、オランダ、日本
いくつかある設問のなかで、もっとも興味深かったのが、「将来の職業のために、準備する必要があるスキルは何だと思うか?」という項目です。日本の結果を抜粋してみました。
- 掲載日:2017/04/11
第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
<将来の職業のために、準備する必要があるスキルは何だと思うか?>
|
10位(39.81%) |
|
13位(37.50%) |
|
12位(33.46%) |
|
2位(53.27%)★ |
|
12位(29.23%) |
|
13位(22.50%) |
|
1位(44.81%)★ |
|
13位(6.35%) |
★マークをつけた「コミュニケーションスキル(2位)」と「弁論スキル(1位)」のみが抜きんでて高く、それ以外は軒並み低い結果となっています。他国と比べると、この2つのスキル以外、必要性を強くは感じていないといえそうです。
「コミュニケーションスキル」を学生視点で言い換えれば、より多くの人から受け入れられ、好感を持たれる“コミュ力”であり、「弁論スキル」は論理的かつ人を惹きつける“トーク力”といえます。
なぜ日本では“コミュ力”や“トーク力”ばかりが、これほどまでに重視されるのでしょうか。要因の1つに、新卒採用における「面接偏重」があるように感じます。
日本の新卒採用では、職種をあまり明確にしないで雇用します。ジョブローテーションをしながら、適性を見いだすと同時に、会社都合による異動や転勤を受け入れることで、長期的な雇用が保証されてきました。メンバーシップ型の採用と呼ばれる所以であり、「就職」よりも「就社」というほうが、しっくりくる考え方です。
だからこそ、スキルよりも、自分たちのコミュニティー(組織)で上手くやっていけそうか…という「肌合い」や「気質」といった感覚的な指標を大切にします。それを判断する場が面接です。面接での雰囲気や立ち振る舞い、発言内容などから、相性や意欲の高さを評価していきます。
となると、総じて感じの良い笑顔を絶やさず、レスポンス良くハキハキと対応して、理路整然と質問に答えることができるタイプの学生が、高評価を得やすくなります。“コミュ力”と“トーク力”は、確かに就職活動に大きなメリットを与えていると感じます。冒頭の調査結果も当然の帰結といえそうです。
自分のことをコミュ障(コミュニケーション障害の略)と思っている若者は少なくありません。彼らは、就職活動に過剰なプレッシャーとストレスを感じています。面接が苦手だというだけで、社会人としてあらゆる適性が低いと思い込み、自分への期待を早々に失っていきます。
面接自体を否定しているわけではありません。面接が偏重されることで、“コミュ力”や“トーク力”といった面接パフォーマンスばかりが悪目立ちして、それ以外の自己成長に対する必要性に意識がいきにくい現状を懸念しています。
今後50年近く働き続ける若者が、“コミュ力”や“トーク力”だけで長い職業人生を歩んでいけるわけがありません。アンケート項目にもある「問題解決と解析のスキル」などは、今後さらに重要性が増していくでしょう。また、スマホ中心の彼らは、意外と「デジタルスキル」に乏しかったりします。「外国語」も、ビジネスのグローバル化を考えれば、一定レベル以上は必要でしょう。そして何よりも、いまの自分の知識やスキルをブラッシュアップしていく「学びの習慣」が欠かせません。
就職活動に必要なスキルを重視してしまう気持ちは、痛いほど理解できます。しかし、大学生のキャリア・就職支援に関わる立場でいえば、それ以上に、多様なスキルを伸ばしていく重要性を理解してもらわなければなりません。
そんな想いとともに、新年度からの新たなキャリア支援をスタートさせていきたいと思います。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
バックナンバーを全て表示

キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント