第16回 “資格”にまつわる誤解

 「企業の建前なんじゃないですか?」「今はもっと重視されていると思います」。これは、あるアンケート結果を見せたときの学生の反応です。どんなアンケートかと言えば、選考で何を重視しているかを訊ねたものです。

<企業は選考で、何を重視しているのか(複数回答)>

(就職ジャーナル版『就職白書 2005』より)

 このアンケートは、7年ほど前の少し古いデータです。しかし、中途採用と異なり、新卒採用ではポテンシャルに軸足をおきます。ですから、人柄や熱意を重視するというのは、今でもほぼ違和感のない結果でしょう。そして、資格の有無はあまり気にしていないという点も、(一部の専門職採用をのぞいて)同様だと思います。

 しかしこの事実は、一部の学生にとって大きな衝撃となります。衝撃ほどではないにしても、資格を重視するのが約1割しかいないという事実に、多くの学生は驚くのです。就職を意識する時期になれば、「やっぱり、何か1つぐらい資格がないとマズイかな」といった会話が普通に聞かれる。それぐらい彼らにとって「資格」の存在は大きくなっています。そう言えば、ある採用担当者は「最近の学生の履歴書には、資格欄に何かしら書いてある」と、感嘆とも違和感ともとれる発言をしていました。

 学生の言葉を借りれば、これだけ世間で「資格は必要」「資格は取っておけ」と言われているのに、こんなにも軽視されているという事実は、にわかには信じがたいそうです。「人柄や熱意を重視すると言った方が、学生の好感が得られる。だからそう言っているだけ。本音では資格の1つも持っていない学生は評価されないはずだ」。こんなコメントをよせた学生もいました。社会人からすれば、ここまで資格に固執すること自体、にわかには信じがたいのではないでしょうか。

 学生は、就職活動に対する不安から、よりどころとなる“何か”を求めます。少しでも自分に自信が持てる“何か”がほしいのでしょう。そんなとき、「就職に有利」「仕事にすぐ活かせる」と書かれた広告が目に入れば、心惹かれるのは仕方のないことです。そのため、冒頭のアンケート結果を見せた後、「資格」も取得の動機や、そこまでのプロセスに人柄や熱意を感じさせることが可能!とフォローすることを忘れないようにしています。

 じつは最近、大学でも「資格」を後押しする傾向があります。エクステンションスクールとして、資格取得カリキュラムを大学内で開講しているのです。サークルにもゼミにも参加せず、無為な学生生活を過ごしてしまう。そんな学生が増えているため、資格取得にやりがいを見いだせれば、少しは有意義な時間が過ごせる。そんな意図から、「資格」をすすめているのです。少し穿った見方をすれば、大学の新たな収入源という考え方もできるのですが…。

 どっちにしろ、大学がすすめているわけです。学生からすれば「資格」に対する信頼性はより強固になっていきます。結果として、学生は社会人が考えているよりずっと大きな期待を「資格」に抱くのです。論拠もなく、まことしやかに流布する“資格有効説”もしくは“資格必須説”は、大学に広がる都市伝説のようなものなのかもしれません。

 じつは、都市伝説のように信じられている実社会への誤解は、他にもあります。シビアなノルマを課せられる営業職のイメージなどは、最もポピュラーな誤解の1つでしょう。デフォルメされたドラマのワンシーンなどを、そのまま信じてしまっている学生は意外と多いのです。また、実力主義といった言葉から、極端な競争社会をイメージしている学生もいます。就職活動もその延長と考え、自分が得た有益な情報は友人には知らせず、独占しようとする学生もいます。周囲はすべてライバル。こんな狭量な個人主義のままでは、組織全体のパフォーマンスを上げる次世代リーダーは育たないでしょう。

 そろそろ2014年卒の学生と接触する機会が増えてくる時期です。就活準備段階であるこの時期、学生はまだまだ驚くほど世間知らずです。自分が僅かに持っている実社会イメージだけで、ものごとを判断してしまっています。できるだけ早く都市伝説のような誤解を解いてあげてください。そして、誤解で理論武装された思考のその奥にある、彼らの人柄や熱意をじっくり見ていただければ幸いです。

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キャリアコンサルタント 平野恵子
キャリアコンサルタント 平野恵子

国立大学の教育学部卒業後、会社勤務を経て、現在キャリアコンサルタント(CCE,Inc.認定GCDF-Japan)。大学生や社会人などの若年層を中心としたキャリア支援を専門に活動している。また、人材会社の研究員として、就職活動に関する動向や意識調査をもとに、雑誌や専門誌への執筆も行う。