第23回 単語化するコミュニケーション

 学生相手の仕事をしていながら、あまりに遅いのかもしれませんが、半年ほど前にやっとLINEデビューを果たしました。学生同士のコミュニケーション手段として、圧倒的なシェアを誇るSNSです。当然、数年前から気にはなっていました。しかし、学生とのやりとりも、仕事と同様にメールで困ることがなかったので、はじめる理由がなかったのです。

 きっかけは、複数の学生から、当たり前のようにLINEのIDを渡されたことです。ここまでインフラ化が進んでいるのなら、避けて通るわけにもいきません。「学生もすなるLINEといふものを、我もしてみむとてするなり」といった気分でしょうか。

 利用してみて、流行る理由がよく分かりました。圧倒的にラクなのです。しかもスピーディです。これは、短い言葉とスタンプのみでコミュニケーションが成り立つからでしょう。もともとLINEは、長文によるコミュニケーションを想定していません。入力スペースで目視できる文字数は、iphoneで24文字のみ。ワンセンテンスすら入りきらないような文字数です。ここでのコミュニケーションは“ワンフレーズ”、いや“単語”が基本といってよいでしょう。

 単語化した言葉の応酬で成り立っていくスピーディーなコミュニケーション。しかも、複雑な心理描写は、表情豊かなスタンプが補ってくれます。場合によっては、スタンプのみでもやりとりが成立する…。LINEは、多少の言語は使いつつも、表情や態度で気持ちを伝える非言語(ノンバーバル)コミュニケーションに近いものだと言えるでしょう。この点が、大きな魅力であり、受けている要因の1つだと感じます。

 便利なコミュニケーション手段は、その便利さゆえにリスクが生じます。個人的な感覚として危惧している点が2つほどあります。
1つは、コミュニケーション意欲の低下。そしてもう1つが、行動意欲の抑圧です。

 LINEのメリットを十二分に発揮できるのは、単語化したフレーズとスタンプで成立するコミュニケーションに限られます。それで伝えきれない事象は、主語と述語のある構造化された文章の組み合わせで、話すか、書くか、しなければなりません。それは、単語化したコミュニケーションより圧倒的に面倒です。

 そもそも、彼らの大学生活は、かなりの範囲がすでに単語のみで成立しています。大学の窓口に行けば、職員から「何か用ですか?」と声がかかります。学生は、用紙を差し出し、「これ…」と言いさえすれば良いのです。確認すべきことは、向こうがどんどん質問してくれます。学生は「はい」「いいえ」と返事をしていけば、問題なく用事はすんでしまいます。

 リアルな大学生活だけでなく、言語が基本のネット上でも、非言語(ノンバーバル)と単語化したコミュニケーションが可能になってきました。それで満足した生活が送れるのであれば、複雑な現実や、内面にある思考をわざわざ言語化して説明しようとは思いません。避けて通れる面倒は、避けるものです。言語を駆使したコミュニケーションを厭うようになる。これが私の考える「コミュニケーション意欲の低下」です。

もう1つの「行動意欲の抑圧」というのは、単語化したコミュニケーションが、彼らの行動範囲を限定してしまうことを意味します。

 英語が苦手な私は、おのずと行動範囲が制限されます。日本語が通じるエリアでしか、生活も仕事もできません。それと同じようなことが、彼らにおきていると感じるのです。単語化したコミュニケーションが通用するのは、親しい人間関係に限られます。その外に出るには、言語で自分の状況や意思を明確に伝える必要があります。これも彼らからすれば面倒なことでしょう。結果として、今の人間関係に留まる学生が増え、自分の行動範囲を広げようとしない。そんな気がします。

 実際、就職活動では、その傾向が見られます。先日、ある学生が「OBOG訪問は怖くてムリ」と言っていました。理由は、言葉遣いに自信がないからだそうです。OBOG訪問が有益なのは分かっていても、実行する学生は年々減り続けています。社会人にメールを送る、電話をする、直接会話をする、という行為は、学生にとって相当に高いハードルです。単語化したコミュニケーションに慣れすぎた彼らは、実社会との接触を避けたがる。そう感じています。

 就職活動が本格的に始まりました。これまで避けて通ってきた面倒なコミュニケーションと、否が応でも向き合わざるを得ません。言語は、耳で聞いて、その文脈のなかで意味や活用方法を身につけていくものです。就活生との交流では、できるだけ私から話しかけてみようと思います。しかし、そういう私自身も、コミュニケーションの単語化がすすんでいるのかもしれませんが…。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。