第38回 彼がマスクをする理由

入梅をむかえて、しっとりとした空気を感じるようになりました。この時期になれば、さすがに黄砂やPM2.5、インフルエンザもなりを潜め、マスクをしている人も少なくなります。そんな中、ちょっと変わった質問を男子学生から受けました。

 「面接のときにマスクをしていたらマズイですか?」。意外なその質問に、意図を理解しかねて、思わず逆質問をしてみました。「なぜマスクの心配をするの?風邪をひいているの?」。すると、そうではないと言います。マスクをして面接に臨みたいが、それがマナー違反にならないかを知りたいとのこと。しかし、マスクをして面接を受けたい理由が、私には全く分かりません。

 みなさんは、マスクをする理由として、どんなことを思い浮かべますか。まずは“風邪を引いたとき、周囲への感染を防ぐため”でしょう。インフルエンザが流行している時期ならば“罹患するのを防止するため”にマスクをする人もいます。しかし最近は、全く異なる目的でマスクをする人が増えているそうです。「伊達マスク」と呼ばれています。

主な使用目的としては…

などです。

 冒頭の質問をしたのは男子学生なので、美容目的とはあまり考えられません(近頃はそうとも言いきれませんが・・・苦笑)。かといって、風邪を心配しているわけでもない…。では、なぜ彼はマスクをしたいのか。その理由を聞いてちょっと驚きました。

 「表情を隠したいから」。それが面接でマスクをしたい理由です。彼曰く、“いつもより物怖じせずに話ができる”“無理にニコニコとした表情を作る必要がない”“機嫌の良し悪しをごまかしやすい”などの効果(?)があるそうです。

 調べてみると(※)、同じような理由で伊達マスクをする人は少なくないようです。コミュニケーションの面倒くささや不安を緩和するためのマスク。そんな理由があったのか~と妙に感心するとともに、同様の理由で多くの人が伊達マスクをしている事実に驚きました。

 質問してきた彼が、対人関係に苦手意識がありそうな学生だったら、それはそれで「なるほど~」と納得していたかもしれません。でも、目の前にいる彼は、マスクはしているものの、とても感じの良い学生なのです。問題なく面接コミュニケーションができそうなのに…なぜ?という私の疑問に、彼はこう答えました。「マスクをしているときの方が、リラックスして本来の自分が出せる」「友達からも、マスクをしているときの方が感じが良いと言われる」。

 「じゃー、マスクを取ったらどうなるの?」と聞いたところ、「ちゃんとしなきゃって思うから、今よりも無表情で、しゃべり方も堅くなってしまう」という返事が返ってきました。マスクをしていない自分には自信が持てない。マスクをしていると守られている安心感がある。そうも言っていました。

 対人関係に強い恐怖があるわけではないが、何か漠然とした不安があるので、自分の身を守るものがほしい。つまり、彼にとってマスクは防具であり、鎧であり、盾なのでしょう。そう言われれば、数年前から季節に関係なく、常にマスクをしている学生が目につくようになりました。彼らも同じ理由でマスクをしているのかもしれません。

 コミュニケーションにおいて表情は重要ですから、伊達マスクであれば取ってほしいのですが、どうすれば外してくれるのでしょうか。『北風と太陽』の寓話ではありませんが、北風よりも太陽の方が効果的のはずです。自分を取り巻く人々や社会が、おおらかで寛容的であれば、彼らのマスクは自然と外れていくように思います。

 しかし、昨今の社会を見れば、声高に他者を非難したり、ディスったり、ヘイトしたり…。ギスギスとした空気を感じることが多くなりました。これでは、伊達マスクが増えこそすれ減ることはないでしょう。周囲にいる人たちと笑顔であいさつをかわし合い、日々を穏やかに過ごす。そんなシンプルな生活が難しくなりつつあるように思えてなりません。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。