第35回 今どき学生の出会い事情

 数年前から大学1年生向けのキャリア科目を担当しています。高校よりも自由度が高い大学で、多様な人との出会いやチャレンジングな経験を楽しんでもらいたい。そんな想いで、基本的なソーシャルスキルのトレーニングを、グループワーク中心に実施しています。

 すでに面識のある友達同士でワークを行なっても、トレーニング効果はあまり期待できません。知らない人とチームを組んでもらうことが、ワーク実施時の肝となります。しかし、これが本当に難しいことなのです。

 教室に一緒に入ってくる友達同士に、「別々に座ってね」と声をかけるぐらいでは、彼らは決して離れません。N極とS極の磁力が作用しているのではないかと思うぐらい、離れずピッタリ寄り添って移動します。社会人セミナーなら、「イヤだな~」と心の中では思いつつも、それなりに対応してくれることが多いのですが、学生は違います。ハッキリと、他グループとの交流を避けようとします。自らの友達と離れて、他グループのメンバーと交流するのは、彼らの世界ではマナー違反となるのでしょう。

 コクーン(繭)のようなコミュニティーを壊して、単独で行動してもらうにはどうすれば良いか。様々な試行錯誤を繰り返していくなかで、完全座席指定を行うことに落ち着いていきました。いきなりでは驚かせてしまうだろうと、予め予告をして心構えを促します。しかし、実施前から「初対面の人とのワークなんて絶対ムリ」「自分のような極度の人見知りにも配慮すべきだ」といったコメントが複数寄せられたりします。

 彼らの不安は分かっていましたから、どんな雰囲気になるのか、私もドキドキです。で、実施してみてビックリしました。スタート時の私語一切なし!スマホいじりもほぼなし!今までとは全く違った静寂かつ緊張した雰囲気に、こちらの方がやりにくさを感じるほどでした。

 周囲にいるのは見知らぬ人ばかり。今まで経験したことのない環境によって、(程度の差こそあれ)全員が緊張しています。それでも、アイスブレイクなどで、徐々に雰囲気がほぐれ、口数が増え、表情も和らいでいきます。あいさつ1つ、笑顔1つで互いの関係が変わっていくことが肌で感じられるのです。不安でいっぱいだったスタート時を思い出し、自分の変化に自身がもっとも驚く学生もいます。

 座席を強制するなんて、彼らの主体性を阻害するようで気が引ける…。最初はそう思っていました。しかし、既存のコミュニティーを一度強制的に壊すことで、より変化を引き出せているような気がしています。

 2~3回に1度は新しい座席にして、初対面同士のワークを何度も繰りかえす。このスタイルが定着して、1~2年が過ぎた頃でしょうか。少し変化が起きてきました。座席指定を告知しても、苦情があまり出なくなったのです。「ものすごく怖いだけど頑張る!」「不安しかないがやってみようと思う」。そんなコメントが増えてきました。

 先輩から聞いて、座席指定のことを知ったうえで参加する学生も出はじめていたので、心構えができてきたのかな~と、うれしく思っていたのです。しかし、それだけではないことを最近知りました。

 「ここは出会いの場だから~」。女子学生との雑談のなかで、この言葉を聞いたときは、おもわず「えっ!」と聞き返してしまいました。詳しく聞けば、同性同士の友達作りもあるけど、異性との出会いの場として意識している学生が少なくないとのこと。完全座席指定が、彼らの『出会いの場』として機能しているとは…。驚きを覚えつつも、ワークをポジティブに受け止める学生が増えてきたことに合点がいったのです。

 どうりで、気合いの入ったファッションをしてくる学生が多いわけだ。どうりで、授業前にトイレにいく学生が多いわけだ(女子学生曰く、化粧直しや髪型を整えているそうです)。なるほどなるほど~、言われてみれば納得です(笑)。

 でも、こんな副次的効果があるとは思いもよりませんでした。もしかしたら、自分が設計した以上に、充実したキャンパスライフのお手伝いができているのかもしれません。あくまで、裏カリキュラムとしてですが…。

 見方を変えれば、完全座席指定が「出会いの場」として機能してしまうぐらい、見知らぬ他者と会話が少ないんだな~と思い至ります。また、殻を破る最初の一歩が大変だからこそ“人見知り”と評しているだけで、心の底では、自分の殻を破りたい、多様な出会いをしてみたい、と思っている学生が多いことにも気付きます。

 出会い場の提供によって、ワーク設計の出来とは関係なく、学生から支持されている。自然発生的な思いもよらない副次的効果を知って、何だか愉快な思いがしました。

バックナンバー

バックナンバーを全て表示

キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。