「結果とプロセス、どちらを重視しますか?」
そう聞かれたら、皆さんはどう答えますか。当然、個々の価値観や置かれている立場によって回答は違いますから、どちらが正解ということではありません。ただ、新卒採用に限って言えば、
プロセス重視で評価していることが多いのではないでしょうか。
厳密に言えば、「結果を出すために頑張ったプロセス」を評価しているのであり、結果を軽視しているわけではありません。ですが、比重としたら「結果<プロセス」という図式になるでしょう。
ここが人事と学生の大きなズレになります。つまり、学生は「結果>プロセス」だと認識しているのです。
「結果が出なければ、それまでのプロセスは全て無意味だと思っていた」
こんなコメントが学生の口から出るぐらい、彼らは結果を重視しています。そしてそれが、学生生活全体に影響を与えています。
●失敗する(=結果が得られない)可能性の高いことにはチャレンジしたがらない
ex. 興味のある単位の取りにくい授業より、興味はないが単位の取りやすい授業を好む
取得困難な資格よりも、確実に資格が取れるものを好む
●やった分の結果が確実に得られるものを好む
ex. 修了証が発行される講座やプログラムの人気が高い
●自己評価が客観的に分かる指標を欲しがる
ex. サークルやゼミで、あらゆる役割に名称(役職名)を付ける
彼らのこうした傾向は、生活実態調査にも表れていますし、私自身の肌感覚とも一致します。
確実性が高く、分かりやすい結果を好む。よく考えれば、これは学生ばかりにあてはまることではありません。私たち大人も同じでしょう。というか、順序が逆です。私たち大人が分かりやすい結果ばかりを重視するので、学生も「社会とはそういうものだ」と認識している。そう考えた方が自然です。そして、それを就職活動にもあてはめて考えているのです。
結果が伴わなくても、評価できるプロセスがあれば大丈夫。スゴイこと自慢のような、奇をてらったことを求めているわけではない。就活生に向けた人事からのアドバイスでは、そうした言葉をよく聞きます。しかし、そう言ったところで、インパクトある体験を語る学生に質問が集中しがちな現実もあります。地味なプロセスを、地味にしか語れなかった学生は、どうしても埋もれてしまいがちです。たぶん私たちも学生も、目に見えにくいものの価値や意味をとらえにくくなっているのでしょう。
だから、できるだけインパクトがあって分かりやすい結果を盛り込もうと、学生は自己PRを必死に考え出すのです。
「積極性が10点と出た○○診断テストの結果を書けば評価されますか?」
「役職はないけど、まとめ役をしていたのでリーダーって言っても大丈夫ですか?」
「ゼミの研修旅行で中国に行ったのですが、留学経験ありって書いてイイですか?」
少しずつ「盛り」がハデになってしまう学生もいます。自分の良心を秤にかけて、ギリギリの表現をしているのです。嬉々としてやっているわけではありません。もう少し普段着の自分でありたいと思っている学生がほとんどでしょう。しかし、それでは就職活動を勝ち抜き、内定という結果を得ることができない。だから、仕方なく、分かりやすく作り込まれた自己PRでアイコン化した自分を演じるのです。そして、澱のような疲れを少しずつ蓄積させていくのです。
春の内定出しのピークを過ぎて、いま内定を得ている学生は4割強という感じでしょうか。過半数の大学生は、まだ未内定です。就職活動を続けている学生の中には、就活疲れをため込んでいる学生も少なくありません。自分への自信も失い気味です。
これから選考で学生と会う方にお願いがあります。作り込まれた、ありがちなエピソードでも、少しだけ耳を傾けていただけませんか。そうすれば徐々に肩の力が抜けて、普段の姿が透けて見えるはずです。
「大切なものは目に見えないんだよ」
星の王子様を気取るわけではありませんが、見えにくい学生の良さを、採用活動を通じて見い出してもらえたら、より多くの学生が大人へと成長していけるでしょう。
- 掲載日:2013/06/20
第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
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- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
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- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
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- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
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- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
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- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
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- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
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キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント