学生のふとした行動を見ていて、「なるほど~」と彼らの特性に思い至ることがあります。今回は、グループワークを見ていて納得した思考・行動パターンをお伝えします。
学生に実施してもらうキャリアワークの1つに、チームでレポート作成するといったものがあります(採用とは全く関係のないものです)。
チーム分けやスケジュールなど、一通りの説明が終わった後は、ほぼ学生にお任せでワークを進めていきます。すると、始まってそこそこに役割分担をし始めるチームが出てきます。厳密に言えば、役割分担ではありません。パート分担です。メンバーが6人なら、スペースに配慮して全体を6等分します。次に、おもむろに“ジャンケン”をして、勝った人から自分のパートを決めるのです。話し合いはこれで終了!ものの10分もかからずに終わるチームもあります。私が「まだ時間はあるよ。話し合い終了で大丈夫なの?」と聞くと、満面の笑みで「完璧です!」と返事をしてくれました。結局このチームは、各自の完璧な個人作業でチームレポートを完成させました…。
自分たちはレポートで何を伝えたいのか。それを踏まえて、どの項目に一番注力すべきなのか。どこに行けば必要な情報は得られそうか。調べる方法は他にないのか。データ集計やグラフ作成といった実作業が得意な人はいるのか…。話し合いを通じて、様々な意見を出しあい、考え、決断した上で、メンバーの強みや個性を生かした役割分担…というのは、あまり見たことがありません。
少しグループワーク慣れしたチームだと、持ち寄った情報をもとに会話が成立します。喧々諤々とした話し合いではありません。それぞれの意見を発表しあい、感想を述べる程度です。その後、おもむろに“多数決”を行ない、支持が一番多かった人の意見が採用です。レポート制作は粛々と進んでいきます。
A意見とB意見を比較したり、共通性を見いだしたりしながら、別案を考え、クリティカルな意見も加味して、新しいCという意見を生みだす…と言うような生産性の高い話し合いは、稀だと言えるでしょう。
蛇足ですが、前述の様子はイメージしやすいように少し単純化して伝えています。ちゃんとした話し合いになっているチームも存在します。それでもあえて言い切るとすれば、学生の話し合いは「ジャンケン」と「多数決」で進んでいくと言えます。
- 掲載日:2015/04/13
第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
この思考・行動パターンから感じるのは、「(半径3m以内の)過剰な気配り」と「個性尊重のルール」です。
「(半径3m以内の)過剰な気配り」は、スクールカーストのなかで、いじめに遭うことなく平穏無事に過ごすために、彼らが身につけてきた処世術です。以前“褒め言葉を書く”というワークをやったとき、「相手次第で、カワイイも褒め言葉にならないので書けない」と言ってきた学生がいました。それだけ相手の好みや状況を把握した上で、不快にさせない、慎重かつナーバスな対応をしているのです。コミュニケーションに相当な気力と体力を要するのも理解できます。できるだけ初対面の人との会話を避け、半径3m以内の関係性にとどまりたくなる気持ちも分かります。
「個性尊重のルール」という言葉は、それ自体にあまり問題は感じません。気に掛かるのは、個性が意味する範囲が幅広いということです。先天的に変わりにくい気質や価値観などを、個性として尊重することに何の異論もありません。ただ、グループワーク時の意見も個性であり、それを否定するのはアンタッチャブル!…では話し合いが成立しません。意見に対する反論は、個性の否定とは異なります。(言い方に配慮は必要ですが)反論によって話し合いはより深まっていきます。個々の意見まで個性と捉えていては、互いに触りにくくなってしまいます。
2つの思考・行動パターンを踏まえれば、「ジャンケン」と「多数決」は、初対面同士の話し合いにおいて最強の道具と言えます。互いの顔色を見ながら、気力と体力を酷使する必要がありません。自分の意見が採択されないことはあっても、否定されることもありません。合理的な決め方であり、彼らの理屈に合った方法と言えます。
しかし、ビジネスの理屈には合いません。相手の満足を得ることでビジネスは成り立ちます。その“相手”は、自分と親和性が高い人ばかりではありません。自分の個性(≒意見)を尊重してくれる人ばかりでもありません。ビジネスでは、多様な相手を満足させる必要があります。半径3m以内の部分最適ではなく、ステークホルダー全体を踏まえた全体最適を考える視点が必要でしょう。
この春入社した新社会人も、そろそろ研修を終え、配属される頃でしょうか。学生の思考・行動パターンから脱却するには、日々のOJTが有効でしょう。もし思い当たる点があれば、OJTの育成ポイントの1つに入れていただければ幸いです。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント