本来の言葉を省略して、「活」をつける略語が流布しています。その代表格が“就活”なのですが、いまでは、朝活、婚活、妊活、保活、離活、終活…と、その活用形はビックリするほど広がっています。ですから、この種の言葉はもうお腹いっぱい!という方も多いでしょう。そんな空気を全く読まずに(笑)、今回は“配活(ハイカツ)”の説明からスタートしたいと思います。
ご存知の方もいると思いますが、配活というのは「配属活動」の略です。就活生が内定を得たあと、希望の部署に就けるように、人事や先輩社員に働きかける活動のことを指します。
例えば、希望部署の社員にOBOG訪問したり、活かせそうな資格をとってアピールしたり、プレゼン資料を作って人事に直談判したり…。まぁ、ここまで熱心に配活する学生は、それほど多くありませんが、入社前のこの時期、配属が気になっている内定者は多いでしょうし、できれば希望する部署に配属してほしい!という思いは強いはずです。
もし、あなたの企業の内定者が配活をしてきたら、どうしますか。
希望部署の事情もあるし、内定者それぞれの適性もあるので、一概には言えないでしょう。ただ、配活するぐらいやりたいことがハッキリしているのなら、希望を叶えるのも1つの手だと考えます。彼らの「好き」というエネルギーは、思いがけないポテンシャルを内包していて、育成に生かす有用性を強く感じるからです。
以前は、全く逆の考えでした。好きという想いが強い人ほど、希望を叶えることにリスクを感じていました。組織で仕事をする以上、本人の希望が必ずしも反映されるわけではありません。意に沿わない配属や仕事でも、そこから楽しさや面白みを見いだす姿勢、つまりプランドハプンスタンス(計画された偶発性)への対処を身につけることが大切です。好きなことにしかやる気が出ない…では、マイナスの影響が強すぎます。
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- 掲載日:2016/02/12
第36回 「好き」というエネルギー活用
しかし、ファーストキャリアにおいては、「好き」というエネルギーを活用したほうが効果的だと考えるようになりました。それは、ある女子学生との会話がきっかけです。
彼女は、普段からとても小さな声で話す、人見知りの学生でした。グループワークでも自分から意見を言うのは稀で、誰かが質問することでやっと対話が成立するぐらい受け身な姿勢でした。あるとき、何かのきっかけで、彼女の趣味の話になり、そこから突然(声は小さいままですが)自分のことを多く話しはじめたのです。
その変化だけでも驚きなのですが、さらに、趣味でつながっているTwitter友達を誘い、リアルイベントに一緒に行ったという話を聞くにいたっては、にわかには信じられませんでした。ネットでしか知らない人に、自分から“つぶやき”かけて、一緒に出かけるなんて、正直、私にはムリです(苦笑)。それを、グループワークで意見を言うことすら躊躇する彼女が難なくこなしているのです。
その行動力と積極性が、どこから来るのか不思議でならなかったのですが、本人曰く、好きなことだし、初対面でも趣味の話ができるので、話すことに抵抗はないとのこと。これほどアグレッシブな一面に気付かなかったこともショックでしたが、それ以上に、苦手なシチュエーションのなかにいる彼女だけを見て、コミュニケーション全般を低く見積もっていた自分にショックを受けました。伸びしろを見いだすどころか、ポテンシャルすら過小評価していたのです。
配活をするぐらい「好き」という気持ちがあるなら、それを活用しない手はないし、「好き」というエネルギーは、個々が持つポテンシャルを最大限に引き出してくれる。そう考えるようになりました。さらに「好き」は、学生から社会人へ移行する“しんどさ”を乗り越えるモチベーションにもなるでしょう。
社会人へのステージ移行に伴って、環境や役割は大きく変わります。別OSをインストールするぐらいの変化ですから、当然、大きなストレスがかかります。でも、「好き」がそのストレスを乗り越えるモチベーションになるでしょう。また、実力以上の業務を担当させて、引っ張り上げるように階段を登らせる成長体験も、好きなことならトライしやすいはずです。自分から知識やスキルの習得をして、自己啓発の習慣も身に付くかもしれません。
そこまで取り組んでも成果が出なければ、そのときは、組織が判断したジョブローテーションに本人も応じやすいでしょう。もし納得できないのなら、プランドハプンスタンスへの対処を身につける最良の機会にもなります。
内定者から配活を受けることがあれば、話だけでも聞いてみませんか。もしかしたら、今まで見えていなかった本人のポテンシャルを発見できるかもしれません。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント