学生のキャリア支援に関わっていると、レポートや小論文など、彼らの手書きの文章に触れる機会が多くあります。これらを添削するわけですが、自身のキャリアをテーマにしているので、○×をつけるような性質のものではありません。表現に変なところがないか、意図が通じるかなど、日本語表現のチェックが中心となります。
それにしても、学生の手書きの文章というのは、どうしてあんなに難解なのでしょう(PCの場合、アプリに校正機能があるので比較的読みやすい)。「なんて書いてあるの?」「結局、何が言いたいの?」「もしかして、こういう意味?」など、こちらが学生の思考に歩み寄り、行間を読み取らなければならないものが少なくありません。
手書きでは、誤字も一気に増えます。ありがちなものから、意外性のあるもの、なかにはニヤッと笑えるものなど、なかなかに個性的です。そして、間違え方をじっくり見ることで、彼らの特性の一端に気づくのです。今回は、学生の誤字から思いつくあれこれをまとめてみました。
昔からよくある誤字の代表格といえば、部首などの書き間違いでしょう。
・○知識 → ×知織
・○成績 → ×成積
・○読書 → ×続書
・○克服 → ×克報
・○遠慮 → ×遠「慮」の部首が「广(まだれ)」
読みながら一瞬「んっ?」と引っかかり、よく見て「確かに紛らわしい」と感じるものが多いと言えます。
次は、ここ数年で増えてきたと感じる誤字です。
・○常識 → ×条識
・○課題 → ×果題
・○特に → ×得に
・○資格 → ×試格
・○留年 → ×流年
・○性格 → ×生格
・○積極的 → ×接極的
「こんな誤字をするの…」と驚かれる方もいるかもしれません。自己PRで“試格取得に力を入れました”と書かれても、「本当に~?」と思わず勘ぐりたくなります(笑)。
後者の誤字には、共通点があります。それは「音(おと)」です。音だけ拾えばスムーズに読み進むことができるのです。
- 掲載日:2015/02/13
第30回 学生の誤字に関するあれこれ
私は漢字が思い出せないとき、「意味」や「形」から記憶のストックを探っていきます。なので、もし間違えるのなら前者に近いミスをするでしょう。一方、後者の誤字をする学生は、「音(おと)」で漢字を認識しているように思うのです。
音で漢字をとる文化は、ネット用語でよく見られます。
・人大杉(ひとおおすぎ)/人が多くて混み合っている様子
・乙(おつ)/「お疲れさまです」という意味
・禿同(はげどう)/「激しく同意」という意味
・厨房(ちゅうぼう)/中学生のような子供っぽい人。中学生→中坊→厨房
ちなみに、漢字ばかりでなく「△」「鯖」「BBA」など、表現方法もさまざまです(※)。また、ネット文化特有のものでもありません。一昔前にあった「愛羅武勇」にも似たものを感じるので、昔からある言葉遊びの1つなのでしょう。
問題は、これらが“遊び”である以上、正しい表現をふまえていなくては“遊び”にならないということです。しかし、学生の周囲から、というより私たちの周囲から、正しい日本語表現は急激に減りつつあります。
ネットが普及する以前、多くの人の目に触れる文章は、ほぼ出版社や新聞社が介在しているものでした。校閲と呼ばれる言葉のプロがチェックしているので、文章を読むこと自体、日本語表現や漢字を覚える教育的側面があったと言えます。
しかし、プロがチェックした文章はすでに減りつつあります。少なくとも学生の周囲からは激減しています。代わりに、SNS上のネットスラングや変換ミスした漢字、誤用表現など、ありとあらゆる言葉や表現に接しているのです。彼らの文字認識に、何かしらの影響を与えていると考えた方が自然でしょう。
この環境に危機感がないといえばウソになります。ただ矛盾するようですが、否定したくもないのです。近い将来、ネットが(教育の場でも)主流媒体の1つになれば、きっと「新しい日本語」が生まれるでしょう。
言葉は生きているので、生まれたり、消えたりする。古文がすでに解説なしでは読めないように、これからも連綿と日本語は変わり続けていく。そう考えると、今の基準だけで判断せず、鷹揚に受け入れ、変化を楽しみたいと思うのです。
とは言え、誤字は誤字。3月から本格的にスタートする就職活動では、いま正しいとされる日本語を身につけなくてはなりません。
「失敗は成功の母」という間違いもありました。「失敗は成功の元」と「必要は発明の母」が混ざってしまったのでしょう。間違えついでに「失敗は成長の母」として、彼らの“成長の母”となるべく、今日も添削にいそしみます。
※ネット用語の意味/http://imimatome.com/netyogonoimi/
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント