第25回 悩めない学生

 先月は少しまとまった時間がとれたので、たまには勉強しよう!と思い立ち、大学生のキャリア支援に役立ちそうな論文をいくつか読了しました。その中でとても印象に残った言葉があります。今回のタイトルでもある「悩めない学生」というものです。

 「悩まない」ではなく「悩めない」です。

 今まで「悩む」とは、なんらかの葛藤が生じる状況におかれたら、本人が好むと好まざるとに関わらず陥ってしまう心理的な状態だと考えていました。なので、「悩み」と対峙する・しないの選択肢があることは理解できます。でも、できる・できないの問題で「悩み」をとらえたことがありませんでした。

 悩めない…。つまり、悩むことができないわけですから、これは能力の問題であり、スキルの問題だということです。悩むスキルが無いから悩めない。このとらえ方はとても新鮮であり、同時に「なるほど!」と妙に腑に落ちるものでした。

 「悩めない」学生は増えている。いくつかの論文では、そう指摘しています(※1)。定量的なデータはないので、程度は分かりませんが、私の皮膚感覚からしても、徐々に増えているような気がします。

 また「問題解決のハウツーや正解の提供を求める性急な学生」と「漠然と不調を訴え、何が問題なのかが自覚できていない学生」の二極化が見られる(※2より引用)という点も、共感できる指摘です。

 キャリア相談にくる学生は、(当たり前ですが)何らかの悩みを抱えています。
 例えば、就職活動の時期になれば、エントリーシートが上手く書けない、面接の受け答えが苦手…といった悩みを口にする学生が大勢います。でも、書く、話すというテクニックで対応できる具体的な悩みの奥に、何かモヤモヤとしたものをもっている、ということが往々にしてあります。

 このモヤモヤとしたものを、なんとか言葉にして説明してくれれば良いのですが、それができない学生は、相談しやすい具体的な悩みばかりを伝えてきます。そうなると、こちらとしては「エントリーシートを添削しよう!」「面接練習をしてみよう!」となります。対処療法的なアドバイスを得て、学生は一応満足して帰ります。そして、またすぐに行き詰まるのです。

 この悩みのループから抜け出すには、自分のモヤモヤと向き合い、その抽象的概念を言葉にして誰かに語ることが有効です。そんなに大仰なことではありません。人に話をするだけで、だんだんと自分の考えが整理されていく。そんな経験のある方は少なくないでしょう。カウンセリングの場面でも、ある時点まで話すと、「そうか!そうだったんだ~」とひとりで結論を出して、スッキリした顔で帰っていくことがよくあります。

 しかし、言語化するチカラが未熟だと、悩みを人に話すというプロセス自体が難しくなります。「なんとなく」「いや、別に…」。こんな言葉が会話のなかで幾度となく出てきては、そこから話しが進みません(私のカウンセリング技量にも原因はあるのですが…)。自分の想いとちゃんと向き合い、ちゃんと悩むというのは、意外と難しいことなのだと分かります。

 以前のコラムに書いたことですが、いま大学生である彼らは、言語を駆使しなくても困らない世界で生きてきました。自分から言葉も発しなくても日常生活で困ることは何もない。そんなサービス社会のなかで生活しているのです。分かり合うのに手間のかかる人とは関わらなくても支障はありません。自分の身近には、何も言わなくても自分を丸ごと察してくれる(察しようとしてくれる)大人(両親、先生など)がいます。

 そんな環境下では、モヤモヤした「悩み」と向き合い、それを言語化するという行為は、かなり面倒くさいことです。手っ取り早く「何をすればいいのか教えて!」。あるいは、自分を丸ごと察して手をさしのべて欲しい。そう考えるのも理解できます。やはり、「悩む」という行為は、意外とスキルを要することなのでしょう。だから、「悩まない」ではなく「悩めない」のです。

 「悩めない」学生の特徴を振り返ると、自分のあたまで考えることが苦手な学生と言い換えることができます。この4月、多くの若者が学生から社会人となりました。皆さんの身近に、自分でろくに考えもせずに「どうしたらいいでしょう…」と丸投げ質問をしてくる新人はいませんか?もしくは、1から10まで細かすぎる質問をしてくる新人は?
 もしいるのなら、それは言語化が苦手な「悩めない」新人かもしれません。

 仕事で必要な言語力は一定のトレーニングで身に付くものです。Off-JTやOJTを通じて、言語化するチカラを鍛えてあげれば、少しずつ仕事ぶりも変わってくるでしょう。でも、「そこから育成しなきゃならないの?!」という声が、ため息とともに聞こえてきそうですね…。

 大学にも多くの学生が入学してきました。私も新人大学生との出会いの時期です。実社会に送り出すまでには、ちゃんと自分のあたまで考えることのできる「悩める学生」を育てなければ…!。新年度を迎えて、そんな想いを新たにしています。

※1参考論文

※2

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。