2015卒生の採用活動が中盤戦に入ってきました。4月~5月にかけて大手企業が一段落。ここからは中堅・中小企業の採用が本格化していきます。今年は求人倍率1.61倍と、前年の1.28倍から大きく改善しているので、企業にとっては厳しい採用環境と言えそうです。
では、学生たちは余裕なのか…というと、そうとも言えません。「採用難なのに就職難」という矛盾が成り立ってしまうのが、今の新卒採用です。就職活動に苦戦している学生は、ちょうどこの時期から、就活における負のスパイラルに入り始めていきます。
学生が就職難におちいる理由は様々ありますが、2つの要因が大きく影響しているように思います。1つは有名企業が先行せざるを得ない就職活動、もう1つが社会人に対するネガティブな誤解です。
- 掲載日:2014/06/12
第26回 就活における負のスパイラル
就職活動がはじまると、学生はまず大手企業やBtoC企業など、誰もが知っている有名企業にエントリーします。人は既知のものからしか選択できないので、スタート時に知名度の高い企業にエントリーが集中するのは仕方がないと言えるでしょう。
結果として、一部の企業に人気が集中して、激しい競争率の選考を余儀なくされます。スタート早々の面接が、短時間で大勢の学生を選抜する(=多くの学生が落とされる)ハードな面接を経験するのです。
このタイプの面接は、(ちょっと単純化したイメージですが)第一印象が良くて、インパクトあるエピソードがあり、受け答えの反射神経に優れた学生が有利になります。サークルやアルバイトなど、ありふれた日常エピソードしかない(ほとんどの)学生や気の利いたことが言えない朴訥とした学生などは、あっという間に玉砕します。
少し話はズレますが、面接は日常エピソードでOK!という言葉をよく耳にします。たしかにその通りなのですが、日常の出来事で自己PRをするというのは逆に難しいのです。インパクトある体験なら「○○をしました」と言うだけで、面接官は興味を持ってくれます。質問もしやすいでしょう。しかし、ありふれた出来事では、分かりやすく状況説明をして、PRポイントを明確にしなければ質問すら出てきません。ありふれた体験だからこそ、“話す力”が必要になるのです。
閑話休題
張り切って就職活動をはじめたのに、最初のハードルが高すぎて、なかなか成功体験を得られない。その結果、学生はどんどん元気がなくなり、萎縮していく。短時間&インパクト勝負の面接に適していなかっただけなのに、「自分には社会人としての能力に欠けているのでは…」と自信を失い、就職活動から離れはじめてしまうのです。
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社会人に対するネガティブな誤解も就職難を誘発します。昨夏、就活スタート前の15卒生に「社会人」へのイメージを訊ねたところ、こんなコメントが並びました。
- 社会の荒波に立ち向かうサバイバルゲームのプレイヤーとなる
- 1度の失敗も許されない
- どんな仕事でも結果を出さなければならない
- 実力主義、自己責任、競争社会
- 何事にも耐えなければならない
- お金のために嫌なこと、辛いことを我慢する毎日 …など
なかには「忙しいがやりがいがありそう」「自立した大人でカッコイイ」などのコメントもありますが、7~8割程度はネガティブなイメージです。
ニュースとして彼らの耳に入るのは、事件や事故となったネガティブなものばかりです。最近ではブラック企業やドラマの影響もあるのでしょう。一度でも仕事に失敗したらクビになる、飛ばされる…ぐらいの勢いで、現実以上に厳しいイメージを持っています。
だからこそ、面接が怖いのです。自分では気づかないチョットした態度や発言で、あっさり×(バツ)がついてしまうかもしれない。「入室時のノックの回数を間違えたから…」「イスに座るタイミングが早すぎたから…」「ネクタイの色が良くなかったから…」。あらゆることがトリガーとなり、疑心暗鬼になって、前に進めなくなってしまいます。
人気企業のプレゼン競争で自信を失い、厳しすぎる社会人イメージが学生をどんどん臆病にしていく。そんな状況では、とうぜん良い結果は出にくいでしょう。そしてさらに自信を失っていく…。これが、就活における負のスパイラルです。
数ヶ月前まで、キャンパスで屈託なく笑っていた彼らが、別人のように元気を失っていきます。最近の研究では、『新卒における面接評価と入社後2~3年の人事評価には相関性が見られない』というデータがあります。良くも悪くも変化の早い学生だからこそ、面接で評価できるのは、その人のごく一部でしかないのでしょう。
もし良ければ、面接らしくない面接をしてみてはいかがでしょうか。会議室のいかついテーブルを挟んで、「自己PRをどうぞ」などと質問するような面接ではなく、お茶やお菓子を出しつつ、面接官が笑顔で話しかけ、学生が安心しておしゃべりをするような面接です。
時間があれば社内を案内しつつ、社員同士の他愛のない会話など、職場のワンシーンを見てもらうのも良いかもしれません。周り全てがライバル…といった過酷な環境ではなく、普通に穏やかで笑顔もあり、それぞれが一生懸命に仕事をしている。そんな日常が分かれば、学生はずいぶんと違う顔を見せてくれるような気がします。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント