3月に新人が入社して、すでに2ヶ月以上が過ぎました。
新しい環境にも慣れ、四苦八苦しながらも一生懸命に仕事を覚えている頃でしょう。その一方で、漠然とした違和感を感じたり、「この仕事に向いていないのでは…」と不安を感じはじめたりする頃でもあります。
よく知られた「七五三現象」という若年者の早期離職現象があります。
中卒では7割が、高卒で5割、大卒では3割が3年以内に辞めるというものです。大学生の就活について語られる際、この「3年で3割」というフレーズはよく使われます。
当然ですが、この「3年で3割」は、ネガティブな意味合いに使われます。
3年以内という早期離職の主な要因が、学生側の未熟さ(例えば、企業理解・仕事理解の不足、働くことへの覚悟のなさ、ストレス耐性の低さなど)にあると認識されているからでしょう。
- 掲載日:2012/06/08
第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
しかし、本当にそうなのでしょうか。
確かに、学生相談で彼らの話を聞くと、幼さや甘さを実感することは多々あります。しかし、程度の差こそあれ、いつの時代も学生は未熟なものです。むかしと比べて、未熟レベルは深刻化しているのでしょうか。
1987年以降の大卒3年以内の離職率と、求人倍率をグラフ化してみました。
確かに90年代後半以降、離職率は35%前後が続いています。90年代前半と比べて、高止まりしていると言えるでしょう。

(グラフ)
資料出所
・離職率:厚生労働省職業安定局集計
・求人倍率:ワークス研究所
4人に1人が大学生だった90年代前半。それと比べて、2人に1人が大学生の今は、人物像の多様化が進んでいます。保有能力の種類やレベル、求める職業観など、あらゆるものの振れ幅が大きいのです。
大学生全体が未熟になったというより、大学生と呼ばれる若者の中に、未熟な若者も数多く存在するようになったと考えるべきでしょう。
また、学生とは関係のない相関性も見てとれます。求人倍率との関係です。
1991年を境に求人倍率が低下し、それにともない離職率が徐々に高まっています。求人倍率が低調気味の2000年代は、35%前後に高止まり。「2007年問題」と呼ばれた団塊世代の大量退職によって、2.14倍という高い求人倍率になった2008年-2009年は、離職率が低下しています。その後、リーマンショックで1.62倍まで落ち込むと、(1年目のみの限定的なデータではありますが)離職率は再び上昇傾向となっています。
離職率の変化を見ると、学生の多様化も要因の1つではありますが、就活年度の求人倍率に大きく左右されていることが分かります。求人倍率が高いと早期離職率は低く抑えられ、求人倍率が低いと早期離職は高くなる、というわけです。
離職理由では、企業と学生の「ミスマッチ」を指摘する声が多くあります。求人倍率が高ければ、学生は多くの選択肢の中から企業を選ぶことができます。そのため、結果的に「ミスマッチ」が解消され、離職率が低くなるのでしょう。
この「ミスマッチ」解消のために、大学でもさまざまな取り組みが行われています。しかし、どんなにマッチング精度を高めても、3割程度の早期離職はなくならないのではないか。そう考えています。
新卒採用は、仕事経験のない求職者(学生)を仕事能力で評価するという矛盾した採用です。彼らが語る言葉や態度からさまざまなサイン読み取り、仕事能力の有無をイメージし、判断しなくてはなりません。
それは、学生側にも言えることです。どれだけ入念に企業を調べたとしても、入社後のリアリティショックを完璧に回避することは難しいでしょう。
入社後、互いの価値観や能力を確認し合う一定期間に、一定数の離職者が発生する。それは、新卒採用の構造的宿命のように思います。それに加えて、求人倍率の影響も受けるのです。「ミスマッチ」解消は重要なことですが、ある程度は不可避であることを容認し、それを織り込み済みで採用や育成を考える。そんな姿勢も必要かもしれません。
避けられる離職は避けたいものです。ちょっとした仕事のつまずきで退職を考えたり、仕事を覚える前に「向いていない」などと言い出したりする新人には、ちゃんと叱り、引き留める必要もあるでしょう。
しかし、避けられない離職もあるのです。
20代はさまざまなことに悩みながら、社会(企業)の中に自分の居場所を作っていく時期です。全ての早期離職を否定的に受け止めるのではなく、20代のキャリア探索を見守るような社会であっても良いのかもしれません。
バックナンバー
- 第82回 「企業の思惑」に適応した「就活生の変化」
- 第81回 学生を社会人へと育成する専門職の必要性
- 第80回 “ガクチカ”と“ブラックインターン”の関係
- 第79回 就職活動が学生を成長させる理由
- 第78回 育成プロセスの見直しが必要だと考える理由
- 第77回 学生が求める“心地よい働き方”とは
- 第76回 指示的に「主体性」を育成するジレンマ
- 第75回 就職活動の受験化について考える
- 第74回 マスクを外すタイミングを考える
- 第73回 新入社員の大切な仕事
- 第72回 学生が望むキャリアの多様性
- 第71回 今どきの就活アドバイスが学生に与える影響
- 第70回 “人それぞれ”な就職活動
- 第69回 オンライン授業の出席率が高い理由
- 第68回「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に学業「ガクチカ」も加えませんか
- 第67回 新卒採用の今昔~変わらないものを考える~
- 第66回 「わきまえた行動」を求めてしまう私たち
- 第65回 大学生活のオンライン化について思うこと
- 第64回 就活支援サービスの功罪
- 第63回 新しいコミュニケーションに適応していく若者
- 第62回 対面で映える学生、WEBで光る学生
- 第61回 新入社員の矛盾した2つの想い
- 第60回 面接で「第1志望です」と答える理由
- 第59回 「退職代行サービス」を利用する心理
- 第58回 SNSに晒されるというコミュニケーションリスク
- 第57回 「がんばる」ことが分からない
- 第56回 レイバーでない「働く」体験をインターンシップで!
- 第55回 子どもの気遣い・大人の気遣い
- 第54回 大学入学からはじめる家庭内キャリア教育
- 第53回 「知人」という弱い紐帯の重要性
- 第52回 将来の見通しの立て方
- 第51回 主体的に「自己表現しない」という選択
- 第50回 学生から社会人への移行が難しくなった理由
- 第49回 受け身の合理性
- 第48回 売り手市場における就活生の不安や悩み
- 第47回 学業で自己PRする難しさと質問内容
- 第46回 自分らしい社会人でいるために必要なこと
- 第45回 「自己分析」が好きになれない理由
- 第44回 無反応でも話しつづけられる学生
- 第43回 “コミュ力”と“トーク力”ばかりが重視される理由
- 第42回 「承認」することの効果
- 第41回 学生と一緒に「分かる」を「できる」に
- 第40回 努力は報われると考える理由
- 第39回 まだ見せていないポテンシャル
- 第38回 彼がマスクをする理由
- 第37回 クセと個性の違い
- 第36回 「好き」というエネルギー活用
- 第35回 今どき学生の出会い事情
- 第34回 様変わりしている就職活動/1990年 vs 2015年
- 第33回 売り手市場が学生に与えるマイナスの影響
- 第32回 日本の学生、アメリカの学生
- 第31回 「ジャンケン」と「多数決」の話し合い
- 第30回 学生の誤字に関するあれこれ
- 第29回 学生の「自己責任」論にみる実社会イメージ
- 第28回 成熟した”素直さ”
- 第27回 「分かり合えない」のが普通
- 第26回 就活における負のスパイラル
- 第25回 悩めない学生
- 第24回 困難を選択する困難さ
- 第23回 単語化するコミュニケーション
- 第22回 高大接続から考える学生気質
- 第21回 歴史が繰りかえす「大学生」という若者論争
- 第20回 結果とプロセス、どちらを重視?
- 第19回 「教えすぎる」「待てなさすぎる」という弊害
- 第18回 直木賞作品『何者』に見る学生コミュニケーション
- 第17回 リクルートスーツが「黒」で統一されている理由
- 第16回 “資格”にまつわる誤解
- 第15回 若者言葉にみる共感コミュニケーション
- 第14回 「3年で3割」という離職率をどう考える
- 第13回 学生から社会人への乗り越えかた
- 第12回 エントリーシートに見る今どきの学生事情
- 第11回 コミュニケーション能力を評価する難しさ
- 第10回 内定者の期待値調整
- 第9回 「大学生」という言葉のズレ
- 第8回 新米就活生の不安
- 第7回 学生から社会人への育て方
- 第6回 今どき学生の企業選び
- 第5回 採用時期の繰り下げ問題と学生の意識
- 第4回 インターンシップのひずみ
- 第3回 不確実さを避ける学生
- 第2回 面接で泣く男子学生をどう思いますか?
- 第1回 「当たり前」のギャップ~大学生の消費者意識~
バックナンバーを全て表示

キャリアコンサルタント 平野恵子
大学低学年から新入社員までの若年層キャリアを専門とする。
大学生のキャリア・就職支援に直接関わりつつ、就職活動・採用活動のデータ分析を
基に、雑誌や専門誌への執筆などを行う。
国家資格 キャリアコンサルタント