第30回 学生の誤字に関するあれこれ

 学生のキャリア支援に関わっていると、レポートや小論文など、彼らの手書きの文章に触れる機会が多くあります。これらを添削するわけですが、自身のキャリアをテーマにしているので、○×をつけるような性質のものではありません。表現に変なところがないか、意図が通じるかなど、日本語表現のチェックが中心となります。

 それにしても、学生の手書きの文章というのは、どうしてあんなに難解なのでしょう(PCの場合、アプリに校正機能があるので比較的読みやすい)。「なんて書いてあるの?」「結局、何が言いたいの?」「もしかして、こういう意味?」など、こちらが学生の思考に歩み寄り、行間を読み取らなければならないものが少なくありません。

 手書きでは、誤字も一気に増えます。ありがちなものから、意外性のあるもの、なかにはニヤッと笑えるものなど、なかなかに個性的です。そして、間違え方をじっくり見ることで、彼らの特性の一端に気づくのです。今回は、学生の誤字から思いつくあれこれをまとめてみました。

 昔からよくある誤字の代表格といえば、部首などの書き間違いでしょう。

・○知識 → ×知織
・○成績 → ×成積
・○読書 → ×続書
・○克服 → ×克報
・○遠慮 → ×遠「慮」の部首が「广(まだれ)」

 読みながら一瞬「んっ?」と引っかかり、よく見て「確かに紛らわしい」と感じるものが多いと言えます。

 次は、ここ数年で増えてきたと感じる誤字です。

・○常識 → ×条識
・○課題 → ×果題
・○特に → ×得に
・○資格 → ×試格
・○留年 → ×流年
・○性格 → ×生格
・○積極的 → ×接極的

 「こんな誤字をするの…」と驚かれる方もいるかもしれません。自己PRで“試格取得に力を入れました”と書かれても、「本当に~?」と思わず勘ぐりたくなります(笑)。

 後者の誤字には、共通点があります。それは「音(おと)」です。音だけ拾えばスムーズに読み進むことができるのです。

 私は漢字が思い出せないとき、「意味」や「形」から記憶のストックを探っていきます。なので、もし間違えるのなら前者に近いミスをするでしょう。一方、後者の誤字をする学生は、「音(おと)」で漢字を認識しているように思うのです。

 音で漢字をとる文化は、ネット用語でよく見られます。

・人大杉(ひとおおすぎ)/人が多くて混み合っている様子
・乙(おつ)/「お疲れさまです」という意味
・禿同(はげどう)/「激しく同意」という意味
・厨房(ちゅうぼう)/中学生のような子供っぽい人。中学生→中坊→厨房

 ちなみに、漢字ばかりでなく「△」「鯖」「BBA」など、表現方法もさまざまです(※)。また、ネット文化特有のものでもありません。一昔前にあった「愛羅武勇」にも似たものを感じるので、昔からある言葉遊びの1つなのでしょう。

 問題は、これらが“遊び”である以上、正しい表現をふまえていなくては“遊び”にならないということです。しかし、学生の周囲から、というより私たちの周囲から、正しい日本語表現は急激に減りつつあります。

 ネットが普及する以前、多くの人の目に触れる文章は、ほぼ出版社や新聞社が介在しているものでした。校閲と呼ばれる言葉のプロがチェックしているので、文章を読むこと自体、日本語表現や漢字を覚える教育的側面があったと言えます。

 しかし、プロがチェックした文章はすでに減りつつあります。少なくとも学生の周囲からは激減しています。代わりに、SNS上のネットスラングや変換ミスした漢字、誤用表現など、ありとあらゆる言葉や表現に接しているのです。彼らの文字認識に、何かしらの影響を与えていると考えた方が自然でしょう。

 この環境に危機感がないといえばウソになります。ただ矛盾するようですが、否定したくもないのです。近い将来、ネットが(教育の場でも)主流媒体の1つになれば、きっと「新しい日本語」が生まれるでしょう。

 言葉は生きているので、生まれたり、消えたりする。古文がすでに解説なしでは読めないように、これからも連綿と日本語は変わり続けていく。そう考えると、今の基準だけで判断せず、鷹揚に受け入れ、変化を楽しみたいと思うのです。

 とは言え、誤字は誤字。3月から本格的にスタートする就職活動では、いま正しいとされる日本語を身につけなくてはなりません。

 「失敗は成功の母」という間違いもありました。「失敗は成功の元」と「必要は発明の母」が混ざってしまったのでしょう。間違えついでに「失敗は成長の母」として、彼らの“成長の母”となるべく、今日も添削にいそしみます。

※ネット用語の意味/http://imimatome.com/netyogonoimi/

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。