努力することの意味を考えさせられる調査結果が、先月発表されました。横浜市が市民を対象におこなったアンケートで、「努力は報われる」と考える人が、減っていることが分かったのです。
■平成28年度 横浜市民意識調査の概要
Q.今の世の中は努力すれば報われる社会だ
- 掲載日:2016/10/14
第40回 努力は報われると考える理由
思う+どちらかと言えば思う | どちらとも思わない | 思わない+どちらかと言えば思わない | |
---|---|---|---|
1988年 | 44.2% | 29.0% | 26.7% |
2016年 | 15.2% | 40.0% | 43.4%(他、無回答1.4%) |
「努力は報われる」と肯定的な見方をしている人は、1988年には44.2%だったのに、2016年では15.2%と、およそ3分の1にまで少なくなっています。以前は、多くの人が努力に意味を見いだせていたのに、いまでは否定的に考える人が、多数派となってしまいました。
なぜ「努力は報われる」と考える人が減ったのでしょうか。要因は様々あると思いますが、その1つとして、何をもって“報われた”と感じるかの範囲が、昔よりも限定的になってしまったことがあげられると考えます。
つまり、誰もが分かる結果をださないと“報われた”とはいえない。努力のプロセスで獲得した成長ぐらいでは、“報われた”と感じることができない。そんなハードルの高さが、努力することの価値を下げているのではないでしょうか。
ある学生とおしゃべりしていて、「いま、○○の資格の勉強している」という話になりました。なぜその資格に興味をもったのかをきいたところ、「履歴書に書いたとき、なんとなくイメージが良さそうだったから」という返事です。
資格偏重主義はあまり好みではないのですが、せっかくのやる気を活かそうと思い、「それなら、△△の方がいいんじゃない」と、難易度は高いものの、チャレンジしがいのありそうな資格を提案しました。
しかし、彼の返事はNoです。△△は合格率が低すぎて、せっかく勉強してもムダになりそう。○○なら合格率が高くて、確実に資格を得られるから、損することがない。これが彼の理屈でした。
「誰でも取れそうな資格を目的もなく取得するよりも、興味ある難しい資格にチャレンジして、努力したプロセスを伝えた方が、就活でも評価されると思うよ」。そう伝えても、彼にはピンとこないようです。
「だって、資格取得という結果をださないと履歴書には書けないし、意味がないよ。勉強に費やした時間と労力がムダになる。確実に結果を得られる方がお得じゃん!」と主張します。
なぜ、結果がでないと意味がないと思うのかをきいたところ、「だって、世の中ってそうでしょ!」と一刀両断されてしまいました(笑)。
以前と比べて、努力すること自体を褒めたり、認めたりすることが減っているのかもしれません。性急に、目に見えやすい結果を求められることが多くなりました。努力するというプロセスに価値を見いだせなくなっているのでしょう。
結果を重視する価値観を否定はしませんが、発達途上の学生に大きな影響を与えてしまうことを憂慮します。結果重視の考え方は、資格をめぐる学生発言にあるように、成長を阻害しやすい傾向にあるからです。
評価のものさしが“結果”の有無なら、プロセスを軽視して、報われることしかしたくなくなります。だから、彼らは困難なことに時間と労力をかけたがりません。いまの自分の実力で、確実に結果がだせることを好みます。そういえば、学生対象にキャリア支援研修を実施したとき、学生から修了書がほしいと言われたことがあります。自身の努力を証明する“結果”がほしかったようです。
しかし、発達途上の学生に適用される評価のものさしは、見えやすい“結果”ではなく、努力のプロセスから感じとれる“成長”でしょう。求める“結果”がチャレンジングであればあるほど、努力は報われにくくなります。でも、努力したという事実は確実にその人のなかに蓄積して、大きな“成長”につながります。そのプロセス自体に意味を見いだせれば、努力は報われているといえるはずです。
自分に120%の負荷をかけて、努力することに意味を見いだせる学生はごく少数です。楽に結果を手にして、成功を得たいと考える学生が大半でしょう。でも、努力の対価として得た“成長”が通行手形となり、はじめて成功への道のりがはじまります。まずは成長物語(努力で成長を手にするストーリー)で、次に成功物語(結果を手にするストーリー)。焦らずに、じっくりと時間をかけて、自らのキャリアを築いてほしいものです。
ゆっくりで見えにくい“成長”に価値を見いだせる大人が多くならなければ、努力する学生は、どんどん少なくなるでしょう。「努力は報われる」と言い切れる大人が少しでも増えてくれることを願っています。
バックナンバー
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- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
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- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
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- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
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- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
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- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
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- 第7回 学生から社会人への育て方
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- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
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- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント