この春に社会人デビューした若者が、そろそろ研修を終えて、現場に配属されている頃ではないでしょうか。今年も数社の新入社員と触れ合う機会があったのですが、例年以上に“学生っぽさ”が抜けていないように感じました。例えば、研修時の姿勢が大学の講義時のように受け身(反応が低く、自分には関係ないと自己判断したことには無関心)、連絡事項を伝えてもメモを取らない、注意しても時間管理の甘さが目立つ…などなど。
「学生気分が抜けていない」というフレーズは、毎年おなじみのものではありますが、今年は彼らの就活スケジュールが1つの要因となって、より顕著な気がします。
16卒採用の『指針』では、選考開始が8月まで後ろ倒しとなりました。そのため、最終的な内定先の決定が、9月までずれこんだ学生は少なくありません。数週間後には内定式で、卒論を書き上げたらもう卒業!というタイミングです。企業側も、冬から春にかけてはインターンシップが忙しかったので、内定者のフォロー研修どころではなかったでしょう。
昨年までは、内定者というポジションで就職先企業とゆるやかにつながっている時間が1年近くもありました。先輩社員との触れ合いをつうじて、自分と社会人の価値観や行動様式のちがいを感じることも多かったはずです。しかし今年の新人は、これまで通用していたスタイルがもう通じないことに今やっと気付いた!(←いまココ)、という感じでしょう(笑)。この先、配属先のOJTをつうじて、実社会の“流儀(良しとされるやり方、考え方など)”をインストールされていくことになります。
このインストールの過程で、彼らはさまざまな変化をみせてくれます。「クセ」が「個性」になっていくのも、その1つでしょう。「クセ」と「個性」。この2つは、同じ“自分らしさ”が根っこにありつつも、かなり異なった状態を表しています。
- 掲載日:2016/04/19
第37回 クセと個性の違い
ここでいう「クセ」は、無意識に表出してしまう、あるがままで洗練されていない行動といったイメージです。「そのクセは直した方がいいよ」と、ネガティブに使われることが多いので、周囲から認められにくい“自分らしさ”と言えるでしょう。一方個性は「この企画は個性的だね!」といった感じで、比較的ポジティブに使われることが多く、周囲から認められている“自分らしさ”と表現することができます。自分が所属するコミュニティー(配属先の先輩社員など)から受け入れられれば「個性」で、そうでなければ「クセ」。そんなふうに、2つを分けて考えています。
仕事が組織の中で行われる以上、「クセ」のままでは“自分らしさ”を生かすことはできません。ちょっと粗野な状態の「クセ」に、コミュニティーの“流儀”がインストールされることで社会化がすすみ、「個性」となって仕事に生かせるようになっていきます。彼らの“自分らしさ”がスポイルされずに、組織に定着していく姿を見るのは本当にうれしいものです。
しかし、なかなか上手くいかないケースもあります。例えば、「クセ」を「個性」と勘違いしている場合です。社会人として変化することが求められているのに、「組織の歯車になりたくない」「社畜化するのはイヤだ」「ありのままの自分でいたい」といった言葉とともに、「クセ」を「クセ」のまま貫き通そうとします。
こうした若者に足りないものは何か。ありきたりな言葉ですが「素直さ」ではないでしょうか。もう少し詳しく言えば「意図的にコントロールされた素直さ」です。「クセ」を自らの意思で一旦停止して、先輩たちが教えてくれる“流儀”を丸ごと受け入れる。こうした行動を意図的にとれる素直さが大切だと考えています。
同時に、もともとの“自分らしさ”をスポイルしないことも大切にしています。自分を持たずに、周囲の指示をそのまま実行するだけでは、「言われたことはできるんだけど…」というタイプになってしまいます。自分を持ちつつ、他者のアドバイスを受け入れられる素直さがあれば、「クセ」は「個性」となり、組織に活かしていけるでしょう。
自分の周囲にいる先輩たちと円滑にコネクトしながらも、なおにじみ出る“自分らしさ”という「個性」が築ければ、自己効力感(自分はここでやっていけるという感覚)をともなった充実感を得ることができます。スポイルされない“自分らしさ”とキャパシティある“素直さ”の両方をもった若者を育成していきたいなぁ。理想論ではあるのですが、若年層支援に関わる者として、そんなことを新年度スタートにあたり考えています。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント