2015卒生の採用活動が開始となって2ヶ月以上が過ぎました。今年は、前年以上に、スタートからの「スピード化」と、選考の「早期化」が目立ちます。そのため、学生は例年よりも持ち駒(選考を受けるためエントリーした企業)が少ない状況で、本格的な選考に押し出されはじめました。
同時に、「景気が良くなっていると聞いたんで…」と、学生は大手志向を強めています。ブランド力のある有名企業にばかりにエントリーを集中させて、アップテンポに就職活動を進めている学生も少なくありません。
いま私が懸念しているのは、(大手企業の春採用が落ち着く)ゴールデンウィーク頃に、内定を得られず、持ち駒もなくなり、就職への意欲をすっかりなくした学生が、例年よりも数多く出るのではないか、ということです。
気持ちをリセットするために、しばらくの間、就職活動から距離をおき、ちゃんとリスタートできれば、何の心配もありません。しかし、最初の挫折で離脱したまま、就職と向き合えなくなってしまう学生も相応にいます。
「今の学生は打たれ弱い」「数社落ちただけで就活をやめてしまう」。そんな言葉をよく耳にします。実際に、3~4社の選考に落ちただけで、就職活動からリタイアしてしまう学生を見てきました。メンタルが弱いと言ってしまえば、その通りです。否定はしません。
しかし、それはある意味やむを得ない…とも感じています。彼らからすれば、就職活動のように高い倍率の選考を経験するのは、生まれて初めてのことなのです。これまで、シビアに「落ちる」といった経験を、周囲の大人の協力によって、ことごとく回避してきた。回避できてきた。そんな世代です。
- 掲載日:2014/02/14
第24回 困難を選択する困難さ
学生が経験する最も身近な選考は、大学受験でしょう。しかし、数字だけを見れば、そこで「落ちる」学生はほぼ存在しません。「全入時代」が話題になった2009年の志願倍率は1.17倍。その後も1倍ちょっとで推移しています。すでに、大学進学を希望すれば、どこかしらに席は存在する状況です。しかも、推薦やAO入試など、学力試験をともなわない選考で入学した学生は、私立大学で45%強と約半数にせまっています。
誤解してほしくないのですが、本来の目的が成されているAO入試であれば、とても魅力的な入試制度だと思っています。とは言え、なかなか難しいのが実情です。体のいい学力試験回避制度となっている大学も少なくありません。
もう1つ付け加えれば、大学の数が多すぎるという意見を聞きますが、これには懐疑的です。ルーティン化された労働は、すでに国内には少なくなっています。一定レベル以上の知的労働が主流です。それには高等教育が必要でしょう。
(閑話休題)
高校の指導でも、シビアな選考を回避させる方向に動きがちです。指定校推薦の枠には、一般入試で確実に合格できるレベルの学生ではなく、あえて学力的に厳しい学生を推すことで、より多くの学生が無難に入学できるようにする。そんな話しも聞こえてきます。
さまざまな大人の事情とストレスを避けたい学生心理。その両者の思惑が一致することで、大学受験という選考は、ほぼ回避可能となりました。そして、先延ばしにしてきた「落ちる」というストレスと「就職活動」で向き合うことになるのです。
かなり大雑把な競争率のイメージですが、大手中心の春採用では(エントリー人数に対して)数百倍という単位が標準的でしょう。人気企業ともなれば、数千倍も珍しくはありません。ちょっとした宝くじ並みの倍率です。
これまで、シビアな選考をほとんど経験してこなかった学生が、いきなり「落ちて当然」というレベルの就職活動に臨むのです。頭では分かっていても、やはり「落ちる」ショックは大きいでしょう。それが数社続けば、自己への自信(自己効力感)など、あっという間に枯渇します。
高校や大学の学生生活を通じて、選考のストレスに慣れ、打たれ強い人材になればいい。確かにその通りです。それが正論です。しかし、他人事なら言える正論も、身内や近しい関係となると難しいものです。
今春大学生になる甥っ子の受験を見ていて、それを思い知りました。大学受験に向けて、いろいろと相談にのっていたのですが、秋口に「高校から推薦の話があったから」と、拍子抜けするほどアッサリと進路を決めてしまったのです。
本人が「満足している」と言うのなら、それ以上口を挟むのは難しいものです。そして、受験のストレスから解放されてホッとしているのは、本人だけではありません。家族や私自身も同様です。「良かったね」。それ以上伝える言葉はありませんでした。
目の前に楽な道が敷かれているのにもかかわらず、あえて厳しい道を選ぶというのは、思った以上に難しいものです。とは言え、就業経験のない学生が仕事を得ようとするとき、唯一のよりどころとなるのが、自分ならやれる!乗り越えられる!といった自己への自信です。そしてそれは、自らが乗り越えてきた困難を原資として育まれるものだと考えています。
今の世の中、一見、楽して成果が得られる(得られるような気がする)サービスや商品で溢れています。それを横目にみながら、回り道のような困難を選択すれば、貧乏くじを引いてしまったような気持ちになるでしょう。あえて険しい道を選ぶ学生は、稀だと言わざるを得ません。そして、そこには少なからず周囲の大人の意向が反映されています。
困難を選択する困難さは、これからさらに増していくでしょう。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント