第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年

 今年の新卒採用は、スケジュールが大幅に変わったことで、何かと物議を醸しています。結果の検証もそこそこに、すでに「指針」変更の議論が始まるほどの混乱だったのでしょう。

 新卒採用の話題になると、よく耳にするのが「俺(私)の頃は○○だった」というフレーズです。私は勝手に“オレの頃は論争”と名付けていますが(笑)、「指針」の8月選考開始というのも、意外と“オレの頃は論争”が影響しているように思います。

 いま要職に就いている方の年代なら、(微妙な違いはありますが)概ね8月~10月頃が就職活動のピークだったはずです。「オレの頃は10月だった」「8月選考開始でも問題ないはず」。そんな風に意見がまとまったのでは…と、密かに想像してしまいます。

 しかし、就職活動は大きく様変わりしました。同じ“就職活動”と呼んでいる行為でも、年代によって全く違うものをイメージしていると言ってよいでしょう。その差異を踏まえた上で議論しないと、また同様の混乱が生じかねません。

 今回は、様々な問題が露呈した2015年と、四半世紀前の1990年…まだ日本的経営がギリギリ残っていた時代の就活を比べてみようと思います。

 この四半世紀における就職活動のパラダイムシフトには、次の3つが大きな影響を与えたと考えています。

■大学生の大衆化、多様化

 18歳人口は、この四半世紀で約4割減りました。それを補うように進学率が上がり、大卒と呼ばれる若者は40万人から56万人に増えました(1.4倍)。この背景には、大学の増加があります。1991年以降の自由化(大綱化)によって大学数は1.5倍となり、今や受験者集めに腐心するほどです。また、学士の種類は29種から約700種と爆発的に増えました。

 学生が就職先を探すとき、まずは自らの専門性を活かそうと考えます。「即戦力でなければ就職できないはず。大学で学んだ専門性を活かした職業でなければ就職は困難だろう」と考える傾向があるのです。この誤解(学部学科はあまり影響しない)は、就職活動を通じて徐々に解けていきますが、それには一定の経験を要します。

 学力に大きな隔たりがあり、気質やメンタルの成熟度にも違いのある若者が、同じ大学生という肩書きを名乗り、同じ採用市場に参加していきます。同時に、約700種ある自分の専門分野を活かしたいと考えるのです。これだけバリエーションに富んだ若者とのマッチングは、容易なことではありません。

■インターネットの登場

 就職活動を劇的に変えたのが、インターネットによる情報サイトの登場です。一枚一枚ハガキを書くという牧歌的な行為は消え、クリック一つでいくらでもエントリーが可能になりました。閲覧可能な求人も、自宅に届く就職情報誌なら数千社程度ですが、現在では主要情報サイトの掲載だけでも約3~4万件あります。

 情報サイトには様々な検索機能がありますが、新卒ではスペックといった明確な要件が設けにくいため、有効な絞り込みは意外と困難です。膨大な選択肢を前に、ポテンシャルや相性といった昔と変わらない選考基準が適用されていると考えると、労力の大きさが想像できます。

 また、ネットにより増大した応募学生を効率的に選考するため、新しい手法が開発されました。エントリーシートやWeb筆記テスト、グループディスカッションなどです。学生は、情報サイトの使い方をマスターし、スケジュールやプロセスを理解した上で、これらの選考対策を講じる必要が生じました。今や事前準備は必須と言えるでしょう。

■キャリア選択の拡大と不安

 1990年の職種別就職者数(学校基本調査)を見ると、「事務従事者」と「専門的・技術的職業」を合わせた割合は78.1%でした。2015年では63.7%まで減っています。一方で、「販売従事者」は18.4%から25.1%に増えました。文系学生で言えば、販売・接客などを中心に、幅広い仕事に就いているのが実情でしょう。大卒=ホワイトカラーは昔の話で、就職先として考えられる職種は多様化しています。

 産業別では、サービス業と小売り・飲食業が増えています。しかし、最初からこの分野を希望している学生が多いとは言えません。採用ニーズと学生の志望にはズレがあるのです。それなりの時間をかけて現実と向き合い、それぞれに落ち着きどころを見いだしていく。この“落ち着きどころ”に辿りつく過程が大変なのです。

 できれば安定している企業がいいな。大手企業に入れれば入りたいけど、実力主義でもやっていけるように、適性のある仕事に就かないと。やりがいを感じられる仕事なら中小企業も悪くないけど、ブラックは怖いし、ある程度福利厚生が整っていないと長く働けないよな。そもそも、自分と相性の良い会社ってどこなの?エントリーシートが通過しないのは書き方の問題?相性の問題?グループディスカッション選考って何を見ているのか全然分からない!こんなに結果が出ないって、社会人としての適性が低いの?…でも、就職しなきゃマズイよな~。

 シビアさが透けて見える実社会の手前で、漠然とした不安を感じつつも、自分の居場所を見つけようと必死で現実と格闘していきます。そして手探りで“落としどころ”を探っていくのです。

 この四半世紀、学生も大学も企業も職種も…それぞれに多様化し、選考手法は複雑化していきました。大学生になれば、卒業後の選択肢(キャリア)が何となく見えていた時代とはまるで違います。とてもオレの頃は…で片付く話ではありません。この現実を踏まえた議論をしてほしい。心からそう願っています。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。