大学で英語を教えているアメリカ人の友人(日本語堪能!)がいます。よく一緒にお茶を飲みながら他愛もない話をするのですが、先日は日米の学生比較で話に花が咲きました。
彼の講座は座学が少なく、英語でグループワークやスピーチをすることが多いため、教え始めた当初は、日本人のシャイぶりに驚いたそうです。「無表情で、反応がほとんどない!ワタシ嫌われているのかと思いました」とパントマイム付きのオーバーリアクションで彼は語ってくれます。ハワイ出身の彼は、パフォーマンスも表情も本当に豊かです。もしかしたら学生は、彼のコミュニケーションスタイルに驚いてフリーズしていただけなのかもしれません…(苦笑)。
次に苦戦したのは“自分の意見をハッキリと言ってもらうこと”だそうです。「~をどう思いますか?」と質問すると、みんな似たような発言をします。それはきっと自分の意見じゃないです。だからワタシは「あなたはどう思いますか?」を繰り返してばかりいます。そう笑いながら話していました。
「アメリカの学生は違うの?」。そう私が聞くと、急に真面目な顔になって「アメリカでも、シャイで人見知りな学生は増えていると思う」と肩をすくめます。ヘッドフォンをしたままスマホをいじっている姿を見ると、コミュニケーションを避けたがっているように見える…と、寂しそうに言っていました。
友人は日米文化比較の専門家ではありませんから、あくまでも個人の感想に過ぎません。ただ、アメリカと日本の学生が似てきたという指摘を聞いて、就職にまつわるいくつかの話題を思い出しました。
- 掲載日:2015/06/18
第32回 日本の学生、アメリカの学生
■ヘリコプターペアレント
過干渉気味の保護者を表現する言葉で、アメリカをはじめ、ヨーロッパでも数年前から話題になっています。自分の子どもの頭上を常に旋回して監視しているヘリコプターのようだから“ヘリコプターペアレント”です。日本で言う“モンスターペアレント”と似たような意味で使われます。
少し前ですが、就職活動時のヘリコプターペアレントを紹介しているコラムがあります。
アメリカでは、日本のように初任給が一律ではありません。雇用契約を結ぶときに、他の条件も含めて雇用者と交渉することが一般的です。まだ世慣れていない子どもに任せていては不利な契約を承諾してしまうかも・・・。そう考えて、親が交渉の場に同席することもあるそうです。アメリカ版「オヤカク(親への確認)」といったところでしょうか。
■大学の就職支援
アメリカでは卒業してから就職する学生が多いから、大学でキャリア(就職)支援はやらないんじゃないの?と考える方が多いかもしれません。しかし、スタイルは異なるものの、支援プログラムは豊富で、内容はビックリするほど似ています。キャリア支援に熱心な大学の1つ、ニューヨーク大学では学生向けにyoutube専門チャンネルを作って、動画で情報提供を行なっています。
いくつか面白そうな動画をご紹介すると…
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・Interviewing Tips/面接対策講座(大学制作)
https://www.youtube.com/watch?v=NPxGoNln9Mo -
・Writing an Effective Resume/履歴書の書き方講座(大学制作)
https://www.youtube.com/watch?v=kmGqg-CHpZM -
・Dress for Success/リクルートスーツ選び(外部動画の紹介)
https://www.youtube.com/watch?v=n0DFwGy8wUg -
・LinkedIn for Students/学生のためのLinkedIn(外部動画の紹介)
https://www.youtube.com/watch?v=YWp6AN00D_c
こちらでは、アメリカ版“学内合同説明会(Career Fair)”の様子を見ることができます。
面接や履歴書の書き方ばかりではなく、リクルートファッション指南やLinkedIn(アメリカ版就職サイト)の使い方など、支援内容の共通性に驚きます。
■ブラックインターンシップ
日本ではブラック企業やブラックバイトが話題になっていますが、アメリカでは、インターンシップで同様の労働問題が発生しています。
インターンシップなどを通じて、実践的なキャリアを求められるアメリカでは、長期&無給でも希望の仕事経験を積みたい・・・と考える学生は多くいます。そこにつけこんで、インターン生を「無償労働者」のように酷使するケースが少なからずあるのです。“ブラックインターンシップ”と言えばイメージしやすいでしょうか。
似たような話は日本にもあります。就職塾を名乗る会社が、学生にトレーニングと称してハードな営業活動を長期間させていたことがありました。最近ある大学で聞いたのですが、介護サービス企業から30日以上のインターンシップ申請があり、その書面には「昼食支給、有資格者には入浴サービス業務あり」と書かれてあったそうです。これでは、「無償労働者」として利用していると思われても仕方がありません。
新卒採用のスケジュールが変わったことで、インターンシップへの注目度が高まっています。ブラック企業、ブラックバイトに続き、今後ブラックインターンシップが話題になるかもしれません。
学生が大人(社会人)の仲間入りを果たすプロセスには、国や文化が異なっても似たようなハードルがあるようです。そして、乗り越えるための支援やそこで生じるトラブルも共通するものがあると改めて感じました。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント